第156話 前略、護衛と捜索と

「あら、セツナちゃん。そんなに急いでどうしたの?」


「ちょっとね!」


 道行く人に声をかけられる、今回はさすがに普通の人まで巻き込むわけにはいかない。

 適当に返して走る。時間はあまりない。


「そもそも一時間ってなんだよって感じ」


 普通、一日とかあるだろタイムリミット。

 だけどさすが異世界。そんなセオリーは無視され、残りは三十分と余り。

 

 あたしは今日も分からない事だらけ。

 奴がどこにいるのかも、そもそも今自分がどこに向かってるのかも。


「余計な事は考えるな、セツナ。まずは走れ」


 暗示のように呟く。

 心臓が嫌な間隔で鼓動を打つ。焦りと緊張、一人でいるとすぐにこれだ。


「焦るな焦るな。前向きに前向きに、だ!」


 道。ここで左折、狭い道もさがしてみよう。

 コーナーを曲がるイメージ。もっとも陸上と違って直角にキレ良く、急カーブをかます感覚。


「あれ!?セツナだ!」


「ん!?リッカ?」


 ギュンと直角、グイっと前に。

 壁沿いに友達の驚いた顔、なんでこんなところにいるんだろう?


「んぐぅ……」


「ん?んっ!ん!?」


 曲がり、リッカの顔みた瞬間になにかにつまずく、というか蹴っ飛ばす。

 それはうめき声のような音を発して、あたしを転ばせる。

 

 いや、転ばない。そのまま空中で身体を一捻り。

 若干体制を崩しながらも着地に成功する。


 一体全体なんだって言うんだ。

 クイックでビューティフルでパーフェクトなあたしのターンの邪魔をするのは。


「……いや、何してんの?」


 リッカの足元で誰かが蹲っている。脇腹を抱えて。

 

「さっきまでは土下座だったんだよ」


「んー?路線変更とか?そのキャラでいくの?」


「違う違うっ!なんか謝りたいって今日の朝!」


 謝りたい……?

 じっと見ればよく……は知らないけど、そこそこ知ってるあの優男。

 前にも似た状況があった気がする。多分だけど、路上で蹲るのが趣味なんだろう。


「ちょっと前までは普通に謝ってて」


「うん」


 意外に律儀な奴だな。

 しっかり本人のところに来るなんて。


「別にあたしは、自分のいないところで何言われても気にしないよっ!って言ってるのにちょっとしつこくて」


 律儀なのも考えものである。

 おおらかさとなかなか交わらない。


「その後恋愛相談に発展して……」

 

 恋愛相談……?あぁ、フラレたんだっけ。


「そうゆうとこじゃない?って言ったら撃沈して、セツナに蹴っ飛ばされてたよ!」


 ………………。   

 スタスタスタスタ、ポン。


「ごめん」


「大丈夫さぁ……」


 ここまで大丈夫じゃなさそうなのも珍しい。

 ……ごめん、半分くらいはあたしのせいだね。




「あれ?そういえばセツナなにしてんの?急ぎの用事?」


「急ぎの用事っていうか、命の危機っていうかさ……」


「よーし!手伝っちゃうよ!」


 まだ内容も伝えてないのに。

 持つべきものは友。いい言葉だ、まったくもってその通りだと思う。


「実はかくかくしかじか……で」


「ふむふむ、うまうまで」


「まるまるってわけか」


 あ、カガヤ生きてた。

 生きてるならさっさと立ち上がれ。


「セツナのバカぁーー!」


「なんで!?」


「なんででもっ!もう時間ないじゃん!守ってあげてって言ったのにっ!」


「……言われたっけ?」


「言ったの!!!」


 どうしよ、どうにも記憶がない。

 そりゃ、もちろんそんな状況になればあたしとてやぶさかではございません。

 積極的に守らせていただきますが。なにぶんあたしの方がピンチの割合が多いいので、なかなかそんな機会は巡ってこないのです。


 まぁ、リッカの文句も分かる。

 あたしの注意不足が招いた問題だし、返す言葉もない。


「ほら!グズグズしないで行くよっ!…………あれ?」


「ん?」


 なんだなんだ。

 リッカは何か気になったのか、あたしの腕を掴んで引っ張ったまま固まる。


「どうかした?」


「そういえば、今リリアンちゃんはセツナのお師匠さんと二人なんだよね?」


「うん?そうだけど」


「大丈夫かな?」


 なにが?

 確かに師匠は不審者だけど、動けないリリアンをどうこう…………しそうだな。


 ……いやいや、ないない。そうゆう場合にノータッチを貫ける本物であることを信じよう。


「そこに攻め込まれたら大丈夫じゃなくない?」


「…………あ」


 ああ゛ぁーーー!!!

 マズイマズイマズイ!確かにマズイ!

 なんてこった、まるで頭になかった!そうゆう最悪のパターンを!


 確かに理にかなってる。

 邪魔なあたしを捜索に集中させて、リリアンを殺しに行く。

 これなら呪いよりも確実だ。クソっ。


「あ、セツナのお師匠さんがめっちゃ強かったり?」


「いやぁ……あの人見た目は強そうなんだけど……」

 

 自他共に認める非戦闘員である。

 いや、本当に見た目は強そうなんだけどね?


「……リッカ、お願いがあるんだけど」


「うん!任せといて!」


「ドアはもうぶっ壊しちゃっていいから。なにかあったら……派手なことやって」


「不甲斐ないセツナの変わりに護衛してくる!ダメでしたは受け付けないからねっ!」


「うん、任せといて!」


 同じように返して、軽く手のひらを合わせてから別れる。

 探す人数こそ確保できなかったけど、リリアンの安全には変えられない。


「さて、行くか」


 三十分を切った。

 でもまだ落ち着いてる、まだ立ち止まらない。


「……僕も行こう」

 

「……大丈夫なの?」


 よろよろと、カガヤが立ち上がる。

 正直、かなり精神的にまいってるだろうから、人数にカウントしてなかったんだけど。


「あぁ、セツナの友達がピンチなんだろう?友達の友達も助けられなくて、彼女の心を取り戻せるわけもない」


「……格好いいじゃん」


 ちょっと、見直した。

 恋だの愛だのの為に立ち上がれるなんて、格好いいじゃないか。

 やはり、愛。シンプルな感情とそれに伴う行動は美しい。


「ちょっと不純だろうか?」


「いや、格好いいよ、最高に。あたしの場合は少し違うけど、あたしもある人に認めてほしくて、褒めてほしくて毎日頑張って生きてるし」


 このままでは元の世界に帰れない。

 こんなんで帰ったら、椎名先輩に『お前、女の子の一人も救えないのか。よくそれで頑張ったなんて言えるな』

 

「……それは勘弁だ」


 心の中の少し厳しい椎名先輩の言葉。でも実際そうだろう。


 今日、リリアンを助けられなかったら……後の人生なにをしても『頑張ったな』なんて言ってもらえない。

 

 あと、それとは別に───


「それとは別にあたしはあたしの為にリリアンを助けたいんだよ。大事な恩人に、まだちゃんとお礼を言ってないんだ」


「なるほど、恩人か……」


「うん、だからまだ死なれちゃ困る」


 まだリリアンに恩人の理由も伝えてない。

 なにがあたしの心を救ったのか、それをちゃんと本人に伝えてない。


「じゃあ、あたしはコッチに行くよ!」


「分かった、なら僕は反対に行こう」


 二手に別れ、再び捜索を開始した。

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