第123話 前略、お願いと訂正と約束と
「で、なんでエ「なんであなたがここにいるの!?」
「…………」
セリフをとられた。いやだけど、なんでこの女神(仮)がこんなにあわててるんだろ。
「わたしがどこにいても関係ないでしょ、このポンコツ」
そしてなんで今日のコイツはこんなに口が悪いんだろ。
「仲悪いの?」
「そこそこね」
そっけないエセ天使。似たようなもんなんだから仲良くすればいいのに。
「ん……ちょっとリリアン、距離とらないでよ」
できることならあたしもこの怪しい二人組とは離れていたい。
スタスタ、ジャラジャラといつもと変わらぬペースで歩き始めたリリアンを追う。
「……すみません、少し腹立たしくて」
「なるほどね、そりゃ仕方ない」
気持ちはひっっじょーーに分かる。大体の場合でコイツらは信用できないからね。
「あ!待ってよ!そっちの強そうな人!」
後ろの方からリリアンを止めたいのか、さっきのエセ女神の声。それとそれに対する冷ややかな言葉。
本音を言えばさっさと立ち去りたいけど、なんだかんだいろいろと聞くいい機会かもしれない。
「─────!」
「────」
「─────────!!」
ふむ、まだやってるよ。てか、そもそもエセ天使はなんで降りてきたんだろ。
まさか口論の為だけにきたわけでもないだろうし。
「そ……そこまで言うことないでしょ!役立たずのくせに!もう仕事もないくせに!」
「はいはい、なんとでも」
いや、なんだろうね。エセ天使が大人にみえるよこの状況。
ん、んん……!?
「ちょっと待ってよ!エセ女神!!!」
あの野郎!部下的?な立ち位置の奴に言い負けて逃げやがった!ダサすぎるでしょ!!!
「セツナンセツナン、心配しなくてもアイツはセツナンの知りたいようなこと知らないと思うよ」
「ん、そうなの?」
そうなんだよ。つまらなそうに、らしくなく言う。
……いや待って、だとしたら。
「どんなテキトーな世界だよ……エセ女神が一番偉いんじゃないの……?」
全く、一番偉い奴がそんなんじゃ……いや、そんなもんかマトモを期待するだけ無駄なんだよね。
「んーー、そもそもね、セツナン。天使も女神もいっぱいいるんだよ」
「…………地獄絵図」
「ん、セツナンそれ失礼」
なーるほど、なるほど。つまりここには天使と女神の下っ端が揃ってたってことだね?
ちょっと残念。だけどそれなら仕方ないかな、あたしもリリアンを追わなくちゃ。
「またね、エセ天使。先に行くよ」
「バイバイ、セツナン」
「リリアンお待たせ、変な奴らだったよ」
「はい、お疲れ様で…………」
「んん?」
あれは……。あたしの後ろを指さすリリアン。
んー、嫌な予感。
「違う違う!違うんだよセツナン!」
息も絶え絶えに、さっき別れたばかりのエセ天使がそこにいた。
いや、なんで走ってきたんだろ、飛んでくればいいのに。
「今日はなんだかしつこいですね」
「ほんと、出番は終わったはずなんだけどなぁ」
「お、辛辣だねぇ」
日頃の行いだよ。思わずあたしも微妙な顔をしてしまう。
「わたしが今日来たのわね、セツナンを帰してあげようかなってことなんだよ」
「ん?んー?」
何言ってんだろ、いつも何言ってるか分からないけど。今日はいちだんと分からない。
「え、なんか持ってったの?場合によっちゃ……」
「違う違う。セツナンに、じゃなくてセツナンを。だよ」
「あたしを……?どこに?」
「だから元の世界に」
ポクポクポクポクポクポク、チーン。
んーー、なるほど?
「お断りするよ」
「え、なんでよ!?」
なんでよって、今までの自分の行いは全て忘れたのだろうか。
まさかと思うけど、そんな怪しい申し出を信じてもらえるとでも?
