第248話 前略、関係と影響と
「遅い」
「へぇ?誰か待ってるの?」
「あんたを待ってたのよ!」
おぉ、怖い怖い。領地の狂犬が吠えている。
ナノサイズの器とトールでラージな態度がトレードマークのヒバナは、イライラとした態度を隠そうともしない。
「いったいこれはどっちが悪いの?呼びに行ったアホが悪いのか、それもとゆっくり歩いてきたアホが悪いのかしら……」
そこで踵を鳴らしながらプリプリと怒ってるアホが悪いのです。
よく見ると、足元の絨毯は黒く焦げている。人の家の家具だし、いいっちゃいいんだけど……後始末をするメイドさんが可愛そう。
そうやって仕事ばっかり増やすから、メイドさんに嫌われて窓から捨てられるんだよ。
「……まぁいいわ。かなり待ったけど、それでも急いで来たなら許してあげる」
「うん、(リリアンを探しながら)急いで来たよ」
「急いでないじゃない!なめてんの!?」
しまった口に出てた。
これじゃあ乗り気じゃなかったのがバレてしまう。
「でも、もしリリを探してるんだったらそれは裏目にでたわね」
「…………?」
「リリを探してるんだったらそれは裏目にでたわね!」
なんで二回言ったの?
「…………なんで二回言ったの?」
そのドヤッ、とした表情のまま動かないヒバナ。
思ってるだけじゃ、会話もなにも先には進まない。まるで気乗りはしないけど、聞いてみることにした。
「セツナがヒバナの優しさを無下にして、リリなんかを優先するから結局上手くいかないの。その愚かさを教えてあげるためよ、せっかく二人のお願いを叶えてあげようとしてるのに」
…………まぁ、いろいろ言いたいことはあるんだけど。
今はそれより聞きたいことを優先するべきかな。殺し合おうってこともないだろうし、あるなら場所は屋外になるだろうからね。
だからきっとつまらない用事……だとは思うんだけどさ。
「二人のお願いってどうゆうこと?」
呼び出されたあたしがその一人。
だけどもう一人がよく分からない、そもそもヒバナにお願いなんてしたっけ…………?
「アレは良かったわねぇ、リリとセツナが二人してヒバナの偉大さを理解していて……」
「……ふあぁーあ……」
「あんた徹底的に話聞かないわね……」
そりゃまぁ……あんまり興味ないからね。
「……なんか寝不足でね、あんまり頭が働かない」
「あらそうなの?でもヒバナも朝弱いから分かるわ…………睡眠不足はお肌にも悪いから気をつけなさい」
実際には寝不足っていうかなんていうか……
嫌な予感がまだ拭えない。それどころか、ここに近づくにつれて大きくなっている。
だからできるだけ遠回りをしたかった。
どうせ気の所為なんだろうけど、それでも。
「その点リリは良いわよね。朝の気だるさとは無縁よ、多分。完全に眠れないのは勘弁だけど」
「…………確かに。だからできる限り夜ふかしに付き合ってあげたいんだけどね」
早く寝ろ。リリアンの方からやんわりと言われる。
それにどうやらあたしは夜ふかしそのものが、あんまり得意じゃないらしい。なんだかんだで早めに寝ちゃう。
「分かる、とっても分かるわ」
「分かるの?」
「もちろん分かるわ。前にヒバナの部屋がちょっと燃え…………なぜか爆発した時。ほらリリの部屋、広いでしょ?入り浸ってたのよ、汚して荒らして占領したわ」
うーーーーわ、すっっっごい迷惑。燃えても爆発でもどっちでもいいし。
しかもなんでこんなに誇らしげに語るんだろ。そのままリリアンに怒られて軽く叩かれればいいのに。
「それで?」
「引っ叩かれて二部屋ほどぶち抜いたわねぇ…………あんなに話し相手になってあげたのに。酷いわ」
あたしが言うのもなんだけど、ヒバナも頑丈だよね。
ご先祖様があたしの世界の人だからなのかな?
