第139話 前略、三人目と演奏と
「───え、それで殴り込みに行って負けてきたの?…………ダサっ!」
「それにつきましては……ホント、返す言葉もございません……」
「でも……ありがとねっ!」
??なにに対する感謝だろ。
なんか聞くのも野暮な気がするので、テキトーに返す。
リッカはなんだか嬉しそうというか、楽しそうな顔であたしをからかう。
まぁ、多分、ネタができた事を喜んでいるんだろう。
今回に限ってはあっさり負けてきたあたしが悪い。
それに、途中何度も降ろしてと頼んだんだけど、リリアンここまで背負われてきた。やれやれだよ、これも込みで笑われる。
「いやね、剣があれば違ったんだよ、向こうは剣あったしね。こっちは素手でそれに人目もあったから、なんでもありの喧嘩だったら圧勝だったんだよ」
「えぇ〜〜ホントかなぁー!」
苦しめの言い訳をしながら、テキトーに相槌を打つ。
けらけらと笑うその顔を見てると安心する。どうやら今日も世界は平和らしい。
今はリッカのアジト……というにはちょっと微妙すぎるつくりだけど、いつもの路地裏にて会議中。
もはや定位置になった木箱に座りながら、とりあえずあたし達が見てきたものを話す。
「───て、わけなんだけどさ。どうかな、勝てそう?」
「分かんないけど……頑張るよ!」
いいね、スポ根?みたいな感じになってきた。
まぁ、無理って言われたら全力で説得するつもりだったんだけど。
「それじゃあ作戦会議といこうか」
一応、いくつか考えはある。
後はどれが使えるかなんだけど。その前にまずは現状把握をしよう。
「で、リッカのステージに足りないものってなんだと思う?」
「なんだろ……いろいろあるけど……曲かな?」
まぁ、それも正解。
だけどもっと広い範囲の話だ。あたしの考えだけど、その答えは──
「時間、ですね」
「ん、その通り」
リリアンがあたしの考えていた答えを言ってくれる。
ここで二人が同じ考えになったなら、他にもそう考える人がいるだろう。
「時間?」
「うん、時間だよ」
あまり理解できてないみたい。まぁ、漠然と時間が足りない。と言われても困るだろう。
つまり、あらゆる時間が足りない。
例えば始めるまでの準備の時間が足りない。ゆえに曲は完成しておらず、他の事もできない。
例えば開催時間が足りない。せっかくきても五分やそこらで終わってしまうのは、ちょっと寂しい……というか言い方は悪いけど欠陥みたいなもんだ。
他にもいろいろ、とにかく足りない。
まぁ、リッカもお客さんを気持ちを繋がなきゃ!って思ったからだろうけど、もう少し練ってからやるべきだった。
人を傷つけるような事を言わないだけマシだけどね。
「実際問題。広場で決まった時間にライブをしてるよ!毎日五分だけね!って人づてに聞いて行く?」
「えっ!?う〜ん……」
まぁ、内容もそうだけど、宣伝の時間も足りない。
「あたしは……行く!…………贔屓目だけど……」
リッカの気持ちは分かる。でも実際のところは──
「リリアンは?」
「行きません」
キッパリ。
うん、多分これが一般的な答えだと思う。
「あたしも行かない。もしかしたら一度くらい……って思うかもしれないけど、時間が限られ過ぎてるからね」
厳しい事を言うけど、そもそもの話。誰かと競い合うという基準にすら達していないのだ。
まぁ、そのあたりは最初から分かってたんだけどさ。
どんなに良い歌を歌っても、人の目にふれなきゃ意味がない。寂しいけど歌ってないのと同じだ。
一人目も一曲しか歌ってなかったけど、その分パフォーマンスで興味を引いていた。
二人目はたくさんの曲を歌っていた、後は喋っていた。内容は褒められたものじゃなかったけど。
それにそりゃ性別が違うから、同じだなんて言えないけど。同じ活動をしてる人がいる、それもそれぞれに強みがある。
