第113話 前略、銀色と金色と

「ーーーっ!ーーーー!!!」

「ーー!ーーっ!!!」「ー!ーーーーっ!」




「はぁ……なんというか、相変わらずというか」


「全くですねー」


 どうしてこうも言い争いに事欠かないのだろうか。今日も原因がなんだの、だから最初からなんだの。聞いてるこっちの気が滅入る。


「……私としては周りを見ていないのが不愉快ですね。失われた命が戻ったのに、誰もそれを気に留めない」


「そうだね、あたしも嫌だな。まだ小さい子もいっぱいいたんだし、もう少し喜ぶことだと思うんだけどなぁ……」


 なんか……いや、嫌だな不愉快だ。

 はっきりと嫌だ。なんかまるでそんな事どうでもいいような態度が嫌だ。


「ポムポムからしたら今更ですよー、コイツらは自分のことしか考えてませんからー。本当のクソ共ですよー」


 いつものあまり感情を感じさせない声。だけど今回は苛立ちが滲み出ている。

 ポムポムにだって感情はもちろんある。それをみてきたし、感じてきた。今更だけど間延びした気だるそうな話し方は、そんな自分の感情を隠す為のものに感じる。


 少しだけ気になるけど、ポムポムがそう決めた生き方ならあたしが口をだすことじゃないか。

 でも、いつか助けが必要なら頼ってほしいな。


「やれやれ……ポムポムは結構口が悪いよね。曰く、それじゃあモテないらしいよ?」


「口が悪いとかセツナに言われたくないですよー、あとポムポムは…………お家がお金持ちなんで心配ないですー」


 おっと、ちょっと空気をなごませようと思ったけど反撃をくらってしまった。まぁ、あたしはうまく隠してるからポムポム意外にはバレて……ない……はず……?

 ………………んん?こんなアホっぽい格好してるポムポムが?面白い冗談だね、ナイスジョーク。


「ねぇ、ポムポム」


「はい、ポムポム」


「あー……ラルム君とシトリーはどこにいるの?言い争いに巻き込まれてるわけでもないみたいだし」


 そういえば今日はまだ見ていない。昨日ポムポムが、任せてほしいですー。って言ったきりである。


「絶対面倒くさいことになるのでー、ふん縛ったまま寝かしときましたよー」


 リリアンといいポムポムといい、ネオスティアガールはバイオレンスですね。

 …………?なんかさっきから音がするな、でもポムポムはなにも言わないし気のせいかな?


「んん?」


 いつまでもこのままじゃいられない。なんというかここの問題はなにも解決してないと思う。

 だからまず事情を知るべきか、魔術師たちに近づこうとした時、リリアンに服を引っ張られる。


「どうしたの?」


 珍しいな、そしてなんだかいじらしい?な。こういう動きは可愛らしく感じる。


「嫌な予感が当たりました」


 はて?あたしはなにも感じないけどな。いや、今からあんまり関わりたくない人たちと関わるんだくどさ。

 でもそれは仕方ないことだよね。そんな言葉よりもリリアンは先に言う。


「手短に伝えます。ドラゴンはあなたとポムポムさんが倒したことにしてください」


「……なんで?」


 んん?んんん?今日もリリアンはよく分からない。なんだってそんな自分の頑張りをなかったことに……?

 そしてあたしもそれを自分とポムポムだけの手柄になんてしたくない。ドラゴンを倒したのはリリアンだし、あたしはその手伝いくらいにしかならなかった。  


「なんでもです。…………気をつけてくださいね」


「え、ちょっと!」


 気をつけて。少しだけ不安な言葉を残してリリアンは離れていく。フードを深めに被り、身を隠すように。


「あー……きましたかー」


 気のせいじゃなかった、音の正体は集団。いくつかの馬車がやってくる、鎧を着た騎士をのせて。


「うわ……すっごい」


 自分でもなかなかマヌケな感想がこぼれた。それも仕方ないと思えるくらい圧倒される光景だった。


「キレイな人だなぁ」


 圧倒されたまま感想を続けて。一番前の馬車からでてきた銀色で長い髪の女の人。背も高く、凛々しい表情は可愛いよりも、やはりキレイがぴったりだ。

 続いてでてきた金色の髪の男の人、これまたキレイという表現がぴったり。細身ながら頼りなさは感じず、メガネ越しでもキレのある鋭い目がはっきりと分かる。


 あまりジロジロと見るのはマナー違反かもしれないけど、二人揃っているととても絵になる。

 美男美女というやつか、羨ましい。


「ふーん……ふむ……ふむ……」


 銀髪の女の人が一歩、二歩、三歩。キョロキョロと見回しながら前にでてくる。

 少し……警戒するべきかな。嫌な感じはしないけど、凄く強そうな雰囲気。


「なんだ、いないじゃないか。ドラゴン。おい、副団長どうなってる」


 …………なんだろ、思ってたのと違う。

 あたしはもっと組織のボス的な、威厳のある言葉がでてくるものだと考えてた。

 

 その考えは裏切られ、女の人はまるでおもちゃを取り上げられた子供のように頬を膨らませながら、隣に立つ副団長と呼ばれた人に話しかける。少し可愛らしい。


「団長……頼むからあまり口を開かないでもらいたい」


 ため息まじりに今度は男の人が前にでてくる。

 格好良いな……団長。あたしもそろそろなにか肩書きみたいなものがほしいところだ。

 あ、でもギルドなのに団長か……うーん、なんかズレてる気がするけど格好良いからいっか。


「驚かせてすまない、アロロアの学生たち」


 よく通る声だと思う、きっと人の上に立つことに慣れているんだろう。

 同じ金色の髪なのに、どこぞの不良よりも自然な色に感じる。どことなく漂う高貴な雰囲気のせいだろうか?


「我々はギルド、法の番人。この学園に現れたドラゴンを討伐にきた」


 だからなんとなくその人たちの活動と、法の番人は意味合いが違うって。これも前にネオスティアにきた、あたしの世界の人がテキトーに伝えてしまったんだろう。

 本当に、ごめんなさい。間違った意味で伝えてし

まって。あと……


「すみません、ドラゴン……倒しちゃいました」


「「「えぇ!?」」」


 聞こえてきたのは団長さんの残念そうな声と、他の団員さんの驚き。


「ほう……」


 副団長さんの鋭い目がこちらをとらえる。

 あぁ……言わなきゃよかったかも。でも言わなかったらそれはそれで面倒そうだしなぁ……

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