第136話 前略、経緯と正義の味方と

「で、お願いってのは?」


 あまり聞かれたくないらしいので、扉を付け直してからいつもの小道に移動したあたし達。

 なんだか来るたびに物が増えている気がする。アジトというか拠点というか、やっぱりここを元に活動してるみたい。

 リッカが椅子に座り、あたしも崩れたりする可能性がないことを確認して、近くの木箱に腰をおろす。


「リリアンも座ったら?」


 いつもどおり、隣に立ってるリリアン。

 いい加減、荒療治というかなんというか。いつまでも遠慮されては、そろそろ困る。

 もっと適当でテキトーな距離がほしい。


「……では」


 …………違う、そうじゃない。


 あたしは、他にも椅子にできるものがあるんだし、座ったら?みたいな意味で言ったんだ。

 断じて、この木箱をシェアしない?ではない。

 そもそもそれだと、あたしと背中合わせで座ってるから話し合いに参加しずらいだろうに。


 リッカもリッカで、あ、コッチ座る?なんて言いながら立ち上がらないで。話がまるで進まない。


「んー…………お菓子、食べる?」


「食べるー!」


 まぁ、いったん落ち着こうか。




「で、お願いってのは?」


 数分前も同じことを言ったような気がするぞ?

 あたしの疑問符は、口にお菓子のカスをつけたリッカの声で吹き飛ぶ。


「あぁ!そうだった!」


 やれやれだよ。どうやらやっと本題に入れるみたい。


「それでね、お願い……というか、悩みというか……」


「うん」


 さっきまでと違い、真剣な表情で話を続けるリッカ。食べカスはついたままだけど。


「その……観客の人がね……いない」


「…………あぁ」


 なるほどなるほど、なるほどね。

 確かに、それは問題だ。誰かに頼りたくもなる。


「んー、一人も?」


「ううん、いつもの人達はいてくれるんだけど……それ以外には……」


 ふーむ、まぁ、悪いけど分かってた事なんだよね。

 かなり言い方は悪いけど、だろうね。というやつだ。


 やっぱり、基本的に新規に優しくないコンテンツというのは長続きしない。

 リッカのやっている、いわゆる路上ライブというのは、立ち止まって見るだけだから、比較的に参加しやすいと思うんだけど。

 

 今回の問題はもう一つ。残念ながら、それ以上がない。

 毎日、数分。同じ事だけやっていては、拡張性……というかやっぱり、それ以上。がない。

 そもそも、一曲も完成してないんだから、本来はスタートラインにも立ってない。


 本人は、どうなんだろう?

 その事に気づいているのかな、聞いてみようか。


「うぅ……だよね……」


 自覚はあり、だね。

 となると分からない事がある。まぁ、そもそもという話なんだけど。


「……それならなぜ、リッカさんはそもそもこの活動を始めたのでしょうか?」


「うん、あたしもそれが聞きたかった」


 今更隠しても仕方ないことだし、素直に話してくれると後が楽なんだけど。


「協力してもらうし、仕方ないよね。実はね……」


 ふむふむ、つまりかくかくしかじかでうまうままるまる、というわけなんだね?


 んーーーー、だーいぶ面倒、というかなんというか変なことになってるなぁ。


「ちょっと経緯を整理させてね。まずやる事探しをしていたリッカは、なんだかんだ地元に帰ってきた」


「うん、それで家に帰るのもあれだから、依頼を受けながらふらふらしてたんだけど……」


「そこに現れた胡散臭さ溢れる人物に、誰かの為になる仕事をしないか。と誘われたわけですね」


「そうゆうこと」


 ………………ヤツか?

