第115話 前略、名乗りともう一つの仕事と
「……ふん」
あたしが剣をおろして数秒、副団長さんも不機嫌そうに槍をさげる。
「命拾いしたな小娘」
よくもまあ言わなくてもいいことを言うもんだ。こっちとしては、ポムポムを危険から遠ざけられればなんでもいい。
それにしても小娘と何度も呼ばれるのはちょっと腹がたってきたぞ。なんだ、中ボス気取りか。
「小娘小娘と誰をさしてるのやら、あたしにはセツナっていう格好良い名前があるんですよ」
ムカムカ、少し言葉に棘があるのは仕方ない。
これであっちが謝るとも、あらためるとも思わないけどさ。ちょっとだけ言い返してやりたかった。
「む、それもそうだな。失礼した、どうせコイツは謝らんだろうから私から詫びよう」
あれ?そっちが謝るの?あたしが文句を言いたかったのは、あのメガネであって団長さんじゃないんだけどなぁ……
うーん、こういうタイプはなんとなく苦手だ。椎名先輩と同じでイライラして言い返してやろうってとき、先に謝られると反応に困る。そんなことで苛立ってる自分が情けなく感じるんだ。
「んんん……その……あたしも悪かったです。ちょっと乱暴でした」
最近、少しばかり忘れかけていたけどさ、基本的に刃物は人にを向けてはいけない。元の世界なら犯罪物だ。いやまぁ、刃ついてないんだけど。
「マイアだ、よろしく。ちなみに結構偉いぞ」
……そっちが名乗るんだ!副はいまだに名乗らないのに!団長さんが先に!
団長さん……いや、マイアさんは誇らしげに、そしてどうでもいい説明をはさみながら名乗った。
うーむ、マイア。なんというか可愛らしい名前だね。凛々しい外見と合わない気もするけど、口を開けば結構おちゃめ。
なんとなく孤高なる暗黒騎士を思い出す。元気にしてるかなぁ。
「はぁ……」
深いため息。そんなに嫌なら名乗らなくて結構ですよ、ずっと副で通すから。
「私は、ケイ……」
けい?名前かな?これまた似合わない、なんというか女の子みたいだ。
「グレイシャス……」
ぐれいしゃす。あ、あれか名前、長めの、はい。
「フレデリック……」
ふれでりっく。格好良いな、でも長いよ。
「グレイシス……」
ぐれい……?あれさっきも同じようなこと言わなかった??
「ロルト……」
終わって……!終わって……!
「レーゲンレダク、だ。言うまでもないが偉いぞ」
なっがいよ!バカ!!なっがい!!!ポムポムなんてめじゃないくらい長い!
落ち着けセツナ。ここで声をだしたらまとまりかけた話がパーだぞ。
「…………よろしくお願いします、マイアさん、ケイちゃん」
「む、なんだこむ……「セツナです」
また小娘呼ばわりされそうなので先回り。なんだなんだ、小娘からはよろしくお願いしますも受け取れないのか。
「今、私のことを大分失礼な呼び方をしなかったか?」
……あれ、そうだっけ?ダメだね、名前の長さに意識がいっちゃって全然覚えてないや。
んん……あー、確かにケイちゃんって言った感じがする、そんなふうに口を動かした気がする。あれか、プライド的にさんを付けろってことかな?…………ここは異世界だぞ。
「しっかりとフルネームで呼んで敬意を払え」
……こいつはバカか?なんでそんなセリフを今日一番のキメ顔で言うんだ。
あぁ、なんだろ、さっきまでの敵対心が薄れてく。いや、薄れてくというかバカらしい。
「あたしにも譲れない信念がありまして……」
「ほう……」
何度目かのほう……。あたしも息を整えて伝える。
「アホにはタメ口なんだよ」
「なるほどー」
「なっ!アホっ!?俺が!?」
さっきまでの余裕さはどこえやら、取り乱すケイちゃん。あぁ、ネオスティアの人なんだなぁ……
一人称まで変わってる。なんとなくだけど、そういったところを変える人は、あたしと似てる気がする。つまり自分を変えたい、なりたい何かがあるような。
「それにしてもドラゴンは倒されてしまったか……」
まだ騒ぎ続けるケイちゃんをよそに、マイアさんが唸っている。
それもそうか、何日かかけてこんな大人数できたのに無駄足でしたは辛い。
「仕方ない、ならもう一つの仕事を終わらせるか。お前たち、仕事だ」
「何事です!?」
マイアさんの号令、あたしの驚き。
団員さんたちは魔術師を捕えるために動き出す。主に言い争いを続けてた、大人の魔術師を。
「…………と、いうわけだ」
曰く、アロロアは怪しかったらしい。直感的なものではなく確信的に。
身寄りのない子供を引き取るといえば、聞こえはいいがその後の話を聞かない。
そして魔術の発展を防止するかのよいに保守的で閉鎖的。何かがどこかに運び出された形跡もある。
「何かがどこかにって、分かんないですか?」
「ある程度わかってはいるが、セツナには関係のない話だろ?」
んん、確かに。あたしの首を突っ込むところじゃないか。
「罪のない学生たちには迷惑をかけてしまうな……」
マイアさんは心苦しそうに言う。たしかに学園も崩壊、大人もいなくなれば機能は完全に停止するだろう。
「でも必要なことだと思います。ポムポムも……あたしの友達も窮屈そうにしてました」
「もしそうなら私も救われる。近いうちに学園の復旧の為の人を送ろう。今度は真っ当な学園になるように」
子供っぽいとか言ったけど、こうしていると本当に格好良いな。出会ったばっかりだけど心からそう思うよ。
「さて、ドラゴンを呼んだのはだれなんだろうな。魔術師の中の誰かだとは思うが」
「その……もし犯人を見つけたら、その人はどうなるんですか?」
…………多分だけどさ、ここで酷い目にあうと聞けばあたしはこの話を終わらせる。
今回は偶然と奇跡が合わさっていろいろと壊れただけですんだんだ。だから……あたしの友達をやり直させてよ。
「捕まえて連行だ、もし悪質な人間なら殺す。もっともこんな事をしでかす奴は悪人に決まってるがな」
「…………」
話は終わりだ、甘くても間違っていてもここで終わり。
人は変われるんだよ、頑張れば変われるんだよ。
人生に悔いなんてないって言って。つまらない生き方をしてるバカを変えてくれて、笑いながら死んだ人を知っている。
その人の人生が本当に悔いのないものだとは思わない、思えない。もっと生きたいと思ってくれたはずだ、自分が変えた人間ともっと心から笑いたいと思ったはずだ。
悔いが残らないわけがない、人から認められなくて、踏みにじられて。復讐を選んで、自分もいろんな気持ちを踏みにじって、憧れた主人公にそれを止められて。
それが最後でいいもんかよ、そんなのだれも幸せな結末じゃないんだよ!
「僕ですよ」
「……え」
聞こえるはずのない声が聞こえた。あまりにも普段どおりの友達の声が。
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