「ヒバナが一方的に話してただけじゃなくて?」
「…………もしかして、だからあの頃のリリは口癖のように、煩わしい。って言ってたのかしら?」
良かったね、原因が分かって。
「仕方ないじゃない。あの頃はアイツが死んで、ノアも出ていって、ルキナとリリの仲も悪くなってヒバナも暇だったのよ」
「関係が……悪くなった?」
あんまり良くない考えだけど、昔から悪かった……というか、正確には良い関係だった頃があると思わなかった。
「そうそう、リリってルキナが何かの肉から作ったでしょ?ルキナも最初の方は、リリを娘だって言ってたのよ」
「ちょ、ちょっと待って」
いろいろあるけど……本当に不意打ちでいろいろあるんだけど。
まぁ、もう今更その肉から人をっていうのにはツッコまないとして。
何かの肉?薄々思ってたけど、ヒバナはリリアンがアオノさんを元に生まれた事を知らない……?
リリアンが嘘をつく必要はないし、その身体にアオノさん本人の意識が残ってる以上勘違いもない。
ヒバナが何かあたしを騙そうとしてる可能性と十分にあるけど…………なんとなくそんな気配はない。
師匠とリリアンほどじゃないけど、嘘を見破るのはそんなに苦手じゃない。
あたしは主に表情で判断する。ヒバナは基本的に嘘をつかない、話せない事は話せない、そうハッキリと言うタイプ。
「なによ急に、大丈夫?」
「……大丈夫、ごめん続けて」
だとしたらルキナさんとアオノさんの関係がよく分からない。
会った時に鎌かけでもしてみようか、いつ会うかは分からないけど。
「後はまぁ……よく分からないわ。急にリリを嫌って、昔みたいに何かを初めて今に至るの」
「なにかって……なに?」
「さぁ?興味ないもの。なんとなくは知ってるけど」
「なんとなくで良いよ、教えて」
なんとなくでもなんとはなくでも、それてこそなんでもいいんだけど。
まぁ、あたしもなんとなく分かってるんだけど。
「セツナの世界について知りたいらしいわよ。ヒバナ達が四人いた時はやめてたけど」
…………なるほどね。
分からない事はまだあるけど、なんとなく分かった。リリアンを嫌うことに繋がる理由はまだ分からないけど。
「ねぅ、ヒバナ。最後に聞いてもいい?」
「別に構わないわよ?」
これは別に何かの確認とか、探りを入れるとかじゃなくて……ただ、単純にあたしが聞きたいこと。
「どうして……どうしてヒバナは、まだルキナさんといるの?」
便利だとか、居心地が良いからいる。そんな理由じゃないと思う…………いや、そんな理由じゃない。
普通に怪しいじゃん。多分だけど、師匠だってアオノさんの死にルキナさんが関わってるから離れたんじゃないかな。
ヒバナはアホだけど、そこまで頭が回らないわけじゃない。
「………………ほら、ルキナといると便利じゃない?」
「…………」
「それにルキナは正しいわ、基本的に。一緒にいれば間違いがないじゃない?」
「…………」
「はぁ……分かったわよ。誰にも言うんじゃないわよ」
あたしもここは引けない。
ここだけは聞いておかなきゃいけない。
「ヒバナがいなくなったら、誰がルキナとお話するのよ。リリを嫌っていて、シオンは昔を知らなくて、ノアが出ていったんだから」
柄にもない。そんな言葉も表情が語る。
真面目な……というより小恥ずかしい。そんな声のトーン。
「一人くらい近くにいてあげなきゃダメじゃない。一人くらい、泣きたい時に近くにいてあげなきゃダメじゃない」
…………認めたくはないんだけど。
ほんの少し、ごくごく少量であっても……それはリリアンに良い影響を与えてたのかもしれない。
「だって家族なんでしょ?寄せ集めでも、離れ離れでも」
「ん…………そうだよね」
悪くない、悪くない。良い言葉だ。
聞けて良かった。そう思ってる人がいるなら、本当にあたしがこの問題について口を出す必要はないのかもしれない。
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