「胡散臭いから、かな?そもそももう旅も終盤だしね。ここまできたなら最後まで行くよ。それにさ……」
もし本当にこのエセ天使があたしを帰す気があるならさ。
「なんで今なの?」
「え?あ、うーん、それは……その……ねぇ……?」
ほれみろ、なーんか怪しい。
「だから大丈夫だよ。観光してから帰る事にしたんだよ」
ね?何日か前の会話を思い出しつつリリアンの方を向く。
「はい、どうせ帰るならいい気持ちで帰りましょう」
いい言葉だ。だから船に乗る前に観光でもして帰る事にした。リリアンも見たいものがあるらしいしね。
「まぁ、だよね。うん、分かってた」
「…………」
そんな顔はしてほしくないな、誰だろうと。
ちょっと寂しそうな……いや、悲しそうな。なんでそんな顔するんだろう。
「セツナン、ごめんね」
そしてそれはなんの謝罪だろうか、連れてきた事か、巻き込んだ事か、それともその全てか。
「気にしないで、マブなんでしょ?」
よく分からない時は許すにかぎる。きっとそれは正しいはずだから。
「まぁ、謝る気があるんならどっか水着でも買えるとこを教えてよ」
こんな空気は好きじゃない。なんなら一緒に来る?それくらいの軽い気持ちで。
「あのね、セツナン。今更なんだけどね、ここは港だよ?」
「ん?それがなにか?」
「遊泳禁止だよ」
「………………」
身体が……固まる。嘘だよね?リリアン……?
「その……遊泳禁止です」
………………なんてこった、帰ろっかなぁ。
「はぁ……じゃあ泳ぐのは次の機会かな」
ちょっと……いや、結構残念。
まぁ、いつまでもしょぼくれても仕方ない。気持ちを切り替えてリリアンの見たいものでも見に行こうか。
「それじゃあ、あたしたちは行くよ」
エセ天使にも少し笑顔が戻った、別の目的を探す意志ももてた。一応、善意で帰れると伝えに来てくれたんだろうから少しだけ罪悪感。
「うん、セツナン。……ごめんね」
だから何に対しての謝罪なんだろうか。もうそれは終わったと思ってたよ。
「だから気にしないでよ、水着はまた今度買うよ」
「うん、ごめんね」
エセ天使はまた謝る、なにを今更という気持ちでいっぱいだ。
…………あ、そっか、なるほどね。こりゃあたしが悪い。
「仕方ないなぁ、許してあげるよ。だからいい加減さ、いつもどおりになってほしいよ」
多分だけど、謝るってことは許してほしいんだよね。
ならばよく分からなくても、許すと言わなきゃね。それが今求められてる言葉なんだろうな。
「ありがと、セツナン。じゃあね」
よかった、ほしい言葉をあげられたみたい。
でもさ、じゃあね、じゃちょっと嫌だ。個人的に。
「うん、またね。エセ……」
んーーー、今更なんがら流石に可哀想になってきたな。
「ねぇ、名前はなんていうの?すっごく今更なんだけどさ」
いつまでもエセ天使じゃちょっとね。自業自得だとしても。
「ん、ないよ、名前なんて。あるのは番号」
随分と寂しいこと言うじゃないか。寂しくて悲しいよ。
「じゃあ次会うときには考えといてね。あと、じゃあねじゃなくて、またねだよ」
お願いと訂正と、ひらひらと手を振って別れる。
「またね、セツナン。ありがとう」
ようやく天使や女神と別れて先に進む。
…………小さく小さく聞こえた、ごめんね。それに気づかないふりをしながら。
「なんだか似ていましたね、あなたとあの天使」
「……あたしそんなに胡散臭い?」
結構ショックだ。控えよう、いろいろと。
「いえ、なんというか雰囲気や喋り方が」
んんー、そうかな?そうなのかな?
「まぁ、喋り方なんて同じようなものでしょ。あたしもエセ天使も普通ってやつだよ」
あとは雰囲気か……雰囲気……似てるかな?
「にしても泳げないのかーー!」
ちょっと話題が暗くなりそうなので強引に変更。残念なのも本当だし。
「今度、海でも行こっか!泳いだり、浜辺でスイカ割ったり、城つくったり!」
「……それはできません」
あ、言ってから、言われてから気づく。もうすぐ帰るのに、できない約束なんかしてんじゃないよ。あたしはバカだ。
「あ……ごめ「だって……」
謝罪の言葉は遮られる、だって……?
「泳げませんから、私」
………………。
「…………ふふっ」
なんか、笑いが漏れた。いつもの顔で泳げませんからってのは、なんだか可愛い。
「大丈夫、教えてあげるよ」
「……すごく沈むんです」
「大丈夫、うん、任しといてよ」
実はそんなに泳ぐのが得意なわけじゃないけど、多少教えるくらいなら。
にしても、すごく沈むんです。か、思い出しても可愛らしい。リリアンは意外によく分からない弱点が多い。
少し心が軽くなる。スーッとした、いい気分。
口約束一つでこんなにも楽になるのなら、やっぱり世界というのは思ってたより単純なのかもしれない。
「ところで、スイカとは?」
「あ、スイカないんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます