第163話 前略、模倣ととっておきととっておきと
「ちょっと待てよセツナのねぇちゃん、この世界では一人に一本しか武器は認められてねぇんだ」
「うん、知ってる」
相変わらずおかしなルールだ。
多分、嫌がらせだろう。あたし……というか他の来訪者への。
説明の少なさも相まって、今風に言うならクソゲーな世界だ。
「まぁ、これがあたしのスキルの本来の使い方……みたいな?」
あたしの専用スキル。
…………専用だよね?少なくとも他に見たことないし専用でいいと思うけど。
「【あなたの武器】だっけ?その自分の武器を扱うスキル。それを所持している武器全てに適用する。それがあたしのスキルの本当の力」
…………いや地味だなぁ!あらためて!
なんだそれ、そんなの実質武器を持つだけのスキルじゃないか。
この世界ではイレギュラーなんだろうけどもうちょっとさぁ…………まぁ、いいや。
おかげでこの異世界の嫌がらせを受けずにすんでる。ざまぁみろだ。
「他にも何本か持ってて、ここに来るときに受け取っておいたんだよ」
ここで告げる衝撃の真実。さて、反応は?
「なんか……地味だな。すげぇけど」
………………。
「だよねっ!」
誤魔化す為に走る、飛び込む。
「セツナドライブっ!」
「もう突っ込むだけならきかねぇよ!」
それはフラグというやつだ。
良い反応をしてくれる。披露のしがいがある。
飛ぶ。
一歩目、加速する。そしてそれは本命である二歩目への助走。
「ここでっ!」
本来最後の加速になる二歩目。
だけど今は強制的に飛ぶわけじゃない。自由がきくならこんな事もできる。
「消えっ……てっ!」
「左だよ」
あたしから見てだけど。
簡単な話。飛んだのだ、二歩目で左に。
そこからまた一歩、飛ぶ。名付けて曲がるセツナドライブ、だ。
…………さすがにダサいかな?
「んなこったろーと……思ったぜ!」
ん!?あぁ、マズイ良くない。
居合……というのか、あたしが飛ぶのをみてすぐに準備してたのか。
飛べ!まだまだいける、自由なのがあたしの売りだ。
「また消えやが……!」
『ヒョウ君、上!』
残念、即バレた。
身を屈めた状態から上に急上昇。視界からうまく外れられたと思ってたけど、甘かった。
「なら普通に叩くっ!」
「やってみろや!」
やってやるっ!……と格好良く言いたいんだけど。
「ん、んあっ!?」
さすがに空中じゃバランスが悪い。
変な体制で剣をぶつけ合い、あたしが吹き飛ぶ。
「まだまだぁ!」
やるか、アレを。
すぐさま体勢を立て直して突撃。
今から真っ直ぐ、正面から不意をつく。
「はあ!?」
振られる刀。その下に滑り込み、後ろを取る。
身体が柔らかくて……あとリリアンの地獄のようなストレッチを受けてて良かった。最初は死ぬかと思った。
一瞬、とはよべない確かなスキができる。
あたしはあの魔術師のように、魔力自体はバカみたいにある。というタイプじゃない。
魔力は少ないけどある。そんなスタンダードなタイプ。
そしてこれはそもそも技とよべるものじゃない。あんなのただのフルスイングだ。
だけどそれを再現しようとした。その過程で得たものは十分に必殺技になりうる。
いくぞ。腰を入れろ、足から全身を捻り、力よ伝え。
ただちょっと武器の形が気に入らない、細すぎる。
だけど仕方ない、長さと重さが一番近いのはこの両手剣だ。
「ポムストライク!」
「なんだそのだっせぇの!」
あたしに言うな!命名者に言えぇ!
そんな叫びも込めて、フルスイング!!!
