第254話 前略、確執と友人と
「ところでセツナ、先に一つ聞いておきたいのだが……」
さて何から話そうか?
そんな事を考えてたら、先んじてケイから質問があるらしい。
「なに?」
「君の方こそなぜこんなところにいるか、だ」
「………………観光?」
……しまった。
あまりに不意打ちな質問にアホみたいな受け答えをしちゃったじゃないか、どうしようコレめちゃくちゃ怪しいじゃん。
こんな島の周りは嵐、中に入れば迷宮のような森。
そんなおかしな場所に、観光でこれるもんか。
「…………そうか……観光か」
納得してるっぽいーー!?
この男、メガネかけてるクセに、偉そうな肩書きのクセにちょっと抜けてるっていうか……
「大方、観光中に船が難破しこの島に流れ着いたのだろう……冒険好きなのは結構な事だが、年相応の落ち着きは持っておくといい」
おい変な方向で納得するなよ、このヤロウ。
まいったなぁ、無駄に情報を流すつもりはなかったんだけど……でも仕方ないここはあたしの名誉の為に……
「えぇ、全くです」
後ろから、あたしにだけ聞こえるくらいの声量。
なんてこった、敵が三人に増えてしまった。
まだ若干怖いから振り返れないけど、リリアンも少し落ち着いてくれたみたい。
「…………まぁ、そんな感じで」
言いたい事は、言いたい事はたくさんあるのですが。
まぁ、ここで余計な事を言うのはやぶ蛇ってやつだ。不満は止まらないけど、黙っておくとしよう。
…………不満は止まらないんだけどぉ!
「それで、二人でここにいる理由なんだけど……」
「………………」
「んん?聞いてる?」
今……明らかに目を逸した。
答えづらい……ってことだよね。
「…………あぁ、すまない。なんの話だったかな」
「んー、だから二人だけでここにいる理由なんだけど」
「…………」
「おーい?」
「…………俺達がここに来た理由、だったかな?」
んー?なんか微妙にニュアンス的なものが違う気が……
「まぁ、いっか。じゃあそれを聞かせてよ」
「そんなもの、仕事に決まっているだろう」
なんか、急に元気になったね。
にしても仕事、か……詳しくは分からないけど、ここでなにも知らないって言えば完全に部外者になっちゃう。
悪く言うようでリリアンには悪いけど……なんとしてもこの話に介入しなくちゃね。
「それって……ルキナさん、のこと?」
「ほう、いや……ここに流れ着き世話になっているなら知っていて当然か」
やっぱり、正解だった。
正直なところ、そこまで危険な人には見えなかった。会ってみたら人でなしどころか、なかなかに人間味のある人だったんだけど……
怪しい。
決定的な情報があるわけじゃないけど、状況的に。
あとあたしから見たら、あたしの世界に詳しいところもなんとなく怪しい。
「この島も、公式に認められた領地ではない。それに彼女には様々な容疑がかかっている」
「容疑、ね……例えば?」
「そうだな……代表的なものでも……」
懐から取り出したのは小さな手帳。ケイはそれをパラパラと捲ってから読み上げる。
殺人、危険物や危険な生物の製造。他にも小難しい罪状がつらつらと。
どうしたもんか、そんな事やってない。そう言い切れない。
「───と、ザッとあげただけでもこれだけの容疑だ。そこでだ……我らが組織の結論として、拘束と真実の確認を決行する」
ふぅ、と言い終わると同時にため息一つ。
らしくない、今までの毅然とした態度からため息だなんて。それに……
「…………の割にはさ、なんだか乗り気じゃないみたいだね」
なにを馬鹿な。そう言われるかもしれないけど……
ちょっと……いやかなり気になる。
「そんなの……仕事だとしても気乗りしないのは当たり前だろう」
「そうだよね…………ん?ん、ん!?」
あっれぇ……?なんか思ってたのと違う答えが……
「コチラとしても上司の唐突な命令で、こんな大規模な移動……遭難にも似た船旅、迷宮の如き森…………む、なんだその顔は」
「…………いや、遭難……したの?」
「………………」
「語るに落ちたな、メガネ」
あーー…………なるほど。
だから二人だったんだ、なるほどなるほど。
「……いろいろあったが。今朝方、嵐と森の迷宮が消えたおかげで先んじていた船と合流し、森を抜ける事ができた」
「嵐と……森の迷宮が?なくなったの?」
「あぁ、どうやら結界が損傷したようだな」
結界の損傷………………あ。
「……ヒバナさん、でしょうか」
「……だね」
リリアンと二人だけで結論にたどり着く。
昨日だが一昨日だかにヒバナが壊した……らしい。あの時の魔術で。
すぐに直るわよ。なんて言ってたけど……普通に問題に発展してんじゃん!!!
