第225話 前略、大人と落とし所と、後略

『どうやって止めるの?』

 間に割り込んで握り潰しますが?

『……あーしが言うのもあれだけどさ、リリもなかなかのオーバースペックだねぇ。ま、ここで暴れられると火事じゃすまないしね』

 はい、それとセツナに懸念点が残ると大変です。

『セツナンの?』

 えぇ、悩んだり迷ったり後悔してると味付けが雑になるので。

『なーるほど、そりゃ大変だ』

  

 セツナの振るう剣が刃を向いているなら。

 ヒバナさんの魔術が当たれば絶命するほどの威力なら。


 一度づつ小突きましょう。そうでなくとも説教です。




「しばき倒す……じゃすまさないぞ」


 叩きのめすだけで許してやるもんか、最悪の場合ぶった斬ってやる。

 リリアンが来る前に、ケリをつける。


 本人も言ってた。

 セツナドライブのタネはわれてない。加速して曲がって回り込んで……まずは、まずは一度叩く。


「どうしたって……許せない事くらいあるんだよ」


 だから走る。一歩、二歩、三歩、四歩。

 見える、見える。集まる熱と光、大丈夫見切れる!


 飛ぶ───いける。

 その魔術の発動よりも速く、回り込む必要もなく──腕を打つ!!!


「それはもう見てんのよ!」


「っ!」


 関係ない……ぶっ叩く!!!


「「…………は?」」




「リリアン!?」「リリ!?」


 …………ちょっと待ってよ、どこからでてきたの?

 いや……うん、いまさらなんだけどさ。


「てか……手!!」


 片手では刃……じゃないけど、刃物となりうる剣を握り。

 もう片方の手でヒバナが発した熱線を握り潰していた。


 ……あれ、動かない。ピクリとも動かない。剣が動かない、なんなら身体も動かない。 

 だって……多分、リリアンが怒ってるから。


「私の身体でしたら心配無用です。それよりも二人とも……」


「リリ!良いところに来たわ!今すぐソイツを殺してしまいなさい!」


「いえ、まずは二人とも落ち着いて……」


「うっっさいなぁ!リリアンの前で喋んな!」


「黙れ……と言い換えましょうか?」


「…………」


 スーーッ、と血の気が引いていく……

 あぁ、さっきまでのあたしはどうかしていた。ほんの少しでもリリアンの前で騒ぎを起こそうなんて、愚かにも程がある。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい、今すぐ黙らないと埋められる……!


「はぁ?リリ、あんた誰にそんな口きいてんのよ。いい?今すぐ!セツナを!斬りなさい!!!」


 いいから黙っとけってバカヒバナぁ!!!

 喧嘩の続きがしたいなら、後でいくらでもやってやるから……!


 とりあえずリリアンが怒ってることに気づいて黙ってくれ!頼むからぁ!!!


「…………ふむ」


 握り込んでいたあたしの剣を一瞥。

 なにを確認したのかは分からないけど、その手は放される。


 当然?だけどその手には血はおろか強打における痣すらも浮かんでない。

 もちろん、肉体の自由が戻ってもあたしの行動と発言が許されたわけじゃない。


「な、なによ……」


 ツカツカ、ジャラジャラ。

 一歩、一歩、一歩。リリアンはヒバナとの距離を詰める。そしてもう一歩も踏めない距離で拳を掲げ───


「あいっっったぁーー!?」


 コツン、なんて生易しい音は鳴らなかった。

 ゴチン……いや、バコン?そんな明らかに衝撃のレベルの違う音。


 ヒバナと比べると身長差のあるリリアンだけど、体勢の良し悪しでその威力は変わらないらしい。

 やっぱりヒバナはアホだ、大人しく言うことを聞いておけば怒られることも武力行使されることも……


「セツナは次です」


 ちくしょう、分かってたよ……ちくしょう!

 分かってはいたんだけどさぁ!理不尽!


「ヒバナさん、正座です」


「は?ここ外なんだけ「正座です」


「…………」


 正座した!あのヒバナが正座した!

 よしよし、ザマァみろだ。半分くらいは目的を果たした、後はここから離脱して……


「で、セツナです」


 やっぱり……逃げちゃダメぇ?


「先に手を出したのはどちらですか?」


 んー、尋問が始まった。

 出したのは足です……とかって言い訳は逆効果。正直に白状しますか。


「まぁ……あたし、です。はい」


「なぜ?」


 …………その眼で見ないでよ、全部話してしまいたくなる。

 話すわけにはいかない、上手く言葉にできないし。まぁ、できたとしても恥ずかしいからね。


「…………」


「ちょ!?リリアンさん!?」


 黙って目を逸らしたら、担がれた。

 こう……リリアンの肩がお腹に当たって、お尻の辺りを支えられる形で。


「ここでは話しづらそうなので」


 どうやらこれからどこかに運搬されるらしい。




「それで、なぜ喧嘩になったのでしょう?二人の相性はそう悪くないと思ったのですが……」


 そりゃ勘違い、相性最悪。混じり合えない。

 ちょっと離れた庭で、尋問再開。黙秘権は基本的に認められていない。


「私の名前が出た時点で、ある程度の予測はできるのですが」


 出したっけ?あんまり覚えてないや。


「セツナ、ヒバナさんはそうゆう人間で。私達の関係は確かに傍から見れば家族と呼ぶには粗末なものだったでしょう」


 ……どうやら本当に騒ぎの原因が分かっているらしい。

 やっぱり隠し事はできない、なんともなぁ……


「セツナの気持ちは嬉しいです、とても。ですがそれは、私が時間をかけて解決していく問題なんです」


「…………でもさ」


 でもさ、それでもさ───

 家族って呼ばれてるだけで、なんにも知らないやつにリリアンを語られたくないんだよ。


 独りよがりでお節介で独善的でも、ただそうなんだよ。


 口には出せないけど。

 どうか都合良くあたしの気持ちを見透かしてほしい。


「……ですので今回は折れてほしいんです。大人になって、先に謝って、今回の事を水に流してほしいんです」

 

 こうやって落とし所まで用意してくれてるんだ。

 ならそれに報いなければならない。


「…………分かったよ、謝る」


「ありがとうございます」


 仕方ない、あたしも子供じゃないのだ。

 奴がなにを言っても大人の対応を見せてやるのだ。





「嫌よ、死になさい」


「…………よし、ぶっ殺す」


「はぁ……」


「「あいっっったぁーー!?」」

 

 納得いかない、どうしたって納得いかない。

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