 ありえるね。胡散臭い、特徴も完全に一致している。

 まいったなぁ、そろそろコッチから不意に斬りつけても許されるレベルだぞ。


「リッカ、聞いときたいんだけどさ。それってコレくらいの胡散臭い背で、胡散臭い顔と雰囲気の、なんか減給とかされてそこらでバイトとかしてそうな胡散臭いヤツじゃない?」

 

 分かりやすく、ジェスチャーしつつ聞いてみる。

 もしそのとおりなら、今回の話はすぐに終わる。見つけて、しばいて、終わり。


「うーーーん……ちょっと違うかな。これくらいで……顔は見てないんだよね、ローブで見えなかったし。あと、胡散臭さと……失礼さ?」


 失礼さ……?やっぱりヤツかなぁ……

 ただ2つほど引っかかる。まずあのエセ天使は、特に顔を隠そうとしてない。

 あと、怪しいのは怪しいんだけど、実はこの街に入ってからまだ一度もヤツを見てない。


 いつもなら、事あるごとに顔を出すのに。

 となると、ヤツじゃない可能性もでてくる。いないならいないで迷惑なヤツである。


「で、その人物のプロデュースのもと、いわゆるアイドルとして活動を始めた」


「うん、最初は歌って踊れって言われて、騙されたと思ったんだけど……」


「ファンの声は嬉しかったと」


 コクリ、頷くリッカの顔は、何かを思い出すようにはにかんでる。

 そんな顔をする必要はないのに、歌は良いものだったし、ファンの気持ちも分かる。似合わないなんて事は勿論ない。


「……ですが、その人物は活動の開始から数日で消えてしまった」


「うん、理由は多分……さっき言ったとおり」


 曰く、先に同じように活動していた人が二人。

 その人達より、劣っていたから見切りをつけられた。ってリッカは言うけど、数日で見切るならそもそもスカウトされないんじゃ……?


 まぁ、いったんそこは置いておいても、曲も未完成。舞台も簡素。なんとも中途半端な状態で投げられてしまったと言うわけだね。


「歌詞……頑張って最初だけ書いてみたんだ、それで喜んでくれる人がいてさ……でも、やっぱりここが限界だよ……」


 つまり、残されたものを使って出来る事をやってたわけだ。

 立派だ、素直に尊敬するよ。

 あたしがもし同じ状況なら、まずソイツを見つけてとっちめる事しかできないと思う。


「ちょっと……いや、だいぶ世間のイメージとは違うけどさ、みんなに生きる活力みたいなもんをあげられるんならさ」

  

 だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。

 だって誰かの為だ、ならそれはリッカの憧れていた──


「正義の味方みたいなもんじゃない?大丈夫、こっからはあたしも……あたし達も手伝うよ」


 ね、リリアンに同意を求める。もちろん答えなんて分かってるけどさ。


「もちろんです」


「二人もともぉ……ありがと!」


 やっぱりいいもんだ。

 曰く、女の子が笑っているならだいたい世界は平和。だそうだ。

 涙混じりでも、それは変わるもんじゃない。


「さて、どうせなら派手にいこうか。見捨てた事を後悔するぐらいにね」

 

「具体的には?」


「これから考えるよ。さて、まずは……敵情視察、かな?」


 その先にやってた人達見てくるとするか、そんでそれを超えるステージを考えるとしよう。


「あ、でも、あたし……」


 時間を見て、リッカは一緒に行けない事を伝えてくる。


「分かってるよ、それにはあたしとリリアンで行ってくる。リッカはいつもどおり、頑張ってね」


 うん!元気に駆け出していくリッカ。

 さて、あたし達も……


「なんだか楽しそうですね」


 言われてる気づく。少し、笑っていた。


「そうだね、悪くないよ。やっと死にかけたり、力で解決するんじゃない問題だからかな、最初からこうだったらいいのに」


 ちょっと事態は深刻だけど、なんとかなる。

 自分の求めてるものじゃないから見捨てる。そんな奴らの鼻を明かしてやるのはきっと悪くない。

 

 こんな問題なら、元の世界にいたときの学園生活と変わらない、ようやく人の役に立てそうだ。

 どうだ!あたしの友達は凄いんだぞ!って言ってやるんだ。


「多分、もう使わないから剣も置いてきたしね。こっからは異世界日常編の幕開けだよ」


 リッカより先に……いや、こっからはライバルだね。

 そのライバル達の活動場所も聞いている、早めに行くとしよう。


「では、まずは港の方ですね」


 リリアンに案内を頼み、目的地に向かうことにした。

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