第218話 前略、暇ともう少しと

「…………」


 身体がそのまま沈んでしまいそうなほど、確実に人をダメにするソファに沈みながら。

 ぼんやりと空……じゃなくて天井を見る。良いなぁ、シャンデリア。帰ったら部屋に吊るしてみようかな。


「…………暇、だなぁ」


 これまでの旅でも、それなりの頻度で発生してたリリアン待ちの時間。

 まさかここまで来てまたも起きるとは。まぁでも、お約束ってのは悪いもんじゃない。


「それに家族の時間は邪魔するもんじゃないよね…………ね!」


「………………」


「………………」


 ちくしょう、やっぱり無反応だ。

 この部屋にいるメイドさんはみんな、やけに反応が鈍いというか無愛想というか感情が希薄というか。


「そうゆうとこは真似しなくていいんだよ」


 心なしか、外見もリリアンに似てる気がする。

 どうせ真似をするなら今のリリアンの真似をすればいいのに。

 それとも単純に個体差なのかな、入口にいた娘達はなかなか騒がしい雰囲気だったし。


「いかん、これじゃああたしが異常に独り言の多いヤバい奴になってしまう」


 会話のキャッチボールにならない、これだとただの壁当てでしかない。受け止めて、投げ返してくれ。

 もとから多いとはいえこんなにも独り言が増えると、そろそろ不審者扱いされてしまうかも。奴らと同じ扱いはごめんである。


「…………持ち上げるか」


 実際のところ、待てとは言われてるけどこの部屋に留まれとは言われてない。

 リリアンの用事が終わるまで好きに過ごしていいって言われてる。


 外に行くのも、一人で屋敷を歩いてもいいんだけど。

 どうせならそれこそ二人でやりたい、一人で歩いてもちょっと物足りないだろうし。


 ならやることは一つ、反応が薄いのだけはちょっと気になるけどメイドさんと遊ぼう。

 ………………なんかアレな響きだな。やましい気持ちはない、本当です、はい。


「はーい、失礼しま……」


 ペシッ。


「…………」


「…………」


 ペシッ、って。

 滅茶苦茶冷たい目で、あたしの差し出した手は弾かれた。

 

 悲しい、それこそどうしょうもなく。

 だけども挫けない、一度の失敗で諦めたら人間なんてやってられない。


「大丈夫大丈夫、怖くな……」


 ペシッ。


「…………」


「…………」


 この屋敷の教育はどうなってるんだ、こちとらお客様だぞお客様。

 まぁ、お客様じゃなくて、もしあたしが不審者なら対応は間違ってないんだけど。


 悲しい、やっぱりどうしょうもなく。

 だけどもそれでも挫けない、一度や二度の失敗で諦めたら時浦刹那なんてやってられない。


「…………」


「…………はて?」


 なんで?どうして?

 

「んー……どっから出したの、それ?」


 いつの間にか、メイドさんの手に抱えられている凶器。

 なんだろ、この警告から武力行使に切り替わった感じ。


 ……あかんやつだね、これ。


「そうゆうところは似なくていいからぁぁぁあ!!!」


 明らかにリリアンの悪影響を受けた小さなメイドさん。明らかな殺意とともにあたしに向かって。

 今回はあたしが悪いので、とりあえず逃げる事にした。




「…………リリアン、探そうかな」


 さっきの部屋には戻れない。

 多分、次はのーわーにんぐだろうし。


「ん」


 今、いた……のかな?

 今それっぽい姿が先の角を曲がっていった。


 追いかけよう、用事が終わってるかもしれない。


「確か……コッチ」


 走って、見失った角を曲がる。

 また見えた……あれ……?


「んー?……リリアーン!」


 また少し先で曲がるリリアンっぽい影。

 顔はあんまり見えないけど……リリアンだよね?


 他に選択肢はないけど、ちょっと違和感みたいなの。

 少しだけ背が高い気がする。後は服装が違う、随分とラフな格好をしてる。部屋着……?


「反応なし……か!」


 普通なら聞こえてないってことはないと思う。

 耳、良いしね。だから気になる。


「曲がって!真っ直ぐ…………んで曲がる!」


 リリアン?はゆっくりと歩いてるはずなのに微妙に距離が縮まらない。

 それでも少しづつ、少しづつ近づく、あと……少し!


「…………んん?」


 あれ……誰もいない…………なぜ?どこへ?


「おっかしいな、どこで見失ったのかな……」


 まるで最初から誰もいなかったように、通路は静か。

 あたしの呼吸音と風の吹く音だけ。


「そもそもあれは本当にリリアンだったのか」


 もし違うなら誰だったのか。

 もし本人ならどこに消えたのか、今更リリアンが実は瞬間移動できます、とか透明になれます。とか言ってもそこまで驚かないけどさ。


「お姉さんとか妹さん、説?」


 血こそ繋がってないけど、そうゆう立場で育てられた人……みたいな?

 家族が多いって言ってたし、それが一番ありえそうな気がしてきた。 


 なんだ、それなら紹介してくれればいいのに。


「外、出てみようかな」


 一つだけ、窓が空いている。

 そこから吹き込む風がなんとも心地良い。


 誰にも見られてないのを確認して、ソコから庭に出てみることにした。



「いいねぇ、庭」


 花が咲いてる、木が生えている。

 噴水があって、それらが良く整えられている。絵に描いたような豪邸の庭。


「ふーん……」


 まぁ、良い。いや、とても良い。

 遠くで手入れをしてるメイドさんとか、もろもろの雰囲気。


 のどかで温かい雰囲気。

 歩いてるとほっこりできる、心地が良い。


「もう少し、ゆっくり歩こうかな」


 リリアンを探すため、心の平穏のため。

 いろいろ理由はあるけど、こうゆうのどかな景色が見たいから。


「もう少し」

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