第112話 前略、必殺技と奇跡と

「ねぇ、そういえばさ」


 変わらぬペースで歩くリリアンの少しだけ後ろ、気になっていた事を聞いてみる。


「リリアンの必殺技はなんていうの?」


「……私の必殺技?」


 返事はくれるけど歩く速度は落とさずに答える。なぜか疑問符つきで。


「いや、ドラゴンを倒すときになにか言いかけたからさ、必殺技かなーって」


「ふむ……必殺技……必殺技……」


 んん?聞き間違いだったのかな?でも確かになにか言いかけたと思うんだけど。


「口にだすと少し、バカらしい響きですね」


 最初だけだよ。そんなことかと答える。

 気合を入れる為にも必要な儀式だし、やはり格好良い必殺技は知りたいんだよ。


「いえ、なんというか……正確には私の、ではないんです」


「えっと、元ネタがある……みたいな?」


 はい。いつもの感じで答えて考え込むように、顎に手を当てる。

 なんとなく分かってきたけど、何かしら迷ってるときの癖みたいだね。


「そうですね、元は別の人の技です」


 これくらいなら答えてもいいと判断したんだろう。うーん、気になる。


「正確な名前は月欠総転といいます」


「げっか……そうてん……」


 か、格好良い……!多分、四字熟語みたいな感じだ!いや、異世界でその名前はどうよとか今更ツッコまないよ。もう諦めた。


「あんまり好きな名前ではないんです」


「んん、なんとも勿体ない。格好良いのに」


 ネーミングセンスに脱帽である。こうしてみると、少しだけあたしはひねりが足りないみたいだ。


「えぇ、だって……」


 ピタっと立ち止まったリリアンは当たり前のように、そしてつまらなそうに理由を語る。


「月が欠けて総てが転がるなんて、なんだか悲しいじゃないですか」


「…………」


 そのさ、なんていうかな……そういう感覚が悪いものだとは言わないよ?響きって大切だしね。

 でもさ、一つだけ……一つだけ言いたいんだ。大声だすと怒られるから心の中で。


「異世界人が漢字の響きを疑問をおぼえるなぁぁあああーーっ!!!!!」


 あ、声出ちゃった。でもこれは仕方ないよね?あたしはおそらく元の世界の人全員の言葉を代弁したにすぎない。


「もう少し静かに」


 冷ややかに怒られて歩くのを再開。やっぱりこの異世界はよく分からない。




「…………いやでもネオスティアの半分くらいの文字はあたしの世界の文字なんだしそれ自体はなんの問題もないのでは?だけどさ一般的にみてここは異世界なわけでだからなんというか漢字4文字が必殺技としてでてくることに違和感が半端ではないわけでつまり……」


「あの……本当に少し静かにできませんか?そろそろ怒り……はい、怒ります」


「すみませんでした」


 何度もしたやり取りだけど、おそらくリリアンはすでに怒っている。これは最終警告だ。

 先程の月欠総転についてブツブツと違和感をあげていたら、気づかぬうちに目的地のようだ。


「相変わらず、いい雰囲気じゃないね」


「全くです、少しは私たちを見習うべきです」


「ハハっ!ナイスジョーク……痛いっ!」


 おかしい……最近のリリアンは、場をなごませる努力をしているのを知ってるから拾ってあげたのに……!

 本当に痛いから足の小指を踏み抜かないでほしい、やはりバイオレンス。


「さて、そろそろあたしにできることをしなくては」


 なんか緊張する。そりゃそうだ、こんなのまるで神様だ。

 ポーチからくしゃくしゃの紙を取り出す。最後の異世界特典を。


「……本当に使ってしまうんですね」


 リリアンが心配そうな顔で言う。なんとなく言いたいことは分かる、あなたは弱いんだから保険として残しておくべき。みたいな感じかな?


「あたしもね、正しいか分かんないよ。人の生き死にを勝手に個人が、しかも自分の力じゃなくてもらった特典でどうこうしていいのか、分かんないよ」


 どちらかといえば間違いに傾くと思う。

 エセ天使も言っていたし、ここ意外で同じような事があったらどうするのかって。 

 偽善で自分が見たくないものを見ないための逃げなんじゃないかって。

 なかったことにしてしまうのは、間違った友達を甘やかすような事じゃないかって考えたよ。

 

「それでもさ、それでも明日……いや、今後悔しないように。自分にできることがあるなら、それをやることにするよ」


 なにか出来ることがあるのにやらなかったら、多分後悔する。今じゃなくても、明日じゃなくても、いつかかならず。

 …………にしても使い方が……あ、裏に書いてある。ちぎれ、なんともシンプルだ。


「頼むよ、エセ天使……いや、この場合は女神とやらかな……?」


 一瞬、強烈な発光。目が慣れて視界が戻る。

 光り、消えていくチケット。ザワザワとした声が広がっていく。


「……とりあえず、ありがとう……かな?」


「えぇ……本当に……奇跡かなにかのようです」


 リリアンの反応をみて、やっぱり魔術だのがある世界でも奇跡と例えることなんだと理解する。

 生き返った?時が戻った?どちらにせよ、もうここに失われた命はないらしい。


 本当ならみんなに説明をするべきなんだろうけど、今はそんな時間はない。後でね。

 ……冷静になるとこんな凄いものを2枚か……やけに太っ腹だね。


「セツナー」


 急に周りが活気づき、ポムポムがこちらに気づいたみたい。あたしも手を振り返す。

 それじゃあそろそろ。いい雰囲気じゃない原因、頭の固い魔術師のところに行くとしますか。

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