第185話 前略、競争と約束と

「っ、せいっ!」


 みず……じゃなくて、すい……なんだっけ?

 とにかく鳩尾のあたりに放った蹴り。胃の近く、人体の急所に入ったはずなのに。


「ちっ!おらっ!」


「反撃してくるんだよなぁ!」


 ブニっ、って感じ。

 さっきまで一撃で倒せてた相手が倒せない。


 ニ発、三発、顎、横腹。

 倒れない、倒れても起き上がる。これじゃあ大将首まで届かない。


「……よし、やってみようかな」


 でもダメージがないわけじゃない。

 それなら悪いけど……実験台になってもらうよっ!


「がぁっ!」


 振りかぶられる武器、見切るのは問題なし。

 後ろに飛んで、一歩で懐っ!


「いくよ」


 半歩手前、イメージはある程度、まずは実践。

 振り戻される右腕は手刀で弾く、左腕は殴りつける。


 攻撃開始。

 握った右手で殴りつけ、左手は掌底、叩きつける。


「おっ……っと!」


 やっぱりぐらつく、そして一瞬じゃない。このまま無理に続けても隙間があく。

 でもその為の半歩前、あたしverはここからだ。


 そのまま倒れ込むように前に、相手が後ろにいったぶんも合わせて一歩分。

 友達の炭水化物達はこんな感じで前に、そして攻撃を続けてる。


 手刀、顎へ、最後、掌底。大気圏までふっ飛ばす。

 これで六連撃っ!さて、決めよう、格好良く!!!


「リッカリョウランっ!!!」


 悪くない……んだけど、改善の余地あり。

 まだまだ、いろいろと遠いなぁ。


「まぁ、名前もそこそこ。あたしの方が格好良いけどね」

 

 ネーミングセンスでは負けてない、そう思いたい。

 …………いや、負けてないよね?


「二人……」


 あたしの視界の中にいて、アッチも視線を向けているのは少なくても二人。

 ちょっと面倒、一人にかかる時間はいつもよりかなり多い。


「仕方なし、だね」


 使わないと決めた剣を抜く。

 何度目か、刀身は驚くほどスムーズに鞘からでてくる。


「使うけど……いい?」


 返事はなし。いや、襲いかかってくるのが答えか。

 剣を抜いたのに向かってくる、そんな覚悟決めなくたっていいのにさ。

 武器とかあって、殺し合いもそこそこある世界ってのはやっぱり物騒だ。


「……ふぅ」


 しっくりくる、安心する。

 体格で負けても、経験で負けても、勝負に負けなきゃ問題なし。

 そしてその為の技術は日々練習中、優秀な先生がいるからね。


 リリアン曰く、大事なのはどこを打てば止まるのか。

 武器を止める、自分よりも小さい相手なら有効。

 手首なら?止まる確率はかなり上がる。


 なら今回は?どこを打つか、見極める。

 振りかぶるのは許しても、振り下ろすのは許さない。


「ここっ!」


 肘、内側から打ち込んで、強制的に曲げる。


「いっっっ!!」


 言葉にならない?そりゃそうだ、武器だからね。

 拳とか蹴りより、深く、強く響いてるのが分かる。ならあと一発っ!


 吹き飛ばした身体を二人目にぶつけて、そのまま振りかぶる。当たると……痛いよ?


「せーー……のっっ!!!」


 二人まとめて頭をかち割るっ!!!


 …………まぁ、んなわけがない。振り下ろす前に気を失ってるし。


「そもそも斬れないしね」


 斬れない状態で使ってるとかじゃなくて、そもそも斬れない。


 だって木刀だしね、コレ。

 いやぁ、持っておくもんだね。最近はちゃんとした武器ばっかりで忘れかけてたけど、これはこれで悪くない。


 …………いや、これをメイン武器にしてる奴はどうかと思うけど。

 元気にしてるかなぁ、あの中途半端な不良。


「さて……ってうわぁぁ!」


「??どしたのセツナ」


 ビックリした、急に後ろに現れないでよ!

