第237話 前略、月間と年間と

「ガス……よし、水道……よし、電気もオーブンが使えるからよし」


 懐かしいなぁ……え?なに異世界ってガスとか通ってんの?なんて疑問をもってた頃が。

 もうそのへんは考えるだけ無駄、きっと普通のガス工事と同じく地面を掘り返して、ガス管埋めて、土被せて、砕石被せて、合材を敷いてるに違いない。


 知らないけど、考えるだけ損だけど。


「それじゃあレッツクッキング!といこうか」


「えぇ、レッツクッキングです」


 使われてないから綺麗なキッチン。

 無駄に豊富な調理道具、種類も数も普通の家庭じゃちょっとお目にかかれない。


 …………おぉ、チーズ削るやつだ。コレ使うほど固いチーズを食べる機会がないのが残念だけど。

 お肉叩くハンマーに……コレなんだっけ?ココナッツ割る機械?ボーメ計まである。


「ちょいちょい、待ちなさいよ。なにあんたもう全快してるのよ」


「いやぁ……若いってのは大したもんだなぁ……」


 今、キッチンには四人いる。

 あたしと、リリアン。それとリリアンが引っ張ってきたヒバナとシオン。


 別に一人でもなんの問題もないんだけど……


「いやいや、別に全快はしてないよ。疲れてるし、眠いし」


「いやいや、お前さん……少し前にほぼ死にかけだったのを忘れてやいないか?」


「忘れてないよ、苦い思いもしたしね」


 すっごい苦かった。

 あと普通に、傷とか肉を塞ぐために塗り込んだよく分からない薬が痛かった。指もまだ曲がってるからきっと食材を切りづらい。


「わざわざヒバナが、ルキナのところから掻っ払ってきてやったんだから感謝しなさい」


「それはありがとうだけどさ、んー……コレまた暖かくなったら溶け出したりしないよね?」


 前に使ったルキナさんの発明品?はお湯で溶けたので酷い目にあった。

 メイドさんも溶けるし、ルキナさんの作るものは結構な確率で熱に弱い気がする。


「溶けないわよ、なんたって完成品なんだから」


「ならいいけど……じゃあそろそろ作ろう、あたしもお腹空いた」


「ちょいちょい、ちょっと待ちなさいよ」


 今度はなんだろ、いい加減始めたいんだけど。


「ヒバナ達はなんで呼ばれたのよ」


「料理するんでしょ?」


 その為にリリアンに引っ張ってこられたんだし、今更そんな事を言われても困る。


「嫌よ、なんで手伝わないといけないのよ。買い出しに行ってあげたじゃない」


「俺はまぁ……手伝っても構わないが……あまり期待はしないでほしい」


 …………確かに。


「リリアン、なんで連れてきたの?シオンはともかくヒバナは確実にお荷物だよ。邪魔」


 確かによく考えみなくてもコイツはいらない。

 弱火で十分を強火なら三分とか言い出すのは目に見えてるからね、皿すら出せずに割りそう。


「仲良し家族月間です」


「「「???」」」


「仲良し家族月間です」


 ………………んー……?


「仲良し家族月間って?」


「仲良し家族月間は仲良し家族月間です。みなさん仲良くしましょう」


 …………まぁ、言いたいことはなんとなく分かる。

 ちゃんと家族になろう。ってことなんだろう、ならあたしは付き合ってもいいんだけど……


「嫌よ、一月でなにが変わるっていうのよ」


  コイツがコレだ、少しは歩み寄ろうって気はないのか。

 昼間で少しは改善されたと思ったのに、やっぱり変わらないのか。


「では仲良し家族年間に変更しましょう、強制です」  


「だからそんなんじゃ「強制です」


「…………」


 逆らったとしても、また捕まって引っ張られるぞ。

 大人しく言うことを聞いといたほうが、被害も少ないくていいと思うんだけどなぁ。


「下ごしらえやろ…………ん、ん?」


 おや、扉からコッチを見てるのはメイドさん。

 その後ろにも何人か、わらわらと集まってきてる。


「どうしたの?」


「!!……!……」


「んー……ありがたいんだけど、結構熱くなるからなぁ……」


 煮込むし、オーブンも使うつもりだし。

 遊んだりしたくらいで溶けちゃうメイドさんに、調理はちょっと難しいんじゃないかなぁ。


「……セツナも彼女達と話せるんですか?」


「話せる……?んー、なんとなく分かんない?」


「なんとなく、ですか。ふむ……」


 なんとなく、なんとなく分かる。

 てか結構伝えようとしてるから伝わると思うんだけど。


「いや、分かんないわよ。あんたら人間じゃないわ」


 なんて失礼な奴なんだろ、そうゆうとこだぞ嫌われるの。


「メイドはなんて言ってるの?」


「手伝いたいって、あと食べてみたいって」

 

