第247話 前略、家庭の事情と呼び出しと

「ん、じゃあ後はよろしくね」


「!!」


 あたしが寝てた間にいろいろ変わってたキッチン。

 小さなメイドさん達が仕事できるように台とかが用意されていて、連携しながら働く様子はなかなかにエンターテイメント。


 いつもの元気なメイドさん…………いや本当に、名前ないって不便だな。

 とにかく後は引き継いで、あたしはキッチンから出る。


 リリアンに名前でもつけてもらおうかな……メイドさん達もリリアンを慕ってるみたいだし、名付けるのもアリだと思う。


「リリアン見なかった?」


「……?……!!」


 見てない……か。まぁ、まだ朝も早いしね。

 それなら部屋にいるのかな。次の目的地は決まった、お礼を言って廊下を歩く。


「リリアンの部屋、めちゃくちゃ広いんだよなぁ」


 個人的には広すぎると落ち着かない、だから羨ましいとは思わないけど広いと便利だよね。

 友達とか呼んで泊まるのとか、遊ぶのとか、いろいろできるし。


 …………まぁ、コッチだとその用途で使うには微妙なところだけどさ。本人的にも。


「にしても広い」


 本人も持て余すくらいには広い。

 まだ全部の部屋を見たわけじゃないけど、個人に与えられた部屋の中では、他の部屋と比べてぶっちぎりに広い。


 最初にリリアンに、私室です。って案内された時は、その広さに驚いた。

 やけに家具も揃ってるし……なんというか、リリアンのイメージとは少し離れたイメージ。もっと物が少ない気がしてたもんだから。


「どっちかっていえば、そうゆうのはヒバナのイメージだったよ」


 無駄に広くて、使わないものに溢れてて。そんなイメージ。

 実際のヒバナの部屋はなかなかに質素、多分だけどあんまり部屋にいないんだろうな。そんな印象の部屋。


「おぉ、セツナ」


「ん」


 角を曲がれば鉢合わせ。


「良かった良かった。セツナ、とりあえずおはよう、だ」


「あ、一番部屋がゴチャゴチャしてる人」


「………………」 


「ごめんごめん、おはよう。シオン」


 みんなの部屋について考えてたから、昨日の事を思い出しちゃった。

 シオンの部屋は物が多かった、銃とそのパーツとか。汚れているってか物が多い。部屋の要領をオーバーしてる。


 …………帰ったら自分の部屋の掃除しようかな。

 あたしの部屋も物が少ないからまともに見えるけど、少しゴチャついてる。


「リリと同じくらいの娘からの言葉は……なかなか堪えるな……」


「いや……ごめんって、軽い冗談のつもりだったんだけど…………あ!朝ご飯!できてるよ!」


 無理矢理にでも話題を変える。

 年上の人間に対する労りというのが足りてなかったかも。


「今日はあたしも手伝ったんだよ」


「お、そいつは期待ができる。メイド達も頑張っているけど、さすがに二、三日じゃあちょいとな」


 困ったように笑いながら、食事の話。

 前々から話してて思ってたけど、シオンは食にはこだわりがあるのかもしれない。


「そういえばさ、ルキナさんに会った?」


「姉さんに?いや……今日はまだ会ってないな、なにかあったか?」


 ………………


「……いや、あたしも一応お客さんだからさ。挨拶ぐらいはしとかないとね。なかなか会えなくてさ」


「そういえばリリも似たような事を言ってたな……一応、セツナが来たことやリリが帰ってきた事は伝わってるらしい」


「…………リリアンに直接言ってあげればいいのに」


「まぁそう言うな、新参者の俺が言うのもアレだが、姉さんも姉さんでいろいろあるんだろ。家庭の事情ってやつさ」


 家庭の事情、ねぇ……

 なんともスッキリしない、スッキリしたくない。


「……ルキナさんってどんな人?」

 

 そういえばまだシオンには聞いてなかった。


「姉さんはまぁ…………人でなし……とまでは言わないがあまり他の人間に興味がない、ってとこかな」


「あんまりマトモな人じゃなさそうだよ、話を聞く限りね」


「漂流者の俺に仕事をくれたり、昔はもっと人当たりが良かったとは聞くから、根は悪い人じゃないとは思うけどな」


「その優しさも、見せてくれなきゃ分からないけどね」


「違いない」


 みんな、ルキナさんの事を嫌ってはないんだよね。

 いろいろ言うけど、慕われてる。でもなんだかなぁ……


「あぁ、そういえばセツナが寝てる間に一回会ったな」


「んー、どんな話したの?」


「屋敷が騒がしいって言うから、その話をな。セツナやメイドが作った料理も勧めてはみたんだが……」


「みたんだが……?」


 少し言いづらそう。

 その反応から、あまり良い返答はなかったんだろうな。


「食事に時間を使う気はないそうだ。なんの為の完全栄養食だ、怒られたよ」


 肩をすくめて、シオンの言葉は本当に残念そうだ。

 

「時間がかかっても、完全な栄養じゃなくても。あの劇物よりはみんなでご飯を食べたいけどね、あたしは」

 

「俺もそう思う。悪くは思わないでくれ、そうゆう人なんだよ姉さんは」


 まぁ、それはいいんだけどさ。

 もうちょっとこう……リリアンと過ごしてあげてもいいのにさ。


「まぁ、いいや。そういえばリリアン見なかった?ご飯もできてるし、探してるんだけど」


「…………あ」


「あ?」


「すまない、セツナ。ヒバナが呼んでいたのを伝え忘れてた」


「…………ヒバナかぁ」


 どうせろくでもない用事なんだろうな。

 ヒバナなんて珍しくないんだから、後回しにしてもいいんだけど……


「一つ上の階の角の部屋の前でふんぞり返ってるから、行ってくれないか?……というより頼む、八つ当たりで焦がされる」


「…………りょーかいだよ」


 行きたくないな、できることなら行きたくないな。基本的には面倒事の呼び出しは無視したい。

 まだほんの数日の付き合いだけど、奴がトラブルを持ってくるのは分かる。


 行かないなら行かないで、壁とか床をぶち破ってあたしを呼ぶんだろうな。

 アホに力を持たせてはいけない、この世界を作った奴はそんな事も分からないらしい。


「そういやセツナ、俺の名前なんだが……」


「今更だよ、諦めな」


 大体、みんな呼んでるんだし。

 片腹痛い、もっとキラキラした名前になってから言ってくれ。


「行きますかぁ……」


 さて気を取り直して…………直す必要もないか。

 ぼんやりトボトボ、ゆっくりと階段に向かうことにした。

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