第184話 前略、反省と縄張りと

「「ちぇりぁぁっ!!」」


 たまに、本当にたまに、だけど確実にある。

 あ、コレ決まった。って感じの、気持ち良いくらいの足刀蹴り。……まぁ、ブーツに足刀もなにもないと思うんだけどね。


「「ん?」」


 そしてその気持ち良さのままに出てしまった掛け声がハモった。

 顔を向ければ尋ね人、行方不明でなくても尋ね人。


「リッカだ」


「セツナじゃん」


 ばったり街で、みたいな再会である。

 

「ビックリ、セツナもコッチ来てたんだ」


「うん、なんか大事そうな場所だったからね」


 拠点……砦?

 なんだろ隆起した山のような場所に、人やら塀やらなにやらがちらほらと。

 

 あまり動かないんで忘れがちだけど、亀の上なんですよ?

 勝手にそうゆうのを作るのはよくないと思う。


「ねっ!後はここを制圧しちゃえばほとんど終わりかなって、見張りを倒して忍び込んでるの」


「奇遇だね、あたしも忍び込んで来たところ。ちょっと油断しすぎだよね」


 まぁ、さすがにそろそろバレるだろうけど。

 なんにせよ、都合が良くてそんで話も早くて助かる。日も傾いてきたし、いつまでも亀が動かないとも限らない。

 

 なら何事も迅速に、だよね。


「そういえばリッカ、張り切ってるね。リンゴ好きなの?」


「あんまり、でもそろそろかなって」


「そろそろ?」


「うん、そろそろ。いつまでも変な人達が乗ってたら亀が可哀想だよ」


 なるほど、そっちか。

 なんとなく分かってたけど、今日一日で作ったものじゃないよね。

 多分だけど、ずっと人が乗ってるんだろうな。もしかしたら実が少ないのは、そのストレスだったり?


「あとそろそろ反省したかなって」


「んん?」


 反省、とな?

 反省はしてないんじゃないかな、現在進行系で独占中だし迎撃中だし。


「この人達じゃないよ、セツナの依頼主。木々の世話ばっかりだから逃げられるんだよっ!」


「…………あー、ダンドックさん」


 んー……?あれ、リッカその時いなかったよね?

 そんなに有名な話なのかな。まぁ、世界が変わってもさ、みんなその手の話は好きなんだろうね。


「なにもない土地を選定道具持って歩くのすっごい怖いんだからっ!」


「それは分かる」


 いやホント、あれはホラー。  

 …………んん?リッカ、その時もいなかったよね?


「んー……リッカってもしかして関係者だったりする?」


「うん、親戚」


 あーーー…………なるほどなぁ……


「カンナちゃんって知ってる?」


「知ってるよ」

 