「……っと、と!」
んーん、やっぱり体勢が悪い。
吹き飛ばしはしたけど、あのギャグ漫画みたいなぶっ飛びにはならない。普通に着地される。
これが通じないなら長いと不便だ、元の片手剣に戻そう。
「名付けて……飛ぶセツナドライブ&ポムストライク」
「だっせぇよ」
失礼なガキである。
いいもん、分かってくれる人はいるもん。
……ポムポムのあれは知らないけど。
「オレが未熟ってのもあるけどよ。居合よりも速く跳ぶとかよ……セツナのねぇちゃんやっぱはえぇな」
「どーもどーも」
にしても居合、初めて見た。
コッチの移動が速かったのもあるけど、構えが見えづらくてやりにくい。
後は抜刀が即攻撃になるのはすごい。防御と攻撃の両立、あたしもなんかできないかな。
「セツナのねぇちゃん、軽いしカウンター狙いの人だと思ってたぜ」
ん、なるほどそう見えるか。
カウンター狙い。リリアンの特訓では基本的に動体視力と対応力、そして速さを伸ばしてきた。
もちろん人並みにそうゆう動きはできる。……というか初めてケイに会った時に習得させられた。
だけど、あたしの行き着いたスタイルはこうだ。
やっぱりどこまでいってもあたしは誰かに何かに、憧れ続ける時浦刹那なのだ。
「誰かの良いなとか、羨ましいとか、そうゆうものを自分なりに模倣してるんだよ。なにぶん本体があんまり強くなくってね」
もちろん、完全なコピーじゃない。なんだったらかなり劣化している。
本来、単純に大量の魔力を込めたフルスイングも、あたしがそのまま真似したらカスもいいところだ。
だから時間をかけて構える、身体を捻り力を伝える。単純な魔力が足りないなら、微弱でも風の魔力で補強する。
そんな継ぎ接ぎだらけの必殺技。だけど悪くない。
「今のも本人に手伝ってもらって、やっと形になったんだ」
もっと腰を入れろと何度言われたか。
素手でやるにはまだ形ができてない。決まった形のフルスイングでしかできないのだ。
「それプラスあたしの速さ。うん、悪くない」
悪くない、むしろいい、なんだったら最高に近い。
「で、どうする?」
勝ち誇ってみせる。
これにて決着でいいのでは?
「そんじゃ、オレもだすぜ……とっておき」
言いながら構える、また居合の形。
ほんの少し……ほんの少しだけ、嫌な予感がする。
「それより速いよ、あたしは」
「…………」
ヒョウは答えない。
顔を伏せ、静かに構えたまま。
「なら、お望み通りに……いくよっ!」
黙ったままなら仕方ない。
意識は刈り取らせてもらう。大丈夫、手加減はするから。
「セツナドライブっ!」
通算何度目かの助走。
新しいセツナドライブに回数制限はない。あたしが倒れるまで無制限だ。
五歩目で世界が加速する。
どんなにソレが速かろうと、あたしの加速の方が僅かに速い。僅かだけど確実に。
「ハズ……なんだけど」
現実はそんな想定通りにはいかない。
今、目の前に広がる光景は考えもしなかった状況。
「……冷たいな」
凍っている、剣が手が。
刀身のほぼすべて、柄を通じて手首まで。
「ま、これがとっておきだ」
再び構えながら告げられる言葉。
なるほど……必殺技があるのはあたしだけじゃないってわけか。
「ふぅ……」
ため息一つ。
良かった。ダメ元で武器を替える、双剣に。
手首まで覆っていた氷も一緒に消える。多分だけど今片手剣に戻せば手首は大丈夫。
だけど刀身は凍ったままだろう。
「もう一回!」
飛ぶ、振る、ぶつかる。
そして結果として、双剣は氷の塊と一本の剣になる。
「…………今、目瞑ってなかった?」
加速の中で、ヒョウはあたしを見てないように見えた。あたしどころかなにも見てなかった。
「あぁ、見てねぇよ」
…………なるほどなるほど、なかなかに狂気的じゃないか。
「確かに、人は視覚の情報処理にほとんどの力を使ってるって言うもんね」
だから目を閉じる。その分精神を研ぎ澄ます、その分氷の力を強く込める。
「そんでオレはユキの合図で刀を抜く。簡単な話だろ?」
確かに簡単な話だ。
簡単で普通だれもやらないだろって話だ。
「セツナのねぇちゃん」
「ん?」
「で、どうする?」
仕返しのつもりか、目を閉じたままニヤリと笑われる。
ヒロインと一緒に放つなんて、格好良すぎるじゃないか。
でも、やる事は一つだ。
「ならあたしも……とっておきをだそうか」
できる……かな?
装備変更、満を持して大剣だ。
「世界で一番格好良い必殺技を見せてあげるよ」
できなかったら二番目で、ごめんね。
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