第101話 前略、大丈夫と許せないからと
「セツナ、やりましたねー!」
ポムポムが嬉しそうな声と共にあたしを受け止めてくれる。
あぁ、そういえば落下中だったね。
「うん、やったよ。ポムポムもありがとう」
いえいえー!なんだかさっきからやけにテンションが高いな、普段との落差が大きすぎる。
どちらが素のポムポムなのか、野暮な事は聞かなくていいか、人には自分を偽ることも必要なのだ。
「リリアン、お疲れ様」
それよりもこっちだ、優雅に着地を終えたリリアンに駆け寄る。
「はい、お疲れ様です」
いつもの表情だけど声がなんだか疲れてる。
仕方ない、あたしとポムポムも頑張ったけど、今日のMVPはリリアンだ。
ドラゴンは……なんだろう、肩……といっていいのだろうか?とりあえず、人に例えるのならそのあたりから大きく切り裂かれていた。
まだ生きている。だが両断されていないだけでそれはかろうじて繋がっているに過ぎない。絶命は逃れられないだろう。
「後はあなたの仕事です」
だよね。多分、あたしの仕事だ。
「うん。行ってきま……」
す、と続かなかった。リリアンが何か言いたげにこちらを見てる。
「大丈夫ですよ」
大丈夫?何がだろうか、もう危険はないという意味かな?
「大丈夫です。もしも今日の結末が幸せなものじゃなくても、大丈夫です」
結末が幸せなものじゃなくても……含みのある言葉だ、少しだけ不安になる言葉だ。
「きっと大切なのは自分の心に素直になることだと思います。あなたらしくある事が、いつかハッピーエンドに繋がるんだと思います」
だから大丈夫です。もう一度あたしに大丈夫だと伝えて、ポムポムの方に歩いて行ってしまった。
分かんないな、なんとなく分かんない。
話し合いに失敗してもいいという意味だろうか、それとも自信を持てという意味だろうか。
あたしのブレた心のどこに素直になればいいのだろうか、分かんないけど。
「ありがとう、頑張ってくるよ」
聞こえてないだろうけど、お礼は残して。
「さてと、改めて話し合いといこうか」
ドラゴンの傍らで何かを呟くラルム君。その少し離れた所から声をかける。
「…………」
ブツブツと声は止まらない、あたしの言葉は届いているのだろうか。
「もうドラゴンは倒れたんだよ。トカゲもドラゴンも品切れなんでしょ?」
もし余裕があるなら戦いの中で呼び出すはずだし、昨日も途中で帰らなかったはずだから。
「いい加減さ、帰ってきなよ。みんなに怒られてさ、やっちゃった事は少しづつ取り戻したらいいんだよ」
幸いな事にも取り返しがつく、ご都合主義な力を持っている。
後は自分を許せるかどうかが大事で、許せないなら許せるまで悩めばいいんだよ。
「……って、聞いてる?」
返事が返ってこない、こちらを見ようともしない。少しだけ嫌な感じだ。
「ねぇ……「クソッ!なんだっていうんだよっ!」
いくつかの対応は想定していた、でもそんな苛立った声で叫ぶとは思わなかった。
だって、さすがにそんな権利はないでしょ?
「せっかく上手くいったのに!あいつらを見返せると思ったのに!」
……ちょっと待ってよ、これだけやったのにまだそんな事ばかり言うの?
「いい加減にしなよ、そろそろあたしも怒るよ」
まだ、まだ落ち着け、ブレるな。
「ポムポムは気にかけてたし、シトリーは誰かを殺すなんて決意をしてたんだよ。それなのにありがとうも、ごめんなさいもないの?……ねぇ!」
そうだ、今一番腹が立つのはそれだ。なんでよ、なんでそこまでしてくれる人がいるのに自分の事しか考えられないの……?そんなの悲しすぎるよ、可哀想すぎるよ……
「知ったことじゃない!僕に協力できないやつも!命令を守れないやつも!必要ないだろうっ!」
「……けんなよ」
あぁ、そうかよ、それが答えでいいんだな。
ならもうやめよう、下らないよ。
「ふっざけんなよっ!バカ野郎ぉぉおおお!!!」
話し合いだとか、平和的だとか、そんな事では解決できない気がした、分からないけど。
ついでに自分の感情も分からなくなってきた、だから自分の心に素直になってみた。
許せないから、正しくなくても殴る事にした。
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