 なるほどなるほど、なるほどなぁ。

 そうゆう事か、リリアンの友達はリッカで、リッカを経由してダンドックさんを見つけたのか。


 やっと点が線になった感覚。

 そんでそのリッカがカンナちゃんを知ってるって事ね、だからここでも手伝ってくれるんだね。


「ん、後さ、最近リリアンと会ってるのってリッカ?」


「そだよ。…………あっ!セツナが心配するような事ないからねっ!」


「???んー……?」


「大丈夫だって!ちゃんとリリアンちゃんはセツナのこと好きだからさっ!」


「???そりゃどうも」


 んー……久しぶりに友達の事が分からない。

 頭の中のはてなマークは増えてくばかり。ただ最近よく外出するリリアンが、どこに行ってたか知りたかっただけなんだけど。


「あれ……てことはあたしの特訓にも付き合ってもらったし、その後でリリアンと会ってたの?ごめんね、知らなかったんだよ」


 どこにいるかよく分からないカガヤより、だいたい決まった場所にいるリッカの方が都合よくてさ。


「いいって!いいって!それよりさっ!…………セツナ」


「ん、とりあえず、サッサと終わらせようか」


 二人、かな。なんにせよサクッと終わらせよう。


「どっちにする?」


「んー、左かな」


「じゃ、あたし右っ!」


 助走をつけて、飛んで、蹴り飛ばして。

 もはや安心感すら覚える不意打ち、もう一人にはバレちゃうけど。


「バァーーンっ!」


 アホみたいな声と冗談みたいな銃声がなって、気づけたのも束の間。強烈な風が炸裂してどこかに吹き飛んでいく。


「う〜ん、セツナ、不意打ちとは卑怯なり!」


「…………ん?あれ、今のはリッカもそこそこ卑怯だったよね?」


 面の皮が厚いというかなんというか。

 なんならあたしよりよっぽど酷いよ、だって完全に視界の外からだし。


「いやいや、セツナが見えた時点で戦闘開始だよ。つまり気を抜いたアッチが悪いねっ!」


「んー…………まぁ、そうだね」


 必要なのは割り切ること。

 流されるのも大事なことなんです。




「やいやい!てめぇらだな!?俺らの縄張りを荒らしてんのはよぉ!」


 …………なんか、でてきた。

 なんだろ、あれ、んー…………?


「はっははっ!見てよセツナ!宇宙服みたいなの着たへんな奴らっ!」 


 隣でリッカが大笑い。

 あぁーなるほど、宇宙服か、ようやくしっくり。なんかそれっぽいずんぐりとした服……?スーツ?を着た集団が現れた。


「宇宙服、あるの?」


「あるよ、宇宙服」


「ふーーん」


 異世界人も宇宙に行く時代かぁ。

 なんか変だけどロマンがあるよね、行ってみたいなぁ、宇宙。


「聞いてのんかよぉぉ!!何しに来たんだてめぇらぁ!!」


 ん、うるさい。

 顔は見えないけど、そこそこ歳いった男の声。いい年した大人が吠えるんじゃないよ。


「何しに来たんだっけ?セツナ」


「ん?あーー……この街の秩序とかを守りに?」


「あ゛ぁん!ここは俺等の縄張りだ!ガキのままごとならよそでやんな!」


「さっきも聞いたね、アレ」


「ん、そんでアイツらの縄張りじゃないしね」


 誰のものでもないでしょ。

 たまたま来た亀に、たまたま分けてもらう。それでいい、それぐらいがいい。


「今から全員倒すけどさ。それ、動きづらくない?」


「俺様の作ったパワードスーツに文句あんのかよぉ!」


 おぉ、今度はパワードスーツとな。

 いやはや、いつからあたしの物語は異世界転移物からスペースオペラに切り替わったのか。


「大丈夫?セツナ、怖くない?」


「ん、問題なし」


 そもそも分かってた、リリアンが来ない時点で。


「さすが、覚悟決まってるねっ!」


「……いやね、覚悟とかじゃなくてさ」


 そりゃ決まってるけど、そんなたいしたものじゃなくてさ。


「この世界の人にさ、本当の悪者なんていないよ。みんな優しいからね。だから今回も倒して、ごめんなさいで済む話なんだよ」

 

 だから、別に怖くない。

 怖がる必要なんてない、ちょっと怖いのはやりすぎちゃうこと。


「ま、そだねっ!よーーしっ!あたしの二丁拳銃が火を吹くぜ!」


 二丁……拳銃なの?拳銃の定義がよく分からない。

 前は大したことなかったけど、今は普通に武器だよね、ソレ。


「まぁ、いっか。それこそつまらない事だし」


 あたしも構える。特に構えを持ってるわけじゃないけど、蹴りを出しやすいように。

 

「おやおやセツナさん、お腰の剣は飾りですかな?」


「飾りだよ、その方が平和だからね」


 まだちょっと、もうちょっと。

 そうゆう状況じゃないと人に振るえない。


 斬れないって分かっていてもね。


「そんじゃあ久々に……いっちょいきますかぁー!」

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