それを踏まえて、わざわざリッカの方を見に行ことする人は少ないだろう。
「…………」
うなだれる気持ちは分かる、ちょっと痛いくらい。
でもまずは知るってのが大事だよね。
「さて!ここまでいろいろ言ったけど、まるっきりダメってわけでもない」
もちろん良いとこもある。何より大事な事がね。
「だって、それでも見てくれる人がいるからね。たった数分の為に毎日来てくれる人がいるんだ。ならそれは良いものだよ」
まぁつまり……そうゆうことだ。みなまで言うまい。
後は人目に触れればいいのだ。
「で、一応提案があるんだけどさ。リッカ、あの人形っていつもの曲以外は流せるの?」
リッカのステージで楽器を演奏していた人形。
とりあえずいくつか案はあるけど、何をやるにしても音楽のバリエーションがほしい。
というか、そもそもどこにしまってるんだ、アレ。
「あぁ、アレね」
リッカは立ち上がり、椅子の横にある何かにかかった布を勢いよく剥ぐ。
「……怖っ!」
いた、いや、あった。
顔のない人形が三体、薄暗い場所にあるからなんとも不気味。
「んー、そういやこれどうしたの?私物だったり?」
「違う違う、誘われた時に用意されたんだよ。残念だけどあの曲しかできないし、歌わないと止まっちゃうけど」
なるほどね、だから一番しか出来てない歌だとぶつ切りになって止まるのか。
「ん、なら場所を変えようか」
「どこいくの?」
「ピアノがあるところ」
やっぱり三人しかいないんだし、追加の音楽要員は使って一人。なら鍵盤類が一番だろう。
木箱から降りて軽くストレッチ。さて、行こうか。
「やっぱり楽しそうですね」
歩き出そうとした時、リリアンがあたしの後ろからヒョイっと顔を出す。
その通り、あたしは楽しいんだ。
「まぁね、そこそこ得意なんだよ。こうゆうの」
椎名先輩がいなくなってから、学園の面倒事も居場所がない奴らを引き受けるのも、あたしの仕事だ。
本来は異世界で命のやり取りをするよりも、友達の悩みを解決する為に走り回る方があたしの本業なのだ。
昼の酒場。
冒険者が集まり、パーティーを組んだり依頼を受けたり、食べたり飲んだり騒いだりする我ら冒険者のホーム。
まだ昼なのにこの街は酒場も盛り上がってる。
やたらとアルコールを勧めてくる定員さんをスルーしつつ目的の席へ。
最近知ったけど、この世界ではあたしの年齢なら飲酒OKらしい。おかしいな、少し前に二十歳になってからと怒られたけど……。まぁいいや。
今は演奏者のいないピアノ椅子にあたしが座り、二人も周りの席に座らせながら挙手。
「で、鍵盤触れる人」
「「………………」」
ふむふむ……んーー?
「あれ、リッカ弾けないんだ。貴族?なんでしょ?」
「セツナ、偏見がすぎるよ」
んー、まぁ偏見かな。
勝手にお金持ちはみんな弾けるもんだと思い込んでた。
「リリアンも手をおろしていいよ」
あたしの言い方が悪かった。確かに触れる人だと、誰だっていい事になる。
正確には弾ける人が欲しかった。まぁ、リッカが弾けた場合は録音になっちゃうけど。
「んーー……ならこの場で弾けるのはあたしだけかぁ……」
……んん?なんだなんだ二人とも、変な顔してるよ?
「いいよセツナ、無理しなくて」
「無理……?別にしてないけど?」
「だって自分で音楽には疎いって言ってたじゃん」
「まぁ、言ったけど。だからって弾けないとは言ってないよ」
論より証拠、久しぶりにやりますかぁ。
少なくとも半年くらいのブランチがあるけど、簡単な曲なら指を慣らせばまだいけるはず。
…………なんだろ、リリアンがすごく不満そうな顔をしてる。
まぁ、いいや。とりあえず久しぶりに一曲弾くとしようかな。
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