第134話 前略、アイコンタクトと友達と
「〜〜〜〜♪」
「うんうん」
少人数が生み出す熱気。
定刻に始まり、あと数分もしないで終わってしまう宴。
「あの……」
そこから少し離れた場所。
あたしはそこで音を全身で感じ取る。
「あの……」
「うん?なにかな」
一緒に来ているリリアンから、なにか聞かれる雰囲気。
体勢はそのままに、あたしはリリアンの方に首を向ける。
「それはこの舞台を見るときの、正式な姿勢なんですか?」
「姿勢?…………あぁ」
組んだ腕をとき、軽く肩をならす。
確かに昨日は前の方ではしゃいでたからね。
「これはまぁ、あたしの行き着いた応援スタイル、かな」
最初にここに来てから、4日ほど経っただろうか。
特に手伝いも用事もなければ、この数分のステージを楽しみに来ている。
そして気づいたのだ。
やはりライブとはステージに上がる人がいて、それを盛り上げ、共に熱狂の舞台を作り上げる人がいる。
ならばこそ、あたしはそれらの全てを感じる事が大事なのでは?そう考えついた。
「こうして目を閉じてね、音楽、歌声、そしてファンの声、熱気。その全てを感じ取るのさ」
「はぁ……」
む、理解は得られなかったらしい。
いいんだ、そんなことばっかだ。だけどあたしくらいのファンになると、ライブにおいて自分とは邪魔なものでしかないのだ。
「……しっ、今は静かにしておきましょう」
どうやら中の人にも同意を得られなかったらしい。
まぁ、良い。もう残り僅かなライブの熱ってやつを堪能するとしよ…………
「……って終わってんじゃん!」
視線を戻した先には何もない。
ファンや機材はすでに撤収は終わっており、ここにはあたしとリリアンのみ。
むしろその時間も通り過ぎて、通行人も増えてきた。
「さて、この後はどうしますか?」
「んーー、まぁ労いも込めて遊びにでも行こうかなって」
残念だけど、それならそれで本来の目的に移るだけ。
工房にいると、どうやらリリアンに騙されたらしい師匠がうるさいからね。
「そうですか、なら私は先に戻ってます」
おそらくリッカがいる場所へ歩き出そうとした時、リリアンがこんな事を言う。
全くもって、いつまで遠慮してる気なんだろう。
「一緒に行こうよ、二人じゃちょっと味気ない」
「……邪魔になりませんか」
ならないよ。やれやれといった具合に伝える。
予定があるなら、とかそんな逃げ道はふさいでおいて。あたしも単純に遊びたいのだ、三人で。
「リッカからも連れてこいって言われてるんだよ、あたしの顔を立てると思ってさ」
まだ少し迷ってる、ならばのひと押し。
お願いという形なら、いい理由になると思う。
「えぇ、はい、それなら」
納得した表情が見れたので、二人で会いに行くことにした。
「えっ、ちょ!なんでぇー!!」
おぉ、ベタだ。漫画かよ。
いつぞや放り込まれた小道に入れば案の定。
ライブの主はその奥にいた、ただタイミング悪く着替えの最中だっただけで、いた。
「お疲れ様、リッカ。どう?今から遊びにでも行かない?」
「人の着替えに出くわしといて、話を進めちゃダメだよ!」
……そうゆうもん?
