第111話 前略、反応と対抗心と
「……んん…………」
朝、か……なんだか気だるい。どうにも身体が起きないな……
「普段の寝起きはいいほうなんだけどね」
言っていても始まらない。まずは立ち上がることだ、何事も。
「リリアン、おはよう」
相変わらず、目覚めるのが早い。あたしに付き添ってくれたリリアンにも声をかける。
建物の残骸の上に立ち、どこか遠くを見ている。
「はい、おはようございます」
返事は返ってくるけど、目線はいまだ遠くを見つめている。何をみているんだろう?
「何か面白いものでもあるの?」
近くまで行っても、少しだけ険しい顔をし続けてる。どうやら面白いものではなさそうだ。
「もう少ししたらポムポムのところに行こうか、やらなきゃいけないこともあるからね」
ここでやるべき事はまだ残っている。あたしも決断しなくちゃいけない。
「……そういえば」
何を見ていたか。リリアンはそれを語らずに別の話題に入る。つまり、あたしが知る必要はないということだろうか?
「あなたはたまに嫌な予感がする。と言いますがどんな感覚ですか?」
んん?なんで今そんな事を聞くんだろう。まぁ、聞かれれば答えるけどさ。
「んー?なんて言うかな……なんかさ、ゾクっとするみたいな?ただの勘だと思うよ」
ポムポムがびみょーーーに楽しそうな顔で素振りを始めた時とかね。一応の補足説明。
そういえばなんだっけな……ポム……ポム……ポムみたいな名前だったような?
「リリアンが期待してるような何かじゃないよ」
それで救われる事もあるけどさ。予知みたいなのを期待してたんだろけど、残念ながらそんな便利機能はついてないんだな、これが。
「ふむ……十分です」
「十分……?」
はて?何の話だろうか?しばらくしたらポムポムのところに行こうと言ってるのに、なぜ勘の話を……?
「ひぇっ!」
ちょっと裏返った声がでた。仕方ない、誰だって目の前まで拳がくれば驚く。
「…………どうしたんですか、反応してください」
「いや、あの……なんで!?」
待って!待って!なんで今殺されかけたの!?今までもそうだけど、今のリリアンのパンチは死ぬよね!?一撃で2、3回は死ねるよ!
「前から言おうと思ってたけど!少し言葉足らずだよ!リリアンは!」
「なにを今更」
「あっれ!?自覚あるの!?」
意外すぎる返事にまたも驚く。あたし何か怒らせるようなことしたかなぁ……
「今から早急に技術を習得してもらいます。そういう話だったはずです」
「え、今?……いや、そもそもそんな話してないよ……?」
ひぇっ!またも目の前まで繰り出される拳に何度目かの驚き。
「だから待ってよ!せめてなにをさせたいのか教えて!」
このままだとリリアンの手元?がくるって殺されかねない、説明を要求する。
「攻撃に対して、躱し、反応し、逆に斬りつけるくらいの動きをしてほしいんです」
「…………できる?それ」
やれと言われれば頑張るけどさ……そもそもそれできるの?あたし。
「はい、できます」
それが当たり前のように頷くリリアン。
そんな自信ありげに言われるとさ……頑張ろうって気持ちになっちゃうよ、ちょっとズルい。
「その、どうしても今?」
「今です。もしかしたら戦闘になるかもしれません。そして私は側にいれないかもしれないので」
今必要なんです。キッパリと言い切られる。
そしてリリアンが見ていたものが、敵かもしれないと予想がついた。
「よし!分かったよ、ドンとこい!」
「それでは……」
「ひぇっ!」
違うの、怖いんじゃないんだよ……?いやそのさ、うん、そう、なんだかんだね……やっぱり怖い!
「っと!」
何度目かの恐怖を乗り越えて、今にいたる。
リリアンの右の拳をしゃがむように避け、腰の剣を抜き放つ。
「……本当に、なぜだか上達が早いんですね」
どうやら合格みたいだね、なんとかなって良かったよ。
そういえばアニキさんとの戦いの時も似たような事をしたね。もしかしてそういう才能があったり?さすがにうぬぼれすぎか。
「ですがまだ固いです」
言うやいなや、リリアンはあたしの後までやってくる。ちょうど背中のあたりに手を当てて
「……そういえば、身体が柔らかいんですよね?」
…………どうして今そんな事を確認するのかな?
マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ。
どうしようもなく嫌な予感がする!ありえないくらいにゾクっとする!
「ねぇ、リリアン。今すっごく嫌な予感がするんだよ」
「ふむ……確かに不安定な感覚みたいですね」
「今回は正常だよっ!!!」
「問答無用です」
言葉と同時にそれは行われた。いや、感覚的な話だけど言葉より先に行われた。
「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁっ!!!あ゛!いっ!痛っ!あ゛!たぁぁぁああっ!!!」
!?!?何が起こったのか分かんない!?でも死ぬほど痛いことは分かる!
