第201話 前略、嵐と神と

「───でだ、セツナ。大事なのは風向きよ、風向きを制する者は海を制す」


 貯えた髭がニイィ、っと動く。

 上手いこと言ってやったって、そんな感じの得意顔。


「なるほどなぁ……やっぱり向かい風は避けないとね」


「いや、向かい風もそう悪いもんじゃねぇさ。乗り越えがいがあるってもんよ、それに船ってのは向かい風を進む力に変えるもんだ」


 またしてもニイィ、っと。

 いい表情だと思う。人となりが出てるっていうか、良い人だっていうのが分かるから。


「んー……して、船長さん。その風向きはどうやって知るんです?」


「そりゃあ経験よ。後はどれだけ海を愛してるか、ってところだな」


「風向きを知るとなにができるんです?」


「嵐を避けたり乗り越えたりな。お前さんも風とは親しいみたいだし、コツを教えてやろう」


「お世話になります」


 親しいというか、魔術的な唯一の友達といいますか。

 まぁ、いいや。親しい友達の新しい一面を知りにいこうか。





「お、リリのツレだってのになかなか物覚えがいいじゃあねぇか」


「どうも……です!」


 難しい、強く風が吹いてる中で風の魔術を扱うのは思ってたより難しい。

 だけど負けるか、魔術的な適切は低くても器用さにはそこそこ自身がある。


 船長さんはあんなに大雑把そうな見た目してるのに、風の扱いはとっても繊細。

 勉強になる。知り合いに魔術師はいるけど一人は魔術を使えないし、一人は投獄中だからね。


「ふぃ…………んん?船長さんはやっぱりリリアンと知り合いなんです?」


 知り合いっていうかなんていうか。

 それなりの付き合いはあるんだろうけど、基本的にその略し方は親しい人がするものみたいだし。


「知り合いっちゃあ知り合いだが、正確には取引相手の娘さんよ」


「んー……?……あぁ、ルキナさん」


「おうよ、ルキナ様……ありゃあ良い女だぁ……」


 鼻の、下が、伸びた。

 物理的に伸びた、だらしがない。


 そんなに綺麗な人なのかなルキナさん。

 鍛冶師……じゃないんだよね、発明家?科学者?そのへんよく分からないんだよね、後でリリアンに聞いてみようかな。


「もう十年以上前になるか……名前も知らない来訪者に海賊団をを壊滅させられてからなぁ……」


 …………ん?

 なんかあれ、知り合いと言いますか知り合いの中にいそうと言いますか。


「あの暴君から解放して、物資の調達って名目で雇ってくれた恩は忘れやしねぇ……!」


 …………いや、ん?

 あれ……多分リリアンの中の人だ。んで、おそらくその二人は知り合い。

 …………マッチポンプ的なアレじゃないだろうな。


 まぁなんにせよ、それで悪いことをさせてるんじゃなければ、ルキナさんも悪い人じゃないのかな。

 …………非公認の領地に物資を運ばせてるのは置いといて。


 ちょっと気になる、リリアンに聞くより先に聞いてみよっと。


「んー、普段なにしてる人なんです?」


 なんか勝手に女王さまみたいなの想像してたけど、実際はどうなんだろ。


 外見も聞いておきたいな。

 リリアンに似てたり?一回り二回りくらい大きくして、大人っぽく……?


 …………おぉ。


 勝手に期待が高まってく。

 悪くない、悪くないよ……!


「神だ」


「…………」


 あ、やべぇ奴だ。


「ん?どうしたセツナよ」


「ん、いやぁ……大きくでたなって」


 あぁー、なるほどなるほど。

 師匠の言ってた気をつけろよ、ってそうゆうことね。


 あれかな?女王さまってか教祖かなにかでもやってるの?ヤバめの宗教の。

 欠片も曇りを感じない船長さんの目がそれを物語ってる。


 まいったなぁ……放火魔とヤバい宗教家がいる島になんて降りたくない。


 どうにかして逃げれないものか……逃げれないものか。

 未だになんとなくだけど、届け物が自分の使命だって奥深くに刻まれてる感覚。


「大きくもなにもあるもんか。セツナ、こいつを見たことはあるか?」


「んー……?」

 

 船長さんが上着のポケットから取り出したのは…………電池?


 うん、電池、乾電池。

 単四かな、リモコンとかに入ってるやつ。……なんで電池?


「なんで電池なんです?」

 

 なんで電池を取り出したのか、じゃない。

 なんで電池なんてこの世界にあるのか、だ。


 いやおかしくはないのかもしれないけどさ。コッチじゃ電化製品よりも魔術的な道具が使われてるはず。道具に魔力を流して、だ。


 電化製品……電化製品……テレビはない、エアコンもない……あ、でも。


「…………ドライヤーは使った」


「なんだもう知ってたのか、ありゃあ良い売り物だ」


 思い返してみればちょいちょい電化製品に触れてる。

 全部見た目だけ似てて、いつもの魔術的なアレコレだと思ってたけど。


「これを入れておけば燃料に?」


「そうゆうこった、革新的。まさに神の御業だろ?」


 電池っていうかバッテリー?

 あれ……同じものだっけ?これは……確か充電できる電池がバッテリーだっけ?

 ……まぁ、いいや。今は理科の時間じゃない。


「なるほど、ね」


 あたしの世界の人……ではないと思う。

 でもなにか知ってる、少なくともあたしの世界を知っている。


「なにがなるほどなんだ?」


 だからなのかな。

 鍵を届ければ終わりじゃなくて、ルキナさんに帰してもらうのが終わり……ってこと?


「ん……嵐がきそうだなって」


 多分、厄介そうな感じ。

 今回こそスムーズにいけばいいけど。


「ほぅ……分かってきたじゃねぇか」

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