第122話 前略、天使と女神と
「それで、実際にはどんな戦いだったんですか」
次の目的地、ミナトマチなる街を目指すあたしたち。
数日前の気まずさはどこへやら、あたしはリリアンから通算何度目かの質問をうけている。
「んん……いやぁ、なんといいますかねぇ」
坂道を登りながら、濁った返事。
曖昧な質問だけど、何を聞きたいのかは分かってる。あの激戦、あたしVSシトリーの内容だろう。
…………激戦だったんだけどなぁ……決着がなぁ……
なんともマヌケで締まらない決着だった、ゆえにシトリーから口止めをされてたり。
別に話したって、大した事にはならないだろうけど。
だけど今回のあたしはシトリーの味方だったり。
誰かにダサいとこ見せたくない気持ちはすごく分かる、だから今日も誤魔化していこう。
「んー、てかリリアンはいつもみたいに見てたんじゃないの?」
そしてこれは純粋な疑問、なんだかんだあたしたちは別行動をとる事が多い。
合流して、こんな事があったよ。と伝えても『はい、見てましたから』って。
「その時は別のものをみてたので」
なるほど……そうきたか。
リリアンの眼はキレイなだけじゃなくて、心とか抽象的なものや遠くが見えるのかな?
んーん、詳しく聞いてみたいんだけど、前に似たような事を聞いたら微妙に嫌そうな顔してたんだよね。
「まぁ、その話は追々ね……ん?んん!?」
坂道を登りきり、視界が広がる。
城……宮殿?なにから考えたらいいのか分からないくらい情報過多。
「うわぁ……すっごい……」
やっぱり城?そしてそれを囲うように街?なんていうんだろうな、こういうつくりは。
このまま坂道をくだって行けば、たどり着くだろうそこは、少し前にみたネオスティア一の学園と比べても見劣りしない。
「いい景色ですね」
うん、いい景色。城と街、海と船。
ネオスティアの海を初めて見たかも、キレイで広い。船も初めて見た、こう……真っ当な海賊船みたいな?
遠くからでも、真っ白な帆が目をひく。海を見たからか潮の匂いも感じる。
なんだかソワソワする、なぜだか走りたい気分。
答えは分かってる。あたし、テンション高めです。海、いいよね!
「やっぱ山より海だよね!」
残念ながら夏じゃないけど、ネオスティアに四季があるのかすら分からないけど!
これは水着イベントの予感!2、3年前の水着もまだ着れたような気がするけど!持ってきてないから仕方ないなぁ!新しいの買いにいこーっと!
「ん、んーー?」
高めのテンション、早めのアクション。
駆け出そうとするあたしの耳に、なんか聞こえる。
「───しましょぉ……どうしましょぉ……」
あたふたとか、おろおろとか、とにかくそんな言葉が似合う様子で。
ぱっと見白い女の人がうろうろとしている。……白い女の人が……
「んー……あー……はい……」
「声をかけないんですか」
「いやね、困ってるみたいだから助けてあげたいのはやまやまなんだけどね。なんとなーーーく、胡散臭い知り合いに似てる気がしてね」
奴に似てる……気がする。飾り気のない服装が原因かはたまた別の何かか。
あたしをこの異世界に連れてきて、説明もそこそこに殴ったり落としたり。行く先でバイトしてたり、ちょっとしたアドバイスこ為に降りてきたりする奴に。
「まぁでも、ほっとく選択肢はないか……」
困ってる人を見捨てのはダサいってもんだ。
面倒事に巻き込まれても、あたしらしくあるなら良しとしよう。
「どうかしましたか?困ってるなら力になりますよ」
「ひぃ!」
……なぜに悲鳴?
あたしが声をかけると、女の人はビクッとはねて、おそるおそるこちらに振り返る。
「余計なお世話だったり?」
「いえ、あの……その……」
キョロキョロというよりジロジロ。値踏みでもされてるような視線は、あまり気分のいいものじゃない。
「…………あんまり強くなさそう……」
おっと、失礼だった。腕っぷしが必要なら後ろにとんでもないのが控えてますよ。
そう伝える前に聞かなきゃいけないことができた、この失礼さからほぼほぼ確信を得たけどね。
「……ちなみにだけど、ご職業は?」
「え、えと……職業って言っていいのか分からないけど……」
自信なさげに、そして仕方なさそうに答えは返ってくる。
「その……女神を少々……」
「「…………」」
固まるあたしとリリアン。それは……ちょっと予想外。
「女神……?」
「はい……女神」
「天使じゃなくて?」
「すみません……女神です……」
「…………ふっふふふ」
なるほどなるほど、なるほどね。
思わず笑ってしまう。まさか、まさかまさかまさかこんなところで会えるなんて!
「お前かぁぁぁあああ!!!」
「ひぃぃ!情緒が不安定!」
飛びかかり、肩を掴んで揺する。
コイツがしょうもない理由であたしを呼んで、胡散臭いエセ天使をよこして説明もそこそこに異世界に放り出された元凶。2、3回はたくくらいなら許されるでしょ。いや、許す。
「あの……」
「リリアン、ちょっとあとにして!今からコイツをしばき倒す!」
「しばき……?なんでぇーー!?」
「ですが……」
「そーだそーだ!やっちまえ!」
よし!やっちまうか!仕方ない事だよ、自分がしたことの報いは受けるべきだ。
…………んん?今の誰だ?
「そもそもこんなテキトーな異世界に放り込みやがって!ガイドの天使も胡散臭いしさ!」
「放り込みやがって!でもガイドの天使は可愛くて有能だったぞ!」
…………いや、誰か増えてるな。勘違いじゃない。
「ほら!セツナンそこ!そこ!」
…………まさかね。でもさ、あたしをセツナンなんてバカみたいな呼び方する奴も、この世に一人しかいないわけで……。
「ん?どしたのセツナン。このアホ女神をやっちまうんでしょ、わたしも手伝おっか?」
「………………」
振り返ると……いた。憎たらしいほどに羽をパタつかせ、いるのが当たり前と言わんばかりの表情で。
あぁ……うん、久しぶりだね、エセ天使。
「とりあえず、くらえっ!」
「なん……の!」
女神から手を離して、全速力で剣を抜く。体感的には光の速さだったけど、なんなく防がれる。敵ながら見事な白刃取りである。
「ずいぶん……!剣を使うのが上手くなったね、セツナン……!」
「お陰様でね。どうせ斬れないから、このまま振り下ろさせてくれないかな……!」
「そ れ は 無 理 !」
元凶は女神だとしても、実行犯はコイツ。
その場合、どうしても苛立ちがエセ天使に向かってしまうのは人間のサガである。
にしてもいつもいつも防がれる。セツナドライブが使えればいいんだけど、今はちょっとお休み中なんだよねぇ……
「この後の流れは知ってるよ、セツナンが過去を捏造して物騒なこと言うんでしょ」
確かに、それはいつもの流れだね。でもさ、もう言った
か言ってないかなんてどうでもいいんだ。
「そんなことどうでもいいんだよ。ひとまず、お前を、木っ端微塵」
「そんな!わたしとセツナンの仲なのに!マブなのに!」
マブじゃない。よくもまぁ言えるもんだ。
「はぁ……だいぶこの異世界に馴染んじゃったなぁ……」
「いいことじゃん」
やれやれだよ。もう一回ため息をついて、決着がつきそうもなかったので剣をしまうことにした。
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