第197話 前略、路地とメイド服と
「型抜き、ですか……あ」
「うん、知ってた」
ストラックアウトはないのに型抜きはあるのか、この異世界は。
珍しくやる気のリリアン、結果はお察しだけどそう簡単なもんじゃないからね。
「あまり美味しいものでもないのですね」
「食べることをあんまり想定してないだろうからね」
微妙な味の砂糖でしかないし。
手で触るから衛生的とも言えないしね。
にしても良いものだ。
なかなか終わらない、そんで昼間の縁日も良いもの。
「セツナは得意ですか?型抜き」
「んー……まぁそこそこかな」
型抜き屋のおじさんに一枚注文。
良いとこみせたいな……ひょうたんにしようかな。
「この細い部分が難しそうです……」
「コツがあるんだよ」
窪みにいきなり画鋲を突っ込むと、簡単に砕けちゃう。
自分で溝を作ったりする方法もあるけど……まずは。
「ていっ」
「あぁ、素手で……」
周りの部分は大雑把に手でちぎるのが有効だったり。
後はそれを繰り返して、細かいところを削れば……
「ふう、こんなもんかな?」
新しい画鋲とそれなりに知識があれば、そう無理な事じゃない。
「見事です。えぇ、素晴らしい」
「照れるからそのへんで」
そう喜ばれると……まぁ、悪くない。
頑張っちゃおうって思える、悪くない。
「じゃあもう三枚くらいいこうかな、ちなみに景品とかって?」
「米ですね、米」
「なんでお米……?まぁ、いいや。百万ドルの米俵をプレゼントするよ」
「セツナが食べたいだけでは?」
そうともいう。
基本的にパンだからね、お米好き。
「ふむ……ちなみに出来たものはいただいても?」
「ん?いいけど……どうするの?」
あ、食べた。
結構触っちゃったから恥ずかしい。ちゃんと手を洗って消毒してからやれば良かったなぁ。
「んー……このへんだと思うんだけどなぁ……」
なにをしてるか?
もちろん道に迷ってる。実は入り組んだ道が苦手だったりする。誰にもナイショだけどね。
「最近知ったのですが」
今はなかなか珍しい状況。
あたしが前で、後ろにリリアン。いつもはついていく形だけど、今日はあたしが先導している。
「セツナは道を覚えるのが苦手なんですね」
…………バレてる?いや、まだいける。
「いや、うん、違うよ?リッカから聞いた喫茶店へは初めて行くからね、道を覚えるとか覚えないとかじゃないよ」
ぜひリリアンちゃんとっ!
なんて言ってたけど、細い路地を歩いて歩いて。雰囲気はなかなかアンダーグラウンド。
「セツナ、入り組んだ道で曲がり角が多い時も、大雑把な方角が分かっているならそれを見失わない事が大事でしよ」
「んー……そりゃそうなんだけどさぁ」
「それと目印を見失わないように。分からないなら一緒に探しましょう」
…………だね。
「そうだね、ごめん助かるよ。確か目印は──」
「ふむ……分かります。まずはそちらを目指しましょう」
本当に、あたしがもってない部分を補ってくれて助かるよ。
「おぉ、あった」
「ありました」
そもそも入った通りが違ってた。
反対側からなら大通りから細い路地一本曲がっただけ。
…………おかしいな、こんなに方向音痴だったっけ?