 振り返ったら人がいるのって結構怖いから!


「ねーセツナ、撃ちきっちゃった、弾」


「んーー…………で?」


「込めてよ!楽したいしっ!」


「残念だけど魔術は得意じゃないの、量も少ないしね。干からびちゃう」


「えーーー、残念っ!」


 ホント、残念。あたしも異世界なら魔術が使いたかったよ、もっと派手にね。


「ん、リッカ、後ろ後ろ」


「あーー、もういいやっ!弾ないなら邪魔だしっ!」


 ポイッ、って。言い終わったらポイッ、って。

 なんの興味もないかのように、元から邪魔だったって言わんばかりに。


「ハーーイ、キーーーーック!!!」


 アホっぽい掛け声で振り向きざま、宣言通りにかまされるハイキック。

 スゴイけど、アレ、首イってない?大丈夫?


「どうっ!?セツナの真似!」


「ん?あぁ、リッカ脚長いなぁ、って」


「やだ、褒めてもなにもでないよ?でももっと褒めてもいいよっ!」


 はいはい、緊張感ないなぁ。

 あと本当になんで武器投げ捨てた方が強いんだろ、実は異世界人ってみんなそうだったりするのかな?


「セツナ剣使ってると思ったら木刀じゃん!リリアンちゃん泣くよっ!」


「泣かないよ、大事にしてるし。あんま変わんないだろうけど木刀の方が安心するんだよ、アッチは本当に斬れるから」


 まぁ、固いもので殴打してるのには変わりないんだけどね。そこはお互い様って事で。


「んー……どれが大将だろ」


「アレじゃない?一人だけ明らかに奥にいるの」


 リッカの指さす方には確かに、腰の引けた宇宙服が一人。


「そんじゃあいこっか、もうあとちょっと」


「ね。あっ!セツナ、競争しよ!」


 また競争、本当に楽しそう。

 たまには乗るか、たまには悪くない、だよね。


「いいよ、大将除いてあと五人。先に三人倒した方が勝ち」


「いいねっ!楽しくなってきたっ!」


 よーいドンで同時に駆け出す。

 ほぼ同時に一人目の処理が終わる。続いて二人目。


「なんか楽しいねっ!」


「そう?」


 別に楽しくはない、戦いって別に楽しくない。

 

「うん、楽しいっ!友達となにかやるのって最高っ!」


 …………そっか、そうだね。

 なんだ、それなら良い。シンプルだ。


「うん、そうだね。楽しいよっ!」


 それなら悪くない。いや、良いことだと思う。

 全国共通どころか世界が変わっても変わらないなんて、まさに最高。


「また冒険したいねっ!今度は保護者抜きでさっ!」


 チクッとする。どこかが痛い。

 多分、この街にいるんだよね。出てこれないけど、出てきちゃいけないけど。


「…………うん、そうだね。あたしとリッカ、あとラルムも誘ってさ、またどっか行こうか」


 果たせない約束に意味はあるのか。

 分からないけど、希望が残るならきっと悪くない。


「「ちぇりぁぁっ!!」」


 アホみたいな掛け声がハモって五人目、引き分けかな?


「あっ!逃げたよっ!セツナ!」


「ん?いいの?追っちゃって」


「いーよ!譲っちゃうっ!リンゴは代わりに集めといてあげるよっ!」


 んーー、いたれりつくせり。

 なら行こうか、競争とか言うから一番の目玉も取り合いかと思ったのに。


「あとね、無理に真似するくらいならもう蹴っちゃえばいいと思うよっ!」


 んん…………?

 あぁー、アドバイスか、なるほど。


「ん、ありがと。決めてくるよ、鮮やかに」


「行ってらっしゃ〜い」


 さて、リンゴ狩り編。終わらせますか。

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