第118話 前略、出発準備と妹と
「んん……どう、かな?」
「んー、まぁまぁですかねー」
あれから数日。今日も瓦礫をどかして特訓特訓。
リリアン編を終えてポムポム編、少しは形になったと思うんだけどな。
「でも本当に物覚えがいいんですねー」
「それほどでもないよ」
リリアンからもたまに言われる。どうやらあたしにはそういったセンスがあるらしい。
元の世界なら戦う才能なんて必要だと思わないけど、ネオスティアではありがたい。
まぁ、もう少し早く目覚めてくれてもよかったけどね。
もうラスボスらしきイベントも終わったからね。うーむ、この間抜け具合はあたしらしい。
「普段からは全然、ほんの少しも全く感じませんけどー」
しばき倒したろか。
「こう……もっと腰をいれてですねー」
腰ねぇ……ポムポムのマネをして、ちょっとあたしも素振り。
こうしてみると知らない技術ばっかりだ。武器の使い方は分かっても、なんというか戦い方まではよく分からない。
相変わらず、この異世界はどことなくケチ臭い。システムの改善を求める。
……んー?思い返せば本当にケチ臭い。あたしはいろんな人に助けられてきたけどさ、あたしの前にここにきた人たちは苦労したんじゃないかな?
「んん、あれは……おーい!リリアン!」
ちょっと大きめに手を振る。呼んだところで急がないだろうけど。
スタスタ、テクテク、ジャラジャラ。いつもどおりの少し早めで規則正しく。可愛らしい感じを鎖の音が台無しにするような歩き方で、リリアンはやってくる。
「お、なんか懐かしいかも」
ほんの数日ぶりなのに随分と懐かしく感じる。上から下、メイド服にもどったリリアンを見る。
うんうん、やっぱりこっちの方が似合ってる。毎日のように見続けたからかな、いいもんだね、メイド服。
「どうでしょうか」
その場でクルリと回るリリアン。ふむ……ふむ……ふむ……
「いいね!」
リリアンのサービスにあたしも親指を立ててかえす。今日も美少女は美少女で世界は平和である。
「セツナ、ちょっと目つきがアレでしたよー」
「誤解を招くようなことはやめてよね」
それでまたリリアンが変な言葉を引っ張り出してくるんだ。本当に、訂正するのが大変なんだか……
「いや、ホント。マジに飢えた目つきでした、女の敵」
「誤解を招くようなことはやめてよね!?」
本気のトーンで話さないで!あと!あたしも女の子なので!
「私は構いませんが」
よかった。アホなポムポムと違って、リリアンは冗談が分かってくれて。
「ありがと、リリアン。そのまま嫁にきてほしい」
「あちゃー」
なんだこのカラフルな不審者は、ちょっとした椎名ジョークにいちいち大げさな反応しないでほしい。
「ふむ…………逆、ですかね」
逆?ん…………あ、なるほど逆。あたしがいくのか。まぁ、頼りないからね、あたしは。
慣れないだろうに、こんな軽口にも考えて返してくれるあたりリリアンの頑張りを感じる。
「ちょっとリリアンちゃんが可愛そうですよー……」
んん、異世界人には早かっただろうか。同性間での軽いジョークのつもりだったんだけど。
下らない話をしてて忘れかけてたけど、リリアンがきたってことは……
「そろそろ出発?」
昨日、そろそろここを出ようと話した。いい加減、あたしも元の世界に帰らなくては。
もうこんなイベントもないだろうから、少し観光してから帰るつもりだけど。リリアンも見たいものがあるそうだし。
「はい、少し余裕をもってでましょう」
決めたなら仕方ない。本当は復旧の人たちがくるまで手伝いたかったけど、そろそろあたしができる事もないしね。
「ちょっと名残惜しいですよー」
「あたしもだ……よ?」
んんん?なんか……走ってくる。速い、結構速い。リリアンがきた方から走ってくる。
人……だよね?セツナー!ってあたしの名前も呼ばれてる。
「もしかして……いや、もしかしなくても!」
シトリーだ!ちっちゃいシトリーだ!
