第209話 前略、マニアとサムライソードと
重い発砲音が響く。
それは二度響き、目標付近に着弾する。
「やるねぇ」
ひゅー、っと軽快に口笛を吹きながらその見事な技術を褒める。
「なに、趣味の延長線みたいなもんさ」
クルクルと銃を回して、ホルスターにしまうお兄さん。
怪しい森を抜ける途中、これまた怪しげな生き物へ牽制の為に発砲。
「無理に命を奪うこともないだろ、脅しで十分さ」
怪しい危ない、だから近づけさせない。
だから近くに当てて追い返す、非常に好ましいやり方。
「もう一丁は使わないの?」
「あー……コイツはなぁ……」
秘密がある……というより面倒とか使う気がない、そんな感じの雰囲気。
話題にあがったほうの銃を引き抜き、そのまま木に向けて無造作に撃つ。
「……ん?」
音はしなかった。
いやしたけど、したんだけどさっきまでの発砲音に比べたら無音に近い消音性だった。
「まぁ、こうゆうこった」
この世界の銃で撃たれたことがある、それに身体に当たったこともある。
弾は避けれる防げる、なんなら当たっても痛いだけで貫通すらしない。そんなあたしの世界の銃の模造品のような武器。
なのに今回撃たれた弾丸は明らかに今までのものとは違った。
その弾は太い木を貫き、その先の木もおそらく貫いてる。おかしい、明らかにおかしい。
「んー……違法改造?」
前にみたリッカの銃は、もはや魔術の領域だった。
あれなら石や岩を貫き、同じ状況なら同じく木々も貫いたと思う。
だけど今回は魔力が使われた気がしない。
本当にただ引き金を引いて、弾が放たれただけ。
「改造ってか……いや改造か、コイツは姐さん手製の特注品でな。おかしな威力のくせに、構造が複雑すぎて調整もできやしないじゃじゃ馬さ」
「姐さん……ってルキナさん?」
「あぁ、リリの母上様だ」
やれやれ……といった感じ、ちょっとリリアンに似てるかも。
やれやれだけど、なんだか愛おしそう。手に負えない恋人のように、それでも離れられないように。
「お兄さんはいわゆるガンマニアさん?」
「あぁガンマニアさんだ、見ろよこの造形美……美しいだろ?」
その造形美、つい数分前に地面に放り投げてましたけど。
いやまぁ……アレはあたしが悪いんだけど。
「姐さんがたまに作ってるのか拾ってくるのかは知らねぇが……たまにお前さんの世界の銃にソックリなものをくれる時があってよ、これがまた素晴らしいんだ……!丸いプラスチックを飛ばす銃!弾を撃ち出す事はできないがあまりに精巧に作られた模造品!美だ……完全で完璧な美なんだよ……!分かるか!?」
「ん……んう……」
どうしよ、分かんない。
あ、ダメだこの人。急に早口になるんじゃないよ不審者三号。誰かに似てる。
「そうか分かるか!やっぱり俺の目に狂いはなかったってことだ。よし、屋敷についたら俺の部屋のコレクションを見せてやろうじゃないか!」
まぁいいいか、楽しそうだし。
活き活きとした表情はそれこそ生きてる、って感じ。
「あたしはほら……剣士なんだけど、勉強させてもらおうかな」
今プリントの職業欄を埋めることになったらそう書く。
格好良いじゃないか、うんうん……元の世界でそんな事書いたら笑われるか、頭の病院を紹介されるだろうけど。
「剣士……剣士か。なぁセツナ、ノアには会ったか?」
「ん……師匠の名前」
不審者三号の口から二号の名前。
おかしい事じゃない……のかな?あんまり時系列が分からない。
「師匠?ほぅ、師匠か、前にあった時にはもう弟子はとらない。なんて言ったらしいが……」
「そうなの?」
「なんでも前の教えた奴が散々だったとか、俺はリリが生まれてから来たから詳しくは知らないが、前にこの島にいた来訪者、ヒバナが言うにはリリの……血の繋がった姉だとか言ってたな」
血の繋がった姉か、確かにその表現は近いかも。