「ら、れあ……る……」
「おそらくですが。ル・レアリゼ、かと」
「……英語は苦手なんだよ」
「フランス語です」
ちくしょう、なにが悲しくて異世界人に語学力で負けなきゃいけないんだ。
あれだよね、リリアンの知識も偏りすぎてる。まぁ、なんとなくぽいっけど。
「喫茶店ではなにを食べるべきでしょう」
ほらね、偏ってる。
まぁ、今までの生活ぶりを聞いてると、あんまり喫茶店とかに通うイメージないし。
あたしもあんまり行かないからね、どちらかといえばファミレス派だから。もっといえば買い食い派だから。
「オムライスとコーヒーとメロンソーダ、それが美味しいらしいよ?」
「なんとも統一感のないメニューですね」
「ね。それじゃあ入ろっか、お腹も空いたしね」
本当に統一感のないメニュー。
しかも飲み物が二種類もあるのが変。コーヒーはわかるけどさぁ。
「お帰りなさいませ〜!お嬢様方!」
「…………おぉ」
ああーー…………なるほど……メイド喫茶だ、これ。
「お嬢様方……?って本職の人!?」
愉快な飛び跳ね方をするメイドさん。
大丈夫です。ほぼほぼ見た目だけなので、この娘。
「どうしよ、リリアン。お嬢様なんて呼ばれちゃったよ」
「……呼びましょうか?」
「んー……魅力的な提案だけど遠慮しとくよ」
照れるからね。
「メイド喫茶なんてあったんだ、ビックリ」
余計なものばっかりあるイメージ。
アレか、また別の来訪者が伝えていったのか。もっとあるだろ。
「そうなんですよぅ!この奉仕の心を前面に押し出した画期的なスタイル!今に世界中に広まりますよぉ!」
ふう……良かった。
自分の趣味だけで、異世界にメイド喫茶を広めようとした痴れ者はいなかったんだね。
それになんとなーーく、メイド喫茶はアレなイメージ。
具体的にいうと、ジャンケンと写真撮影でガッポリ稼ごうっての。
そりゃ頼まなきゃいいんだけど、可愛いんだから卑怯だよねぇ……。
まぁ、ここは異世界のオリジナル。そんな稼ぎ方は……
「今ならお好きなメイドとの写真撮影がついたセット我お得で───」
…………あるんかい。
侮れないな異世界。インスタントカメラでもあるのかな、ちょっと見てみたいかも。
「んー……どうする?リリアン」
リッカには悪いけど、ちょっと怪しい。
アンダーグラウンドな雰囲気に偽りなし、だ。
「オムライスが食べたいです」
そうゆうことを聞いたんじゃない。
「もちろん!本職の方も楽しめるメニューを揃えております!」
フフン、って顔してる。
本職扱いされてメチャクチャ喜んでるじゃん。
「…………ふ〜ん……」
「やだぁ!お嬢様、そんなに見つめられると照れてしまいますぅ!」
身体をくねらせるメイドさん。
ふむ……悪くない、悪くはないんだけど……
「なんっか違うんだよねぇ……」
「あ゛ぁ」
うぉっと、低い声。
いやでもなぁ……日頃からメイド服を見慣れてるあたしからするとねぇ。
とりあえず頭。
ヘッドドレスだっけ?あのカチューシャみたいなの、あれに耳が生えてる。安易なネコミミ。
あと服の部分が白いけど黒くない、ピンク。
スカート丈は短くて、ソックスとの隙間に視線を向けてしまうけど……それだけなんだよね。
「こう、さ……衣装の発想が安易っていうかさ……ちょっと考えが浅いっていうかさ」
「お帰りくださいませ、お嬢様」
「リリアン的に良いの、コレ?」
「ふむ……この服も歴史が長いですからね。どんな形であろうと、私が口を出すことはありません」
なんて、得意げに言うリリアン。
いやでもね、やっぱりコレだよ。このスタイルが最高。
このクラシカル?な感じはとても良い。
長いスカートと真っ白なエプロン。シンプルな配色でとっても洗練されてる。
「あっちはちょっとゴチャゴチャしてるんだよねぇ」
「帰れ、お嬢様」
最初はそうでもなかったけど、今は結構好き。
毎日見てても飽きない。良いものだよ、本当に。
「おい、なにしやがりますかお嬢様、おい返せ」
手頃な位置にネコミミカチューシャ。
ふむ…………ふむ…………
「よいしょ」
そのまま乗っけてみた、リリアンの頭に。
「……どうでしょう?」
「んー…………アリだね」
「ちょ、お前ら……帰れよ!」
なるほどね、こうゆうのも着る人着ける人次第か。
「じゃあメイドさん、二人で。あ、できれば窓際の席でお願いします」
「帰れよぉ!お嬢様方ぁぁあああ!!!」
オムライスかぁ、人が作ったのを食べるのって久しぶりかも。
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