 聞いた感じ、食べることはできるみたい。

 生きる為に必要じゃなくても、娯楽って大事だよね。


「ですが溶けてしまいます」


「それなんだよねぇ……」


「ったく、仕方ないわねぇ……」


 ツカツカ、わざとらしく足音を響かせながらヒバナがメイドさんに近づく。


「ホイ、ホイ……ホイっと」


 キラキラ、なにか粉のような物がなにも持ってないヒバナの手から降ってくる。

 

「なにしたの?」


「耐熱の魔術よ。懐かしいわね、昔もこうやって仕上げて……」


「!………………!!」


「なによ」


 ふむふむ……ふむふむ……うん、そうだね。


「「そんな事が出来んならサッサとやれよドアホ」」


「あんたら調子のんじゃないわよ!?」


 違う違う、メイドさん達がそう言ってたんだって。

 リリアンも同じ訳をしたわけだし、そうゆうことだ。


「「「!!!」」」


「うわお、すっごい人数。ひーふーみー……」


「百人います」


「……シフト制じゃなかったっけ?」


「それほど興味があるのでしょう」


「だってさ、ヒバナ。よろしくぅ」


 これで人手は百四……百三人……百二人か。

 調理器具はあるから…………しまった。


「どうしよリリアン、材料足りないや」


 一人一皿だとしても全然足らない。

 さすがに今から買い足しに行くのは……


「ふむ……」


 リリアンが空中に手を突っ込む、何かを掻き出す動きをして……そこから雪崩の如く食材が溢れ、テーブルを埋める。


 …………コレ、買い出しに行った意味ありませんな?


「…………よし!やりますかぁ!!!」


 なんだかんだクッキング。





「あ、リリアン。余計なもの入れないでね」


「…………」


「なぁセツナ、大きさはこんなもんだったか?」


「おぉ、シオンはやっぱり器用なんだね」


「ふーん……意外と簡単なのね、料理」


「…………へぇ」


 いや、上手いな。

 あれ?リリアンと同じレベルじゃないの?こうゆうマルチな才能を見せられると後輩を思い出しちゃう。


「あ、リリアン。メイドさんの邪魔しないでね」


「…………」


「ヒバナって弱火で十分なら強火で三分!って感じだと思ってたよ」


「失礼ね、魔術師は器用なのよ」


「へぇー……あ、リリアン。お皿触らないでね、割るから」


「…………なんと殺生な」


「セツナ、意外とリリに容赦ないのね……」


 うん、命が危ないからね。





「ふぃーー、食べた食べた」


 なんだかんだ楽しかった。

 合宿の時みたいで、みんなで料理を作って、食べて、みんなで後片付けして。


 いろいろ満足、満たされた気分は悪くない。

 今は寝室に案内されてる、空き部屋だらけだそうから一部屋借りる事にした。


 にしても……眠くなってきた。


「コチラです」


 ………………。


「んー……広くない?」


 眠い……でもぼんやりと広がる部屋はとても広い。

 さすがにここで寝るのもなぁ……


「私のへ「んー……?」


 得意げなリリアンの話を聞き流していると、服の端を引っ張られる。

 剣と服を持ってきてくれた元気なメイドさん。そのままあたしを引っ張っていく。


「おー……ここなら、まぁ」


 ドヤぁ、っとした顔で開かれた扉は常識的な部屋の扉。

 あぁ……うん、これくらいでいいんだよ、これくらいで。


「ありがとう……リリアンには悪いけどここにするよ……」


「!!」


「うん……おやすみ……」 


 眠い……にしても人がいないのに家具が揃ってるのはなんで……?あ、もう無理……


 よたよたとベッドへ、溶けるように意識は沈んでいった。

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