例えたりするのが難しいだろうし、そのぐらいの表現でいいかもね。
「じゃあノアのお弟子さん、俺が数年前に注文したサムライソードは出来上がったのか?」
「…………」
サムライソード……?…………あ、刀か。
……どうしよ、知らねぇ。
だいたいお兄さんの存在を誰からも聞いてない。名前が出てこない存在はいるけど、それはさっきも出てきたリリアンの中の人だ。
あたしが知る限りだけど少なくとも、師匠は刀を作ってない。リリアンに半ば騙されて、あたしの剣とこの服を仕立て直して。
後の時間は街の人からの依頼を盛んに受けてた、少なくとも作り慣れない刀を、しかも知人に作ってるなんて話は聞いたことがない。
「いやいや、分からないならいいんだ。それはつまりリリが受け取ってるってことだな、よしよしそれなら良いんだ」
…………いやこれ作ってないな。
お兄さんの嘘の可能性もあるけど……この表情。作り笑いじゃない、本当に期待にあふれた笑顔だ。
「これまでなんだかんだと後回しにされてきたが……リリが帰ってくるのが遅れたのだって、そうゆう理由に違いない」
すみません。ライブ鑑賞だったり、演劇やったりしてました。あとリンゴ狩りとか舞踏会とか行ってました。
「ヒバナが転移の実験で聞きに行ってくれたようだが……あのバカ帰ってきて聞いたら『杖は壊して来たわ!』なんて言いやがる」
あー……なるほど、アレ、そうゆうことだったんだ。
「『ヒバナはね、思うのよ。聞きたいことがあるなら自分で聞いたら?』あのバカ、自分から行くって言ったくせによ」
なに?流行ってるの?あのアホの真似。
正直、師匠とかリリアンより似せる気があるのがちょっと可笑しい。
「まぁいい。サムライソード……あれもまた造形美だ……!遠距離の銃、弾が躱され距離を詰められた時に抜き放たれるサムライソード……!美しい……」
「……そうだね」
師匠……!たまにはリリアン以外にも目を向けてくれ!
ここにあなたのズボラさの被害者がいますよ……!
「セツナが持ってるような剣も悪くないんだが…………機能美造形美を兼ね備えたサムライソードには……っておいセツナ」
「ん、なに?」
ふと素に戻るお兄さん。
やれやれ、マニアさんはこれだから。あたしのようにクールにお願いしたい。
「道……合ってるか?」
「ん?」
いや、合ってるもなにも道を知ってるのはお兄さんでしょ?
だからそのお兄さんに並行して歩いてるだけだよ?
「いや、俺は道を知らないぞ?一人で森に入るのも初めてだし、ヒバナは俺を置いて行ったからな」
「………………」
んー……どーーーしよ。
こんなことになるなら、引っ叩いてでもヒバナを起こしてから来るべきだった。
もう大分歩いて来ちゃった。
リリアンはもうあたしの捜索を始めてるかもしれない。…………ふむ。
「まぁ、なんとでもなるよ」
なんとかする。というかなんとかしてもらう。
なんとなくリリアンの行動パターンは分かる。このままあたしが見つからなければ、なんかぶっ壊して居場所を伝えるハズ。
ならそれを見てから、コチラも何かしら行動を起こして立ち止まればいい。
他力本願だけど、それが一番効果的だと思う。
「頼りになるねぇ、セツナがリリの友達で良かった」
普段はあたしがリリアンにいう言葉だけど、ちょっとあたしには勿体ない言葉だけど……悪くない。
「ん、お兄さん」
「あぁ、こりゃまさに幸運だ」
そうだね、幸運。
信じる者は救われる、いつだって大事なのは前を向いて歩くこと。
「忘れちゃってたな」
そういえば食べてなかった、半分に割られた携帯食料。
安心したらお腹が空いてきた、ちょっと遅れたけど……いただきます。
「ん?……ん…………うわマッッッズっ!!!」
「はは……だろ?」
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