第183話 前略、まぁまぁとシンプルと

「…………いや、なにしてんの?二人共」


 あれからだいたい一時間くらい経ったのかな。

 襲い来る独占派との戦い……いやぁ、まさに間一髪、あとほんの一瞬反応が遅れていればあたしはここにいなかったらだろう。


 まさに歴史に語り継がれるべき戦いだった……


「無念……」


 話しかけたら比較的マトモな方の意識が落ちた。

 炭水化物な友達の残り一組。見つけたときには、二人揃って縛りあげられてる。ってか凍ってる。


「あのクソガキ……共がぁ……」


 ガクっ、とチンピラちっくなもう一人も。

 さらば、ライス、ミェン。お前達とは正々堂々と戦いたかった…………


「さて、黙祷終わり」


 死んでないけどね。 

 面倒な奴らを倒しといてくれて感謝感謝。


「んー……仲間が優秀」


 なんとなく、寒かったからコッチにきた。

 氷と共って発言。散り散りになったうちの一人……いや、二人か。ともかく合流できた。


「調子はどう?」


「まぁまぁだぜ、セツナのねぇちゃんは?」


「まぁまぁだよ」


「まぁまぁってのは良いもんだよな。んで、あのアホっぽいにぃちゃん達は知り合いだったりするのか?」


「んー……それもまぁまぁかな」


 まぁまぁ仲良いよ、友達。

 一緒に魔物退治に行ったし、でも今は仲良くできないからね。


「他に誰かと会った?」


 剣を回収してから競合相手にしか会ってない。

 アッチも多分あたし達に気づいてるだろうし、なにか危ないものを出される前に仕留めきりたい。


 あと、言っちゃあ悪いけど個人的にこんな問題はとっとと終わらせてしまいたい。

 だってこの後にはこれより大きな課題が待ってるしね。


「…………」


「どしたの?」


 ヒョウは苦々しい顔で黙ってしまう。

 …………まさかもう誰かやられてないだろうな。


「……セツナのねぇちゃん、あれだ、卑怯っつーか狡いっつーかよ、どこまで許していいんだろうなぁ」


「ん……?」


 なにか……あったのかな?

 まさかそんな目にあってたとか?許せないな、神聖な戦いに卑怯や不意打ちをする奴がいるなんて。

 正々堂々と戦うべきだ、恥を知れ。


「カガヤのにぃちゃんがすげぇ良い顔で落とし穴掘っててよ……怪我したふりして不意打ちしたりよ……」


「…………」


「アレとか見てるとさ……一度はやった自分が情けなくえ思えてくるんだよ……」


「…………」


「なぁ、セツナのねぇちゃん。始まる前はいろいろ言ってたけど、本当はよ……本当はセツナのねぇちゃんは真面目に正々堂々戦ってるんだろ!なぁ!?」


 ………………やっばいどうしよ。

 とりあえずその真っ直ぐな目をやめて、効く。


 しかしあの優男、ホントに振りきってるな。

 目的の為に手段を選ばなすぎでしょ、参考にさせていただきます。


 さてさて、今あたしがやらなくちゃいけないのはただ一つ。

 

 不意打ちも卑怯なやり方も、立派な戦法だということ。

 そういった感情を抜きにして、勝つ為に手段を選ばなくなるのが大人になるという事。


 それをまだ子供のヒョウにしっかりと教えてあげる事。

 あたしも、カガヤも、きっとリッカもひとしく卑怯者だという事。


「………………あのね?」


 さて言うぞ、なにも恥じることはない。

 いつだって正しいと思った事が正義のハズだ。


「そんなの当たり前でしょ?あたしは正々堂々で清廉潔白、品行方正なのが取り柄なんだから」


「だよな!やっぱそうだよな!」


「もっちろんだよ!」


 あの卑怯者め、子供にとってお手本になるように動くのが正しい大人だろうに。

 歳がどうとかじゃなくて気持ちの問題だよね。


「それじゃあ、あたしは行くよ!引き続きよろしくぅ!」


 さて、逃げようか。

 下手に長居して、この前初見殺しドライブをマイナーチェンジも合わせて、何発も叩き込んだかを思い出されても困るからね。


「なぁ、セツナのねぇちゃん」


「…………ん?」


 マズイ、思い出されたかな?


「本当に今更なんだけどさ、なんでそんなにしてくれんだ?」


「んん?そんなにって…………約束したから?」


 本当に今更だよ、もう乗り込んじゃったし。ついでに別の用事も乗っけちゃった。


「いやだからよ、なんで約束してくれたんだ、って」


「んー…………」


 難しい質問。というかあんまり細かく答えたくない。

 あれ、ていうか前に話さなかったっけ?

 

「だって困ってたじゃん」


「…………は?」


 まぁでも、答えられなくもない。

 大事な人の真似から始めて…………でもさ、真似じゃなくて、今ならちゃんと思えるよ。


「困ってる人がいたら助けるよ、みんなが笑顔だったら良い世界だと思わない?」


 みんなが笑っていたらいい。

 誰かが悲しんでいるのは嫌だ。


 そのぐらいシンプルでいい。

 そのぐらいシンプルで良い世界だったら、椎名先輩もきっと生きやすい……と、思う。

 そのぐらいのシンプル目的なら、あたしもまだまだ歩ける。


「……セツナのねぇちゃんって変な奴だな!やっぱり!」


「よく言われるよ、コッチでも元の世界でもね」


 ちょっと思い出す、すぐにかき消す。

 今は異世界、友達と街の為にもう少し頑張ろう。


「よっしゃ、オレも頑張るかぁ!」


「ん、あたしも頑張るよ」


「そいやリッカのねぇちゃん見たぜ、アッチの方。めっちゃ気合い入っててよ、ちょっと怖かったぜ」


「そんなに……?なら、あたしもそっちに行こうかな」


 リリアンの代打なのに、すごい気合いの入りようみたい。でもさ、先を越されるわけにはいかないよね。


 あたしも亀の背中で一番高いところ。

 ヒョウの指さした場所に向かう事にした。

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