第178話 前略、ホラーと手伝いと

「───いひっ、ひひひひひ……」


 青空の下、街の中とは思えないほど広い高台で奇妙な……


「はは……」


 いや、寂しそうな笑い声が聞こえる。


「ねぇ、リリアン……あの人?」


「はい」


「…………」

 

 キコキコ、男性がただ一人。

 キコキコ、荷車に入ってるのは木を整備する為の道具かな?

 キコキコキコキコ、青白い顔でそれを押しながら。キコキコキコキコキコキコ……


「さぁ、行きましょう」


「待って!?」


 あまりにも……あまりにもいつもどおりのリリアン。

 いやいやいやいや、そうはならない。


「どうかしましたか?」


「どうかしましたか?じゃないよ、無理だよ無理無理。危ないってヤバイよ近寄るべきじゃないよ、何してるか分かんないもん。絶対、近づく、ダメ、オーケー?」


「はて、剪定作業では?」


「木があったらね!?」


 ところどころそんな跡はあるけど、今、目視できる木は一本もない。

 あるのは夏のホラー番組も真っ青な光景だけ。


 行かなきゃダメ!?行かなきゃダメかなぁ!?

 …………そうだ!


「カガヤ!」


「……あぁ、なんだい」


 大丈夫そうだ、いつもの感じ。

 これなら遠慮なく押し付けられる。


「行ってきてよ!話聞いてくれるだけでいいからさ!」


「…………セツナ」


「ん、なに?」


 やっぱりこうゆう時には男の子。

 いまさらそんな考えは古いって?やかましい、昼間の幽霊よりもすっごく強い相手とかより怖いんだよ。


「無理だよ、逃げていいかい?」


「……このヘタレがぁ!」


 コイツ冗談で言ってない、本気で逃げるつもりだ。

 ふざけるな、コッチはか弱い女の子二人だぞ。逃げるなら一緒に逃げよう。


「君達わぁ……」


「「ひぃっ!」」


 単純に恐怖、シンプルに悲鳴。

 二人して飛び上がって、方向転換。よし!逃げるか!


「娘の……カンナの友達かな、ひひ……」


 違う違う違う違う違う違う!!!

 だれだカンナって知らない知らないぞ!


 現代のホラーを知ってる身としてはオチがよめる。

 はい、そう答えたが最期、その娘と同じく消されるんだ。そしてその後あたしの姿を見たものはいないという……


「はい、そうです」


「リリアン!?」


 当たり前のように選ばれるバッドエンド。

 いつもは頼れるリリアンも、どうやらホラーのお約束は知らないらしい。


「あひっ、ひひひひひひっ!」


「「ああぁぁぁーーー!!!」」


 逃げました。リリアンの手を引っ張って、三人で。




「──んで、あんなこと言っちゃて大丈夫なの?リリアン」


 夕飯時、我が家となった工房で囲む食卓。


「あんなこと、とは?」


 あの後、普通にリリアンに引っ張られて、逆にお屋敷まで引きずられたあたしとカガヤ。

 お屋敷は他に人がいないにもかかわらず、やけにキレイなままで、そのキレイさが逆に不気味だったり。


「リンゴを持ってきて、また管理を始めてもらうかわりに娘さんを連れてくる。ってやつだよ」


 大変だった……あのホラーおじさ……じゃなかった。

 ダンドックさん、ダンドック・リッチーさん。


 二言目には奥さんと娘さんの話になるんだ、もうその内容が悲しくて悲しくて……

 涙無しには聞けなかった、というかあたしとカガヤはほぼなにもしてない。


 酷いよ娘さん、カンナちゃんなのかカンナさんなのか分からないけど。

 なんてタイミングで家出するんだ。


「えぇ、それは大丈夫です。すでに見つけていますし、話もつけてます」


 …………なんだってこのメイドこんなに有能なんだろう。

 わりとポンコツちっくなところもあるのに、こと大事なところではとんでもなく頼りになる。


「見つけたってさ、眼で?リリアンは心しか見えないんじゃなかったっけ?」


 後はなんか遠くも見えるのは知ってるけど。

 だけど遠くが見えても、人は見つけられないんじゃないかな。


「はい、心と遠く。それだけですが、今回はそこは問題ではないので」


「んん?」


 まぁ、いっか。

 いつも不思議な力で助けてもらってるし、今更だ。


「なんだお前ら、収穫祭行くのか」


「ん、そうみたいです」


 そうみたいってか行くんだけど。

 お金……じゃなかった友達の為にね。


「いや、リリが行かねぇってから行かないもんだと思ってた」


「んん?リリアン、最初行くって行ってなかったっけ?」


 少なくともあたしはそう聞いてた、最大戦力で挑むと。

 あの時は意味が分からなかったけど、今となればなるほどだ。


「日程が被っていたのを知らなかったんです。予定を立てるのが楽しくて失念してました」


 うっかりさんである。こうゆう弱点があるから憎めない。

 リリアンは結構浮かれて油断したりするからちょっと心配、いつか悪い男に騙されてしまいそうだ。


「まぁ、とっとと終わらせて行こうか、舞踏会。エスコートはできないけど、一緒に楽しむことはできるからさ」


 ちょっと大変なスケジュールだけど、なんとでもなる。

 こんなに頑張ってもらったんだ、報われなきゃいけない。それが報われるかどうかはあたし次第だ。


「セツナ、明日は空いてるか?」


「んー……?まぁ暇です」


「ちょっと手伝え、作る手は足りても売る手が足りねぇ」


 なるほど、最近サボり気味だったし時間があるならちゃんと手伝わないとね。


「リリアンは?明日は暇かな?」


「午後からなら予定はありません」


「そっか、あたしは夜からちょっとでるからさ、手伝って貰ってもいい?」


「えぇ、構いません」


 よし、なら明日は手伝って明後日にリンゴ狩りだ。


「リリ……お前さっき聞いたら明日は予定があるって…………」

  

 ここにも悲しき屍が一人。

 いつの世も、妻、娘、妹。なんにせよ冷たくされるのは悲しいものなんだなぁ……

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