第234話 経験と成長と、後略
「…………つっよ」
いやもうホントなんなんだよ意味分かんない。
切り傷擦り傷だらけだし、そこそこ痛いし血と汗が気持ち悪いし、もう立ち上がりたくない。
「あぁ……でもなぁ……」
そういえば傷の治りは早いほうだし、痛みだって別に立ち上がれないほど痛いわけでもないし。
ならあと一度くらい立ち上がっても問題はない、どんなにギリギリでも当たらなければ大丈夫。
当たってもまた立ち上がれば……大丈夫。
まだ手も足も残ってる、そりゃ左手の指が二本ほど変な方向を向いてるけどまだくっついてる。
剣も折れてない、つまりあたしの心は折れてない。
だから大丈夫大丈夫大丈夫。
安心してよ。諦めないのがモットーだし、それを実現できるくらいには痛みに強いから。
「まだまだあたしも遊び足りない」
あれ、戦いだっけ……?
なんだっけな…………あぁ、そうだ、ありがとうと大丈夫だよ。って言いたかったんだ。
まぁいいか、なんとなく伝わってるだろうし。
それより大事なものができちゃった。しっかりと伝えたいし、その為に立ち上がろう、そうしよう。
「あぁ……もう本当に……」
なんと喜ばしい事なのでしょう。
先程から何度その手足を切り落とすつもりで剣を振るったでしょう。
先程から何度骨を砕き、内臓を潰すつもりで拳を振るったでしょう。
「それでもまだ……あなたは立ち上がってくれるのですね」
力が、技術が、その全てが通じないとしても。
万が一、億が一の勝機がないとしても……あなたは立ち上がるのですね。
その呪いにも似た執念が、まさか私に向けられる日がくるなんて……
「あぁ……なんて……なんて世界は美しいのでしょうか」
自然と声が漏れ、それが大きな笑いになる。
なんてはしたない、それでも生きる喜びを表現せざるをえない。
だからもう少し、永遠にも似たもう少し───
───私と一緒に遊びましょう?
「…………いや、なに笑ってんだ。って感じ」
でも……あぁでも、クソ、かっわいいなぁ……
きっともう遺伝子レベルであの顔が好きなんだろうな。
なんならもっと狂ったように笑ってしまえ、どうせ嫌いになんてなれないさ。
「…………んーーー」
立ち上がって、見据えて、見惚れる。
「ホント、なんて無邪気に笑うんだか」
そりゃため息も出る。
ここまで、ようやくここまで歩いてきて、血を流して傷ついて……ようやく年相応の表情が見れた気がする。
生まれて初めておもちゃでも買い与えられたみたいな……?
ちがうな、もっとこう……美味しくて甘い物、パフェ?とか?豪華で飾り付けられた、そんなもの。
いやいや、悪いですねぇ。それがこんな若干ちんちくりん風味で。
たしか元の世界の頃はもっとスタイルが良かったはずなのですが、今はこれでご勘弁をば。
「でもまだ立ち上がるからさ、まだ最後の力を振り絞るからさ……まだ……終わらないからさ」
正直、もう勝ち負けにあまりこだわりなんてない。
ただ伝えなきゃ、その心の奥まで響くように。
ねぇ、リリアン。もっとそんな感じに……うん、年相応って感じに笑ってみたらどう?
いやまぁ、何歳なのか知らないんだけど。
なんとなくさ……いつも孤独そうに感じるんだよ。
強いからかなんなのか知らないけど、最初は見下した感じで、今はまるで保護者かなんかみたいで。
強いからゆえの義務なんて知ったことか。
そんなのものがあったとして、だからって笑っちゃいけないわけがあるか。
平和な世界に、誰かの笑顔は必要不可欠なんだから。
強い弱いの前に人間だ。
人間の定義なんて知らないけど、分からないけど、多分笑っているなら人間なんだよ。
それを伝える、伝わらないならまた話せばいいだけだし。大丈夫、きっと伝わる。
だって今日は珍しくずっと本音だし、受け入れてほしい。ってのはリリアン自身も気づかなかった本当の気持ちだと思う。
もちろん、いくらでも。
それを証明する為にも食らいつく。勝てなくても、本気を出せる相手がいるって。
「ん……あぁ、でもなぁ……」
でもさ、あたしも人間。もちろん欲はある。
「せっかくならさぁ…………勝ちたいんだよねぇ!!!」
風が吹く、きっと追い風。
充電完了。飛ぼうか、何度でも……嘘、あと二回くらい。
「セ!ツ!ナぁ!ドライブっ!!!」
耳をつんざくよう、何度目かその名を聞く。
名前とは特別なもの、それが人名であろうと技名であろうと。
だから何度も叫ぶのでしょう、その存在を示すように。
セツナの成長は素晴らしかった。
剣が長い理由も、大きな理由も、二本ある理由も、理解して扱えていた。
あなたがどれだけ一般人だったとしても……ここでは立派な戦士である事は疑いようがない。
セツナ、とても楽しかったです。えぇ、とても。
心から感謝を。さぁ、あと少し……
「三歩目ぇ!!!」
本人から聞いたんだ、間違いはない。
リリアンはコレを見切れない、このまま突っ込む!
ねぇ、リリアン。
受け入れてほしいなんて言うなら、もちろん受け止める覚悟もあるんだよね?
さぁ行くぞ、貯めた風をほぼほぼ使い切る突進。
もう余力もない、これで……決める!!!
「なん……でぇぇ!?」
ごく間近で、鼻と鼻が触れ合ってしまいそうな距離。
驚愕、絶対の自信と常識を覆された表情。とても良いものです。
「だって躱せないって……」
そんな言葉を発した記憶はない。
私が言ったのは見切れない、です。
「えぇ……確かに見切ることはできません。ですが……」
きっとこれが戦いなのでしょう。
今まで行ってきたのは一方的な攻撃、それはこれより過去の事も含めて。
実戦的な経験は人を飛躍的に成長させるのです。
「眼でなく、感覚で危険を察知しました。私も成長したんです、戦いの中で」
「んなアホな……!」
あぁ……とても残念です。
もっと、もっともっともっともっと遊んでいたかった。
いつまでもこの時間が続けばいいのに、それができないのであればせめて納得のいく結末を。
さぁ、セツナ。
大変名残惜しくはありますが、幕を引きましょう。
「安心してください、みね打ちです」
そしてまたいつか、今日の続きがありますように。
「っ……!」
だからみねなんてないだろ、このバイオレンスメイドもどきめぇぇ!!!
マズいマズいマズい胴体がぶった斬られる!!!
いやもうホント……ホントなんなんだよ、意味が分かんないんだって、いやそもそもリリアンが理解できた時なんて、きっと数えるほどしかなかったんだけどさ、それでもここまできて戦いの中で成長しましたなんて予想できるかバカ、つかどうしよこのままだとぶった斬られる、下からすくい上げるように振られるリリアンの大剣で上半身と下半身がサヨウナラだ、どうするどうする……足は地面についてる躱す……というか避ける事はなんとかできると思う、一歩分残した風で離れればなんとかなる……とは思う、でもその後がない、次の瞬間には距離を詰められてゲームオーバーには変わりない、ならどうする、決まってる風は使わない、コレを使い切ったら勝機は完全になくなる、ならこの選択肢はない、風は使わずリリアンから距離をとり、なおかつ戦闘不能にならないそんな行動は……あるか、やるしかない、多分死ぬほど痛いだろうけど、死ぬほど痛いだろうけど……死ぬほど痛いだろうけどぉ!やるっきゃない、耐えてくれ剣、骨、内臓、折れてくれるなよあたしの心、もうほとんど死は覚悟してるけど、さっきからどうしようもなく世界がスローモーションで言葉も考えも止まらないし、走馬灯みたいな映像が流れてくるし、あぁ……でもあたしが死ぬかもって時にみる走馬灯はコッチに来てからの事ばっかりなんだなぁ……それに今目の前にいるからか分からないけど、リリアンの割合も多い、まぁ仕方ない。
さぁ、その期待……飛び越えていく!!!
「やって……みろぉぉぉおおお!!!」
胴体と大剣の間に剣を差し込む、直接当たらなければ斬れる事なんてない。
剣は折れない、あたしの心が折れないから何度でも!!
ただ衝撃は消え去らない、それは気合いと根性で耐えきる、耐えろ……耐えろ……いやもう、耐えた!!!
「あ゛っ!?ぎ、……ぐっ、えぇ……」
あぁ……もう、ちょっとは手加減してよね……
でも、吹っ飛びながらでも希望は繋がった。さぁ、いくよリリアン。
まだ見せてない必殺技、何度か振って感覚は十分。
世界で二番目に格好良い必殺技、いざ───
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