そりゃ人によってはラッキーなスケベに喜ぶかもしれないけどさ。あたしには別に同性の着替えを見ても、どーーとも思わない。
あと、見られたくないなら屋内で着替えるべきだと思う。
「遊びに行くのはいいけどさ、セツナ!」
着替えを終えたリッカが、あたしの鼻先にビッと指差す。
コッチではどうか知らないけど、基本的には人を指差すのは良くない。
「旗とか振らないでよ!昨日はホンット恥ずかしかったんだから!」
「応援のつもんだったんだよ、邪魔にならないように一番後ろで振ってたし」
「あと今日は今日で『分かってますから』って感じでなんか頷いてたし!」
「まぁ、あたしくらいのファンになるとね」
「最近知ったくせに!?厚かましいよ!」
随分な言われよう。これがすれ違い、か。
「旗は気に入らなかったみたい。せっかく二人で作ったのにね」
あたしの後ろに控えているリリアンに声をかける。
結構頑張って作ったんだけどなぁ。ちなみに現在は別のファンの人が持っている。
「そうですか、私も若干やり過ぎだとは思ってましたが」
ノリノリだったのはあたしだけか、ちょっと残念。
「わぁ!リリアンちゃん!」
リッカはあたしを飛び越え、リリアンを捕まえる。
一瞬、反撃しそうになってたけど、大人しく捕まり撫でられ……というより捏ねられてる。
「二人はそんなに仲良かったっけ?」
「まぁ、そこそこかなー!あたし、メイドさん好きなんだよね、よくお世話になったし!」
お世話に……?
「リリアンちゃんってセツナのメイドさんなの?ダメだよ、あんまり無理させちゃ!」
「いや、違うよ。あたしが目的地に着くまで案内してもらってるだけ」
ここまで話してて、気付く。
多分、リッカは知らないんだ。リリアンがどのくらい強いのとか、最初の勘違いが、勘違いじゃないとか。
リリアンからアイコンタクト。
ふむ……『説明も面倒ですし、このままにしておきましょう』、ね。
あたしからも『了解』。
それなりの付き合いの為せる技、今やだいたいのやり取りは目で通じる。
「そうだ!セツナの案内が終わったらあたしのところに来るって言うのは……」
なんか、新鮮だなぁ。
リリアンが楽しそうに喋って……は、ないけど。まんざらでもない表情で捏ねられてるの。
さて、なんか言葉の端々から新しい疑問が湧いてきた。
「ねぇ、リッカ」
「なにー?」
「もしかしてリッカってさ、良いとこの人だったりする?」
「え゛!?」
あたしの言葉と一緒に、手が止まる。
何だ今、すっごい変な声というか音がでたぞ。
「なん……でっ、それを!」
「いやだって、ちょくちょく出てきてるし。メイドさんとか」
「口が滑ってるーー!」
そりゃもう、スッベスベです。
上がりすぎたテンションの弊害だね、あたしもたまにあるよ。
「うん……まぁ、お家はお金持ちかな……ここ地元」
異世界人が地元とか言うな。
「家出してたんだ」
「してたんじゃなくて、してるの!まだ帰ってないんだから!」
年頃なんだろうか、分かる気がするよ。
あたしもあったし、反抗期。いや、痛かった時期。
「帰んないの?家業?を継ぐとか」
「帰んない!すっごく窮屈なんだから!」
窮屈、か。確かにそれは辛い。
退屈も窮屈も人を殺すからね。
「でも別に隠すことないのに」
別に知られたからって、そんなに問題でもないと思うんだけど。
「隠すよ。絶対なんか変わるし、名前だって本当はもっと長いし、みんなに名乗ってるのもあだ名みたいなものだし……」
んー、リッカも名前長い族なのか。ちょいちょいでてくるな。不審者とメガネとリッカか。
「まぁ、気にしないでよ、あたしは気にしない。…………実はあたしも本名はセットゥーナ・トゥキウーラって言ってね」
「絶対嘘じゃん!」
「そんな、何を持って絶対と申されるか」
「顔!」
しばくぞ。いや、逆にやられるな、ちょっとトラウマ。
「いやいや、ホントだよ。ねぇ、リリアン」
頬をこねくり回されてるリリアンに伝える『話を合わせて』。
『はい、任せて下さい』。今日も頼もしい。
「…………えぇ、本当です。懐かしいですね、私がまだ超宇宙大帝リリアンと呼ばれていた頃、船員のセットゥーナ達と宇宙を荒らして回ったものです」
「「嘘つけぇ!!」」
さすがにおかしいだろ!自重しろよ中の奴!
あまりに突飛な発言に、リッカと声がハモる。そしてなんだかおかしくて笑い出す。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「うん!」
「はい」
特に行き先が決まってるわけじゃないけど、それはそれでいいものだ。
三人仲良く、ただの友達のように街にくりだした。
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