やっぱりなんとかして誤魔化さなきゃ。今日帰ってもらえたら明日には森は迷宮に戻るはずだし。
「なんにせよ、コチラは上司の個人的な確執で動いている。もちろん手を抜くつもりはないが……」
そこに正義などあるはずがない。
まるで吐き捨てるように、そう言い終える。
「正義、ねぇ……」
あたしの口からもその単語がこぼれ落ちる。
あぁなんて言うか……苦手な言葉。まるで時浦刹那の対義語みたいな感じがしちゃって。
「それで、その個人的な確執ってやつも教えてくれたらり?」
しないか。
分かってるんだけどさ、ちょっと頭がこんがらがる。
「…………人形とケリをつける。いろいろと理由を並べていたが、ふと呟いたコレがおそらく真の理由だろう」
「今度は人形ね……」
教えてくれるんだとかいろいろ言いたい事はあるけどさ。
あぁ、嫌な言葉だよ。本人が目の前にいるならいろいろ文句がいいたいくらいには。
「ケイにもさ、そう……見える?」
余計な事を言ってるのは分かってる。
あたしがただ流れ着いたわけじゃないのがバレるかも、それどころか来訪者だってことも。
それにもう分かってるんだろうな。
その話にでてきた人形がリリアンだってことも。
「ふむ…………やはりその少女が団長のいう人形か」
「うん。友達なんだよ、もしかしたらそれ以上かも」
別に隠すことじゃない、なんなら恩人だし。
それにあたしは知っている。
「彼女を人形と呼ぶには無理がある。そんな事は一目見れば分かるだろう」
良かったよ、やっぱりあたしは知っていた。
この世界が優しい事を、根っからの悪人なんていないそんな温かい世界だってことを。
なら大丈夫。
血なんて流れないハッピーエンドは難しくない。
「そっか……ありがと」
「団長は人の上に立つのは向いているだが……少々人格に問題がある。あまり言葉を真に受けてはいけない」
大丈夫、この島の領主も人でなしらしいから。
「ひとまず、俺……私達は一度戻らせてもらおう」
「全軍撤退?」
「なにをバカな、次はおそらく戦いになる」
「…………正義がないんじゃなかったっけ」
一度帰らせれば勝ち……なのは分かってるんだけど。
戦いになる。その意志があるのは嫌だ。
「今はない。だから確かめるんだ」
踵を返す。またちょっと届かない、そんな感覚。
「あぁそうだ、セツナ」
「……ん」
顔は向けないまま、少し遠ざかった二人の背中。
俯きぎみのあたしの顔があがる。
「一応、発言や声で分かってはいた。だがどうしても服装のせいでほんの少しだけ謎だったのだが……やはり君も女性だったようだな」
「………………は?」
「いや、良かった。どうしても最後の一割が埋まらなかったからな」
「はぁ!?」
ん……?んーー???
なーーーにを言ってんだこの阿呆。
「もし間違ってたら眼鏡の買い替えが必要になるところだった」
「今すぐ叩き割っていいかな!?」
なんだあと一割って、せめて数%でしょ!
「まぁそうゆうわけだ、無関係な君はできることなら今日中にこの島から出るといい」
どいゆうわけだ!
急にとんでもない爆弾を投下された気分、納得いかない。
「望むなら今から我々の船に案内するが……」
納得はいかないけど……無関係だから帰れか……
「ちょっと難しいかな、ありがたい申し出だけどね」
「……なら言い方を変えよう、帰ってくれ」
「んー……お偉いさんの命令ってやつ?」
「いいや」
ようやく目を合わせたその顔はなんとも言えない表情で。
「友人としてのお願いだ。巻き込まない保証はないのだから」
「…………うん、ありがと」
良い言葉だ、人から聞く友人って言葉はきっと良い言葉。
だから断るのがこんなにも……でも。
「それでもごめん。あたしもまだやることがあるんだよ」
「……そうか」
今は友達として、悲しそうな顔を浮かべてくれる。
だからせめて、この件が結界の復活で有耶無耶になってくれますように。
「せめて怪我はしないようにするよ」
そんな口約束だけして、二人の背中を見送ることにした。
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