第208話 前略、アウトローと名前と
「───あー……て言うとなんだ?セツナとリリ、あとポム……ポム?の三人で別の時代からやってきたドラゴンを倒した……ってことでいいのか?」
「んー……ほとんどリリアンが倒したんですけど……まぁそんな感じです」
「だとしてもたった三人か……そりゃあ……なかなかハードな道中だったわけだ」
「まぁでも、運はいい方だったので」
あたしは基本的に恵まれてる。
いつだって幸運で、たまたまと偶然が何度も何度も重なってここまで生きてきた。
特に人に恵まれてる。
友達とか、味方とか敵とか。出会う人出会う人、みんなあたしを助けてくれる。
「話を聞く限り、快適な旅だとは思えないんだが?」
「快適じゃなくても幸運なんです。じゃなきゃここまで来れなかった、ここまで生きて来れなかったんです」
この異世界、意外とあたしの世界の人間に厳しい。
ところどころで聞いた話から察するに、かなりの数の人がコッチに来てすぐに死んでる。
だからここまでこれたのは幸運。
人に、場所に、タイミングに、全てに助けてもらって帰るまであと一歩。
「人間ってのは生きてるのが当たり前、そう思ってる奴が大半だが……お前さん、なかなか人生ってやつが分かってるじゃないか」
買いかぶり過ぎ、ただの事実でしかない。
「リリの友達ってのを差し引いても、俺はセツナが気に入ったぜ」
「どうもです」
救出してから、二人であたしが最初に落ちてきた場所に移動中。確かコッチだと思ったんだけど……
「お兄さんはいわゆるアウトローなんです?」
「いやぁ、これでも社会のルールに準じちゃいるんだが」
まぁ、そこそこ歩いたからね。
時間があるなら聞いておきたい事もある。会話の中にリリアンの名前とかはでてくるんだけど……ね?
「んー……すみません、お兄さん」
「おいおい、そりゃあちょっと硬すぎる。俺はリリの兄で、セツナは友達。もっと気楽に頼むぜ」
「基本的に年上は敬うんです、基本的には」
「俺がもっとフランクに話したいんだ。それにお前さん……本当はかしこまった話し方が苦手そうだしな」
んー……まぁ、うん。
「いえいえ、私も昔は敬語キャラでして。今の方が作った話し方かもしれませんよ?」
「まぁそれも悪いことじゃあないが、なんにせよもっと気安く頼む」
「ん、分かった」
話し方の交渉も終わったところで本題に入ろう。
「お兄さんは本当にリリアンの知り合い?」
「知り合いというか……家族、だな。仮初でもリリの事は本当に妹だと思ってる……なんだ、疑ってるのか?」
家族……リリアンからも聞いた。
その単語が出てきたあたり、本当かもしれないけど……
「うん、疑ってる。リリアンから聞いたこともないし、とりあえず名前くらい名乗ったら?怪しいよ、お前」
「…………」
敵意は感じない、でも怪しい気がする。
あたしの敵ならいい、ただリリアンの敵だったらわざわざ連れて行くこともない。
「───────れ」
なにか、言った。
かすれた声、距離もあるので上手く聞き取れない。
「──────くれ」
「なに、聞こえないよ」
キッ、と強い視線が向けられる。
あぁ……なんだ、やっぱり敵……!
「勘弁してくれ!こんな恥ずかしい名前!人様に晒せるかよっ!」
ドサドサ、っと何かが地面に落ちる。
落ちたのは……拳銃?詳しくないから種類までは分からないけど、銃が二丁落ちる……いや、捨てられる。
そのままホールドアップ、手にはなにももってない。
「…………もう一丁隠してるんじゃない」
「隠してないさ!ほら見ろ、携帯食料しか入ってねぇ!」
ホルスターは三つある、つまり銃は三丁。
…………って思ったんだけど、確かに残り一つには雑に巻かれた何かがあるだけ。
「名前は勘弁してくれ……昔から女みたいな名前だってよくからかわれたんだよ」
一気に怪しさが抜けていく。
代わりになんとも言えない情けなさ、アウトローな雰囲気も台無しだ。
「……ごめん、名前の話題は良くないね」
「分かってくれるのか……!」
うん、分かる。
あたしはまぁ……響きは女の子で問題ないと思うんだけど、なかなか痛い、尖ってる。
なんなら家族全員こんな感じだからちょっとキツイ。
昔は名前を呼ばせないように頑張ってたしね。
「ホッとした、ホッとしたついでとお近づきのしるしに半分どうだ?味は酷いもんだが」
ホルスターから布で巻かれた何か取り出し、半分に割ってコチラに投げてくる。
怪しいけど、残った半分をもうお兄さんが食べてるし……名前に悩む仲間に勝手に認定した。
あぁ、また警戒を解くのが早い気がする。
でもまぁ、いい。涙腺と判断基準が壊れているんだ、あたしは。
「しかしセツナ、お前さん結構口が悪いんだな……」
リリアンにもよく言われる、そして矯正されそうになる。
違う、これにはしっかり理由があるんだよ。
「あたしにいろいろ教えてくれた大事な人の影響……かな?」
「そうか……悪かったな、配慮が足りなかった」
気にすることない、そりゃまだまだ絶賛引きずり中だけど。ある程度は持ち直した。
そんであんまり人のせいにするのはよくないんだけどね……
でも八……いや、七割くらいは椎名先輩のせいだと思う。あの人も結構、アレだからなぁ……
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