第177話 前略、加護と服と

「んーで、どれなの?」


「??どれ、とは」


 ズラッとならんだ依頼。

 共有ではなく独占状態になってしまったリンゴを手に入れる為、様々な人が我先にと冒険者を雇おうとしている。


「その数年前までの管理者の依頼だよ」


 読めばなかなか物騒な事が書かれてる依頼もちらほら。

 金払いだけで依頼を受けるのは良くない、やっぱり前任者に任せるのがいいと思う。


 …………奥さんと娘さんに出てかれたのは同情するけど、さすがにもう立ち直ってるよね……?


「さぁ?」


 …………さぁ?

 あれ、聴き違いかな。なんか今そんな事知るわけない、むしろそんなつまらない事を聞くなみたいな反応をされた気がする?


 いやいやいや、ないよね?そんなこと。


「リリアン?」


「…………」


 ふいっ、と顔を逸らされる。

 もちろんリリアンの視線の先には誰もいない。


 んー……こりゃ知らないな、本当に。

 まぁ、別におかしい事でもないか、リリアンはもともとここに住んでるわけじゃないし。


「んでカガヤ、どれがその依頼なの?」


「え、あぁ…………」


 ん?なんだこの反応。

 明らかに、明らかにコイツ知らないぞ。


「…………」


「カガヤ」


「…………さぁ?」


「よっし、表でろ」


「ちょっと僕に厳しくないかい!?」


 なんかその真似をしておけば誤魔化せる、そんな考えが鼻につく。

 

「そういえば前は全然蹴りが当たらなくて、結果あたしがふっ飛ばされたけど、今ならいけそうな気がする」


「やめてくれ、それに今は女神の加護が戻ってるから、おおよそ人の攻撃はあたらないんだよ」


 毎回毎回、キザな……いや、今回は惚気た言い方をする奴。

 まぁいいんだけど、いいんだけども……いや、なんかちょっと羨ま……腹立つなぁ。


「惚気けんなってよく言われない?彼女が応援してくれて嬉しいのは分かるけどさ」


 いや、分からないけどさ。

 嬉しいものなんだろうなって事は分かる。応援ってのはいいものだし、それが特別な人からならきっと最高だ。


「あぁ、いや、本当に加護がかかってるんだ。僕は傷つかない」


 ん?あれ……これ、冗談とか軽口じゃないぞ。

 本気で言ってる、って事は……


「あっはっは、つまりそうゆうことさ」


 …………あのエセ女神!

 なにがあまり干渉しちゃいけないだ!やっぱり私利私欲の為に力使ってんじゃん!


 あぁ、もう、なんか腹立ってきたぁ!

 やっぱり天使も女神もアホばっかだ!エセ天使は姿すら見せないし!


「やっぱ表、でようか。とりあえず地平線まで蹴っ飛ばしてやる」


「待ってくれセツナ、話し合おう」


「当らないならいいじゃん」


「なんかその……そろそろ君の攻撃は当たりそうなんだよ……」


 さすがにそうはならないと思うけど。

 まぁ、あたしはこの世界の人間じゃないし、格好良く表現するならこの世界のルールを破ったスキルを持ってる。

 

 なにが起こるか分からない。

 まだ読めない部分もあるし、今の所着替えに使えるのが最大の利点だけどね。


「まぁ半分……四分の一くらいは冗談だけどさ。ならどうするの?家は街の人に聞けば分かるだろうけど、依頼がでてないならどうしようもない」


 そんで家を探すにしてもあまり時間がない。

 収穫祭は明後日だ、もろもろの準備もあるからそんなところに時間を使うわけにもいかない。


「エセ女神に聞く?」


「…………あまり言いたくはないが、彼女が街の人間を覚えているとは思えない」


「……だね」


 まとまりかけた話はまたふんわりと。

 ちょっと無計画過ぎたかもしれない、反省しなきゃ。


「リリアン?」


 いつの間にかいない。

 というかいなかった、だ。今帰ってきてコッチに向かってる。


「おかえり、どこ行ってたの?」


「友人と話してました」


「そっか、んで聞いてよ。言い出しっぺなのになんの手がかりも持ってないんだカガヤは。あたしも無計画なんだけどさ、にしても酷いよ」


「それに関しては面目ない」


 まぁ、計画が上手くいかなくてもなんとかなる。

 軽口を叩き合える友達がいるっていうのは、そんな安心感を与えてくれる。


「いえ、それは今しがた解決しました」


「んん?」


「見つけてきました、その貴族を」


 いつものなんでもないような表情で、声で。

 あたし達がうだうだとふざけている中で、あっさりと解決してきたみたい。


「「…………」」


 目配せ、そんで小声でせーの。


「「ごめんなさい」」


 申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 いや……ホントに……頼りになります。


「はい、では行きましょう」


 リリアンを先頭に酒場をでる。

 ちょっと眩しいけど、それほどでもない少し高めの気温が肌を包む感覚。


「そういえばリリアン、暑くないの?本当に今更なんだけどさ、島の外なんだし着替えたら?」


 もう半年くらいかな、ずっと言いそびれていた言葉。

 仮にリリアンが本当にメイドさんだとしても、ここは屋敷じゃないし、さらにいえばその領地でもない。


 見ている分には目の保養になるけど、着ている本人は暑くないのかな。

 前になんとなく服の構造を聞いた時、特に通気性の良さは感じなかった。あとだいたい黒いしね。


「暑さにも寒さにも強いので」


「そっか。でも着替えたかったら言ってね、いっぱい持ってるからさ。あ、今は着込んじゃってるけど」


「…………ふむ、着替えた方がいいでしょうか」


「んーー、ちょっと見てみたいかも」


「色はどうしましょう」


「色……色かぁ。んー、く…………白かな」


 本当は黒がいい。

 最高に似合ってる、シンプルでこれ以上ないくらい美しい、そんでかわいいと思う。


 だけど押し付けがましいか。

 他の色もいいけど、いきなり派手な色はハードル高いだろうし。なら折衷案で白だね。


「白ですか」


「うん、前のワンピースも似合ってたよ」


 ちょっと前を振り返りながら、ガールズトークを楽しみながら。

 高そうな家……というか屋敷が並ぶ通りに向かう事にした。

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