第240話 前略、昔話とニセモノと

「……もう外にでたからもう今更にはなるんだが」


 気温的には低いけど日差しは眩しい、雲一つない空からの光は体内時計を整えてくれる…………だとしてもやっぱりちょっと寒いかも、一枚羽織ろうかな。

 

「本当に俺も行くのか?必要か?もうそんな無理をする歳じゃないんだが……」


「うるさいわね、黙ってついてきなさいよ」


 気分はまるでピクニック。

 町の人の話を聞きながら、森に向かって四人で散策。


「そりゃ雑用ならまだしも、戦闘ってのはなぁ……」


「シオン、あんたルキナの護衛として雇われてるくらいなんだから強いんでしょ?だったら一度くらい見せてみなさいよ」


「…………姐さんには、流れ着いたところを拾ってもらった恩がある。だからこそ姐さんの島で勝手をするのも……って話なんだよ、ヒバナ」


 そうゆうもんかなぁ……そうゆうもんか。

 ぼんやりと二人の話を聞きながら、最後尾を歩く。


「なにを言うのです」


 先頭からリリアンの声。

 ピタッ、と止まって。クルッ、と振り返り。ジャラッ、と音が響く。


「母が姿を見せない今、町の治安を守るのはその家族である私達の仕事に違いありません。えぇ、違いありません」


 リリアン、楽しそうだなぁ。

 あたしも戻ったら家族となんかしようかな、手始めに最近思春期真っ只中の妹にうざ絡みといこう。


「……まぁそれもそうか、姐さんは人間的にはアレな部分もあるが……あれで意外と町の人間を大事にしている」


「そもそも人間じゃないわよ、化け物よ化け物。それなりに長い付き合いだけど、アイツやルキナを同じ生き物だと思ったことないわ」


「そういやヒバナは昔の事を知ってたか。姐さんの昔話……ちょいと興味があるな」


「私もです」


「とは言ってもマトモな話なんかないわよ?とくにアイツが来てからなんて酷いったらないわ」


「俄然興味が湧きました、えぇ」


「仕方ないわね、仕方ないわ。少しだけ話してあげる」


 多分、悪くない。

 まだなにもしてないけど、きっといい方向に向かってる。


「そうね……あれは四人揃った時……まだミナトマチにいた時のこと。自然発生した害獣、オオミドリクイグルイジカをいろいろあっていろいろした話……」


 となるとあたしの仕事はもうない。

 寂しいしちょっと名残惜しいけど、後はルキナさんに挨拶して帰るだけ、か。


「セツナ」


「…………ん?どうしたのリリアン」


 ちょっとぼんやり歩きすぎたかな、先頭のリリアンが心配そうにあたしを見ている。

 別に口を出すこともないから、最後尾の警備に勤しんでただけなんだけど。


「何か気になることでもあるのかと」


「大丈夫、ちゃんと聞いてたよ。オオミドリクイクイジカにヒバナが齧られた話だよね」


「そんな話はしてないし微妙に違うわ。大方、この面倒な行進から逃げ出そうなんて考えてたんでしょうけど」


「ん、ごめんね。ヒバナのマヌケな背中を晒してたから、いつぶっ刺そうかを考えてさ」


「あんた本気でやりそうだから前歩きなさい!」


「なるほど」


「リリもなるほどじゃないわよ!?」


 まぁ、いいや。

 家族じゃなくても、友達代表として近くにいるのも悪いものじゃない。多分、きっと。





「まぁ……聴き込みも歩き回りも終えたわけだが……」


 一、二時間くらいかな、聞き込みをしながらフラフラと。

 ちょっと人助けと買い食いしながやフラフラと。


「特に得られるものもなかったけどね」


 見た人、見てない人。見たとしても魔物だと言う人、見間違いだと言う人。

 魔物だとしても大きかったと言う人、小さかったと言う人。証言は安定しなかった。


「そんな生き物いないわ、結局見間違いなのよ」


「人間ってのは思い込みで枯れ木が魔物に見えちまうからなぁ、仕方もないさ」


 それもそう、個人的には少し気になるけど……

 町の人もそれほど重要視してるようには思えない、だったらまだ様子見でもいいのかもしれない。


「そうですか……森の方も調査したかったのですが……」


 撤収ムードな二人とは対照的に、リリアンはまだ少し納得がいかないみたい。

 まぁ、気持ちは分かるけど。大半の人が気にしてなくても、不安がる人がいるってのも事実だし。


 さて、どうしたもんかな。

 このままリリアンの好きにさせたら、いつまでも終わらない。かといって一人で行かせたらいつ帰ってくるかも分からない。


 なにかいい落とし所は……


「…………じゃあ森にはあたしが行こうかな、軽く見回ってくるよ」


 気になるのはあたしもだし、何故かは分からないけどもうこの森であたしは迷わない。


「セツナが一人で、ですか……」


「む、なんか信用がなさそうな感じ」


「はい、前科があるので」


「…………ソレモソウダネ」


 それを言われちゃうと弱いのです。

 リリアンについてきてもらう…………だと町の方でなにかあった時に困るかな。


「じゃあヒバナ、行くよ」


「仕方ないわね、ちゃっちゃと終わらすわよ」


「…………」


「なによその顔」


「…………いや……ん、ニセモノ?」


「……どうして来訪者ってやつは、どいつとこいつもこんなにも失礼なのかしら」


 いやまぁ……ねぇ?

 あのぶつくさ文句の代名詞たるヒバナさんが、まさか二つ返事で了承するなんて。

 ニセモノかなにかを疑わないほうが難しい。


「ただ単にもう少し歩きたいだけよ、履きなれない靴だから」


「履きなれない靴?」


 スィー、っと視線をスライド。

 ヒバナの足元はいつもの高めのヒール…………じゃない!?


「……歩きやすそうだね」


「さっきから失礼さが顔にでてんのよ、セツナが履き替えてこいって言ったのに」


 まぁ、はい……そうなんですが……

 素直なんだか捻くれてるんだか、なんだかなぁ……

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