「あ、すみません。少し痛いですよ」
言うの遅いし……っ!少しじゃないし……っ!
ダメだ、立ってらんない……許して……許して……
「そうですね、寝そべってもらうと次がやりやすいです」
あたしの救いを求める心の声は誰にも届かず、悪魔は背に乗る。
そうだね、見た目だけならマッサージかなにかに見えなくもないね。実際は拷問だけど。
「あ゛あ゛あ゛!助け……あ゛!」
「ふむ……まるで無理やりに当てはめたような……異世界の人は全員こんな骨格なんでしょうか」
こ、骨格!?骨格レベルで何かされてんの!?やめてほしいけど、声が……いや、出す!声がでないとか言ってられない!!!
「待って!あたし!死んじゃうよ!?」
「何を言ってるんですか、人は簡単に死にません。ついでに少しだけほぐしておきましょう」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
あ、今バキっていった!ほぐす?これほぐしてる音じゃないよ!折ってる!これ折ってるって!
そもそもこれなに?拷問?拷問だよね?もう隠し事なんてないのに何を聞き出そうって言うんだ。
「無理無理無理!!!肩とれる!無理だよ!そこの骨は動かないんだよ!」
「あの……もう少し静かにできませんか?多少痛いのは当たり前です」
「む、無理……」
人は死を目の前にすると何かを残したくなるんだ、魂の叫びとか。
「これで最後です。少しだけ痛いですよ」
「ん゛!あ、あ゛あ゛!あ……」
せめて……せめて覚悟する時間が欲しかった。早いよ、言ってからが早いんだよリリアン。
でも、痛みに耐え続けたおかげなのか最後の方はなんとか、はい。
「ふぅ……お疲れ様でした」
「………………ありがとうございました?」
あたしはなぜお礼を……?
どうでもいいか、そんな事。生きてるって……いいなぁ……空って青いんだなぁ…………
「いたたた……」
とりあえず立ち上がる、若干足元が怪しいけど。
「それではもう一度」
もう一度……つまりさっきの動きを忘れてないか試すってことだよね。間違っても拷問再開じゃないよね?
軽く手首を振るうリリアン。良かった、そっちで本当に良かった。
反射じゃなくてあくまで反応。
嫌な予感もいってしまえば、なんとなく攻撃の予備動作を感じてたのかな。リリアンはそれに気づけと言いたかったんだ。……多分。
「…………どう、かな?」
「はい、上出来です」
さっきまでよりスムーズに剣を抜けた、まるで身体が戦う事に適応したかのような。
「えと、リリアンのおかげだったり?」
思い当たるのは一つ。あの拷も……マッサー……骨格矯正…………拷問だけだ。
「なにを言ってるんですか、あなたの力ですよ。ほんの少しだけきっかけをあげただけです」
いつものなんでもないような顔で答える。少し照れる、あとやっぱり
「うん、それでもありがとう。また前に進めたみたい」
やっぱりありがとうが正しい。きっかけなんて自分じゃなかなか手に入らない。
にしてもなにされたんだろうな……正直な話、ネオスティアにきてから一番痛かった……
「なによりです。続きはまた今度」
「………………」
ツヅキハマタコンド?どこの言葉だろう、ネオスティア語かな?
うんうん、独自の文字があるなら言葉もあるよね。いやぁ、また一つ賢くなったよ。
「にしてもこれは大きな一歩では?正直、今は負ける気がしないよ」
不吉なネオスティア語を振り払い、軽く素振り。
「あまり調子に乗るのはよくないですね」
忠告のようにリリアンは言う。
「今から頭部を、正面から殴打します」
なんか、そう改めて言われると怖いな……
最初に言っておくってことは、速くするぞ。って意味だろうし。
「今度こそ……どんとこい!」
大丈夫、大丈夫。顔の正面にくるのは分かってる。腕や足、腰や目なんかのかすかな動きを見落とすなよあたし。
「あ……っれ?」
瞬きなんてしてないのに、ほんの少しも気を抜いてないのに。リリアンの拳はすぐ目の前にある。
もしもリリアンが敵だったなら、あたしの物語はここで終わっている。
「このように、見えないものは反応のしようがありません。時には予感とやらを信じて逃げることも必要ですよ」
「…………ありがとうございました」
はい。短く答えて歩きだす。どうやらこれからポムポムのところに向かうみたい。
「なにをしてるんですか、行きますよ」
今日も頼もしくて格好良い。やっぱり少し似てる憧れるんだよ。
そしていつもリリアンは先を歩くんだ。旅の道程も、戦いとかそういうのでも。
「それでも……一度くらいは」
この旅が終わるまでに、一度でも隣に立ちたいな。なんだろうこの感じ、対抗心かな?
「今行くよ!」
よく分からないので今日も走ることにした。
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