第198話 前略、放火魔と目的と

「触ってておもったんだけどさ、意外と簡単な作りなんだね、コレ」


 メイドさんの頭についてるやつ。

 思ったより普通のカチューシャ、ネコミミはついてるけど。

 結局、メイド喫茶で楽しんで。ついでにもらってきた……というかリリアンの頭についたままだった。


「基本的にフリルがついただけで、特別なものではありませんよ」


 ふーん……詳しいね。

 メイド服とかの仕組みなんて普通知らないしね。複雑そうに見えても、ただ背中にファスナーがついたワンピースみたいなもの、ってことも最近知ったし。


「リリアンはつけないの?」


 普段のリリアンは頭になにものせてない。

 ヘッドドレスもあの帽子みたいなのも。なにか問題があるわけじゃないけど、あの俗っぽいメイド喫茶の後だとちょっと寂しいかも。


「はい、つけませんしかぶりません。基本的に身体……とくに頭を触られるのは不快です、のせたくもないです」


「へぇ…………ん?」


 アレ……これ、もしかして遠回しに警告されてる?

 思い返せばちょいちょい触ってる気がする。さっきもネコミミをつけたりとったり、もっといえば泣いたときとか抱きつく形になってたり……


「ごめん……控えるよ」


 嫌そうな顔をされないから気づかなかった。

 人間関係って難しい。まぁ、あんまりベタベタ触れ合うのもちょっと変か。


「…………セツナ」


 ピタっ、と止まってグルッ、と振り返るリリアン。

 大丈夫?今の動作で知らないうちにあたしの胴体真っ二つになってない?


「取り消します、冗談です」  


「冗談なの?」


「えぇ、もちろん冗談です。えぇ……えぇ、触れ合い……素晴らしい響きです。人は一人で生きるものではないのですから。ボディタッチ、歓迎です」

  

 …………本当に?

 アレか、中の人の入れ知恵?まぁ、本当に嫌なら無理矢理止めるられるから大丈夫かな。


「手とか握っても大丈夫?」


「大丈夫です」


「抱きついたりしてもOK?」


「OKです」


「頭とか撫でてもいいの?」


「撫でたいのなら今からでも」


 マジですか、魅力的な提案だどうしようかな。


「まぁ、そのうちね」


 だからって無意味に触れ合う必要もない。

 大事なのは距離感、だよね。


「………………ねぇ、リリアン」


「……なんでしょう」


「なんか……焦げてない?家」


「焦げてますね……家」


 我が家が燃えている……もとい焦げている。

 もう鎮火してるけど、入口になった元裏口が吹き飛んでる。何度も壊したけど、ついに跡形もなくなった。

 

「師匠の乱心かな、っと!おーーい、師匠やーーい」 


 いつかやると思ってましたよ。

 日頃からおかしな言動の多い人でしたから。

  

「あんのクソバカがぁ……!」


 いた、工房の奥。派手に吹き飛んだみたいだけど、結構タフだよね、師匠。


「工房の改装ですか?」

 

「ちげぇよ、知り合いのバカが……知り合いであることすら苛つく」


 ……はて?

 じゃあこの有様は敵からの襲撃じゃなくて、ただのじゃれ合いの可能性が?


「ふむ……ヒバナさんですね。来ているのですか?」


「もう帰ったよ。クソっ、なにが丁度いいからだよあのバカ」


「んー……と、リリアンの友達の放火魔だっけ?その人」


 何度か名前を聞いた気がする。

 中の人と一緒にリリアンに変な言葉を吹き込む放火魔。多分、マトモな人じゃない。


「あれ、リリアンの住んでるところって島だよね?そんな簡単に来れるの?」  


「いえ、船で三日ほどでしょうか」


「んー……?」


「飛んで来たんだよあのバカ、注文の品も一振りで扉と一緒にぶっ壊して行きやがった。ホントに昔から変わらねぇ……」


 へぇ!飛べるんだ、やっぱり!

 夢があるなぁ、あたしも一度くらいは空を自由に飛んでみたいもんだ。


「ふむ……転移ですか。ついに成功させたんですね、あの炎にしか興味のないヒバナさんが」


 あ、そっち。瞬間移動的なほうね。

 どっちにしろ羨ましい、移動と回復の魔術って珍しいし難しいんだよね。


「変な人だけどスゴイ人、なのかな?」


 あたしの疑問に、師匠もリリアンも答えない。

 

「あー、あー、あ」


 …………壊れたか?

 黙ったと思った師匠は急に喉の調子を確かめるように、何度か声をだす。


「ん、ん。『ヒバナはね、思うのよ。やっぱりヒバナくらいの大魔術師には豪華な杖が必要じゃない?』」


 …………いや、誰?それ、誰?


「似てますね。ヒバナさん本人かと思いました」


 絶対嘘だ。だって真似する気がちっとも感じられないほどに、いつもの師匠だったもん。


「だろ?ま、さっきも言ったが、作った杖はぶっ壊れたけどな」

  

 リリアンもそのふむ……、って顔止めて。

 絶対に似てないから、絶対に似てないから。


「こほん……『ヒバナはね、思うのよ。この世界に存在するものは二種類、燃えるものと燃えないものよ』」


「ふん、リリもなかなかやるじゃないか」


 絶対嘘だ。だってあんまりにもいつものリリアンだもん。

  

 なに、一人称が自分の名前の人なの?

 まいったなぁ……会ったことないけど、アホっぽいイメージしかわかない。


「……なに?」


 なんで二人してそんな見つめてくるの?

 やらないよ?その人知らないし、あんまり知りたくもないし。


「セツナ」


 だいたいなんだ、この意味の分からない流れ。

 でもなんかリリアンがすごく期待した眼で見てくるし、やってみるかぁ……


「ひ、ヒバナはね、思うのよ。世の中、だいたいのことはマーマレードがあればなんとかなるわよね」


「「おぉ」」


 それなんの、おぉ?

 すっごいテキトーに言ったんだけど、大丈夫?


「驚きました、まさかお知り合いで?」


「まさかってレベルで似てたな」


「……どーも」


 どうしよ、本気で嬉しくない。

 アホに似てるって言われたし、マーマレード嫌いだし。






「それで、目的のものはみつかりましたか?」


 屋根の上で横になるあたしに、今日の本当の目的をリリアンが言い当てる。


「んー……気づいてた?」


「はい、なにを探してるのかまでは分かりませんが」

 

 遊びたかったも事実、埋め合わせがしたかったのも事実。

 だけど、人を探してたもの事実。いや、人を探してたのが事実。


「人をね、探してたんだよ」


「人を……?」


 人っていうか、人っぽいの。

 いつもいつも行き先にいたし、なんならこの街に入る直前も会った、名前のない自称マブダチ。


「うん、エセ天使をさがしてたんだ」


 目的は簡単。

 そろそろだ。もういい加減、逃げるのはやめよう。


「そろそろ帰ろうと思ってさ。異世界から、あたしの世界に」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る