第164話 前略、再確認と今と

 ………………。


「はぁ……」


 ため息。

 やっぱり上手くいかない、てんでダメだ、しっくりこない。


 上段の構え、というのか。大きく振りかぶった状態を解除し、力を抜く。

 なんか……もにょる感覚。理由は分かってるんだけどさ。


 ただ全身全霊で振り下ろすアレが。

 あのシンプルすぎて強烈すぎて鮮烈すぎるあのイメージが、あたしの模倣を許さない。


 あの美しさが、その形を変えることを許してくれない。


 そして体格もなにもかもが違うあたしでは、そのまま真似しても意味がない。

 あたしにも責任がある。あの時、その場の雰囲気で酷い模造品にその名前を使ってしまった。

 気分が落ち着いたとき抱いた嫌悪感を思い出す。自分で自分の憧れを穢した感覚、最悪だ。


 あと単純に重い。

 だからあんまりコレを使いたくない。リリアンは重くないと言ってたけど、それはそうゆう武器なんだろう。持ち主に重量を感じさせないとか。

 

「やっぱ変更」


 構えを変える。

 仕方ない、一番はまたの機会に披露しよう。


「なんだぁ?その構え」


「ん、オリジナル、かな?世界で二番目に格好良い必殺技のね」


 目を開けたヒョウからも疑問。

 ちょっと不格好だけど、この形からあの必殺技を模倣する。


 両手で剣を真っ直ぐに突きだす。

 それをグーーーーっと身体を捻り後ろに、ちょうど最初の形から180°のイメージ。


 なにも隠すことのない、横薙ぎ一閃の形。

 大振りで、対象を上下に分割する。そんな形


「そうゆうの、分かりやすすぎてダメじゃねぇか?」


 さっき作戦を聞いたあたしの指摘を返すように、ダメ出しをされる。


「心配いらないよ。分かりやすく───それでも必殺だから必殺技なんだよ」

 

「そうかい」


 分かっていても、防がせない。

 あたしの道は塞がせない。


「そんじゃあいっちょいきますかー!」


 さて、ここで再確認。あたしの必殺技、セツナドライブについて。


 これまではもらった不思議なブーツが起こす、不思議で加減の知らない加速で飛んでいた。

 だけど先日いろいろあってブーツは壊れた、完膚なきまでに。

 そして不審者もとい魔術師の友達に、改造兼修理をお願いした。


 そして出来上がったこの新しいブーツ。見た目はちょっと継ぎ接ぎで使用感がある。

 このブーツ自体に加速を起こしたり、飛ぶ機能はない。


 ある機能は二つ。

 集積と蓄積。


 一つ目は風を集めやすくする。

 多分、今なら時間をかければ裸足でも飛べるけど、コレを履いていれば風を集めて圧縮するのが非常にやりやすい。


 二つ目は集めた風を一部貯めておける。

 貯めておけば、片足につきニ〜三回分簡易的に飛ぶ事ができる。

 ちょっと速度は落ちるけど、毎回毎回自分の力だけで飛ぶと疲れるからね。


 そしてあたしが風を圧縮する。イメージは球体。

 それを踏んで飛ぶのだ、圧縮具合によって強弱、方向転換、ジャンプ。大分勝手がきくようになった。


 ノーリスクじゃなくなったし、あたしの魔力が少ないせいで貯めてないとすぐに疲れちゃうんだけど。

 回数制限はなくなった、体力が続くなら、極論死にさえしなければ何度でも飛べる。

 体感の話だけど、最高速度も上がってる。


 あと一つ機能があるんだけど、それは使うと壊れるらしいので使わない。

 …………なんでつけたのさ、ポムポム。


 まぁ、なんにせよ。

 ここまでいろいろあったけど、ようやく完成したって事でいいだろう。

 あたしの必殺技、セツナドライブが。


 解説終わり。尺長だ、行こう。


 助走。もう本当に必要ないんだけど、やっぱりないとなんか違う。

 いつもの五歩のルーティーンだ。引きずる大剣、一緒に飛ぼう。


「セ ツ ナ!ドライブっ!」


 貯めてた分は使い切ってるので、風を集めて飛ぶ。

 世界は加速する、後ろに置き去りにする。

 

 あたしはただ前に、ただただ前に。


『……今っ!』

「おぉっ!」


 あぁ、完璧なタイミングだ。惚れ惚れするよ。

 完璧すぎる。あまりにも最高で無駄なんて欠片も介入する余地もない。


 あたしは両断されていただろう。

 あたしが本当の意味で昔のあたしなら。


「……は?」

 

 ところであたしは思うのだ。

 すぐに立ち上がり前に進む事が確定しているのなら──


『……え?』


 まだ諦めないと、その心が折れないのなら──


「なんっで……!」


 立ち止まるのも、座り込むのも悪くない。

 大事なのは結果的に前に進む事、異世界に来て学んだこと。


 天国の椎名先輩、つまりそうゆう事なんです。


「なんでソコにいんだよ!?」


 驚き、見開かれた目。

 グッ、と構えた状態のまま。当たれば圧倒的な冷気を発する刀が、眼球を一ミリの差ですれ違った後、その状態で。

 

「ん、ほらね?立ち止まるのも悪くない」


 実はこのブーツ、最初から異常にグリップが効いてるのだ。

 アニキさんと戦った時から気づいてはいたんだけど、いままではそれを上手く使えなかったんだけどね。


 本来なら今も必要じゃないんだけど、あんな見切りを持つのが相手で、先に刀を振らせるならコッチも全速が必要だった。

 ならば、直前で止まればいい。簡単な話だ。


 そんで勢いは完全になくなってはない。

 あくまで一瞬、ほんの一瞬動きを止めただけだ。


「いざ───」


 あんな格好良くはならないけどさ。

 あたしもあたしの道を開こう、一人分くらいなんでもない。


「いっ……!つぁっ!」


 横薙ぎ、一閃。

 左足を軸に、回る。セツナドライブの速さと遠心力。

 それは辛うじて防御にまわった刀と氷を弾き飛ばす。


 そしてまだあたしは止まらない。

 軸にした左足、それで跳ぶ。いや、やっぱり飛ぶ。


 そしてあらためて振り下ろす。

 横薙ぎの真ん中を今度は縦に斬るように。


 ちょうど二つの軌跡が交わるように。

 交わり、十字を描くように。困難を砕く、そのように。


「───滅!十字っ!」


 格好いい人はいっぱいいるけど、格好いい剣士となると少なくなる。

 あの日のすごいとか格好いいに、あたしも少しは近づけてるのかな?


 異世界に来て増えた、そうゆう小さな憧れとかそんなの。

 異世界に来る前は見て見ぬ振りをしていたそうゆうの。


 今からでも遅くない、それを証明する為に。今──

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