なにかを抱えながら、天使のような笑顔で、あたしの名前を呼びながらこっちに走ってくる。
「シトリー!」
あぁ、今日はなんていい日なんだろう。あんなにあたしを殺そうとしてきた娘が、今はあたしにさよならを言うために必死で……!
ならあたしもこたえよう、この小さな身体を受け止め、抱きしめ、別れを惜しもう。
「セツナ!」
「シトリー!」
そろそろ止まった方がいいと思うけどシトリーは止まらない。分かる、分かるよその気持ち。
あたしも止まりたくない、別れは悲しいけど必要なもの。だからといって別れを悲しんじゃいけないわけじゃない。だから……!
抱きしめようとした瞬間。屈むように腰を沈めるシトリー、そしてバネのように飛び込む。
…………あたしのお腹のあたりに。
「あ゛……ぎぐ、あ……!」
い、痛いぃぃいいい!!!鈍くてするど……あ゛!痛い゛てか、死ぬ゛……!!!
「どれだけ痛かったか分かったか」
意識を失うような痛みの中、見上げたシトリーの目はどこまでも冷たかった……
あれ、おっかしいな。さっきまでの天使のような笑顔どこいった?
「シトリー、ダメですよー、セツナはタフだからいいですけど、基本的にお腹を攻撃しちゃダメですよー」
「あ、あ、あぁ……」
あたしもダメだよ。そう言いたかったけど言葉がでない。
あ、これヤバい。ネオスティアにきて2番目に痛い。死ぬ、多分死ぬ。
「ふん」
反抗期かな、ポムポムの注意にそっぽ向くシトリー。ここだけ見れば可愛いんだけどね。
「……まさか本当にあなたが倒したんですか?」
「え?あ、うん。そうだけど」
ようやく喋れるようになったあたしに、リリアンは少し意外そうに聞いてくる。
見てたんじゃないの?いつもならそう言うのにと聞いてみる。
「ちょうどその時は別のものを見てたので」
ふむ……いつでも、なんでも、いくらでも見れるわけじゃないのか。どうやって見てるかは結局分からないけど。
「さぞ激戦だったんでしょう。話を聞きたいです」
おや珍しい。なかなかストレートな要求だね。まぁ、別に隠すような話でもないし…………
「あの……シトリーさん?」
なんか嫌な予感を感じ取って振り返れば、シトリーはあの斧のような武器を振りかぶっていた。
そして小さく手招いている、耳を貸せということかな。
「あんな恥ずかしい話しないで」
「恥ずかしい……かなぁ?」
「恥ずかしいに決まってるでしょ!お腹に頭突きくらって気絶しましたなんて!」
「そういうもの?てかシトリー結構喋るね」
「あの時は無駄に話すと縮みそうだったから」
…………え、そういう感じ?そんな風船みたいな感覚で大きくなってたの?
「あの……それでどうなったんですか?」
話に置いてかれたリリアンが再び聞いてくる。
んー、んー……どうしたものか……
「えっと、その話は今度……じゃダメ?」
「…………分かりました」
ちょっと不満そう。今日の夜にでもなんか埋め合わせ的な話でもしようかな。
「気にすることないと思うんだけどな」
「気にするの、本当に乙女の気持ちがわからないんだから。こんなみっともない話、お姉様に聞かせらんないでしょ!」
お姉様って、いつからリリアンの妹になったんだ。聞いてないぞあたしは。
前にあたしの妹から、女心が分かってない!と怒られた事はあるけど、妹と言うのはこうも変な所に拘るんだなぁ……
いや、シトリーは誰の妹でもないけど。
「んん?して、シトリー。それはなに?」
なかなか愉快な本性をしていたシトリー。まぁ、自分を偽らなくてもいいってのはいいことだ。
あたしとしては、それよりも聞きたいことがある。
ずっと抱えている布に包まれたなにかが気になったので、聞いてみることにした。
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