第100話 前略、あたしと…………
「うん、借りるよ。頑張ってくるよ!」
いろいろと聞きたいことはある。
あたしにそれが使えるのとか、本当に借りてしまっていいのかとか。他にも不安や恐怖もいっぱい。
でも今はそれは置いといて前を見よう。
見栄ははった。野暮な事は聞くまい、他の疑問も持てば分かる。
「重っ……!」
まず最初の感想は重い、ほとんど持ち上がらない。そして……
「なるほどね、これが人の武器か……」
はっきりと分かる、これはあたしの武器じゃない。
重さも相まって強い違和感を覚える。
「悪いけど、今は協力してもらうよ」
本当の相棒じゃないのはお互い様だ、少しの間だけ仲良くいこう。
「使いこなす必要はありません。ただ一度、羽に振り下ろすだけで十分です」
「りょーかい、その後はよろしく」
さてと、じゃあ久しぶりに
「そん……」「それ……」
掛け声を……と思ったんだけどリリアンとかぶってしまった、気に入ってくれたのかな?
「それ……」「そん……」
…………気まずい、今度はお互いに相手に合わせようとしすぎた。
「そんじゃあー、いっちょいきましょー」
「あ……うん!いきますかー!」
取られてしまった。それも仕方ない、もう時間だ。
「来ましたねー。セツナ、いけますかー?」
「ちょっとだけ待って!」
ドラゴンをもう一度遠目で見る。
あぁ、やっぱ怖いな。でも行くしかない、やるしかない。
少しだけ深呼吸。下がれ血圧、落ち着け心臓。
「大丈夫です。私の代わりにその剣があなたを守ります」
目を閉じて、数秒。うん、それなら安心だ。
「ありがとう。よし!ポムポム!ぶっ飛しちゃってよ!」
落ち着いた、今度は気持ちを切り替える。
頬を叩き、リリアンの大剣を引きずりながらポムポムの近くに。
「「セツナドライブ!!」」
あたしとポムポムの声が重なる。
実際にはあたしの必殺技はもっとスマートで格好良いんだけどさ、目的は一緒、目標も一緒、それならなんの問題もない。
ふわりと飛んだあたしの足裏に振り抜かれる杖。
もう腰やお尻を叩かれるのはたくさん……というのは半分。もう半分はより高く、より速く、頂へ。
「っ!……ぐぅぅ!」
物理的な重さと精神的な違和感が手を離そうとする。それでも離さない、根性論だ。
「出てきてもらった所で悪いんだけどさ」
ドラゴンの完全出現からほんの数秒、あたしはもうその頭部よりも上にいる。そして目を凝らす。弱点は見えない、一部ではなく全体の色が変わっている。
「あたしにはやんなきゃいけない事があるから」
なんだろうな、友達が間違ってると思う。強い力を間違った使い方をしている。
だからそれを奪う、壊す、殺す。正しいのかな、多分正しくないんじゃないかな。
それは彼が歪んだおそらくの原因と同じ事なんじゃないかな。
でもさ、お節介でも偽善でも正しくなくてもさ。
それでも自分にできる事をするんだよ、誰かが困っていたら手を差し伸べるんだよ、泣いてたら涙を拭ってあげて、寂しいなら隣にいるんだよ。
そうやって誰かのなにかになるような、慣れあって傷を舐め合うような、そして足りないものを補い合うように生きたいんだよ。
時浦刹那はそんな生き方に憧れたんだよ。
「だから……」
だから……もしその為の道を塞ぐなら、避けて通れないなら───
「───斬る!!!」
手に力を込める、本当に重い、けど!
一振りでいい、ほんの一振りだけ!
「背中を押してくださいよ、椎名先輩っ!」
久しぶりに呼んだ気がする。やはり極限状態で頭をよぎるのはあの人だった。
「ああぁぁぁああああ!!!!!!」
響くドラゴンの咆哮。無我夢中に放った一振りは、ほんの一瞬何かにあたったような感覚───そして次の瞬間、目を開く。
「よし、悪くな……いい結果……かな?」
片方の翼を切り取られたドラゴンは苦しそうに唸る。怒りを込めた目でこちらを見ながら共に落ちていく。
「って、やっぱりそうなるよね……」
どうやら、ドラゴンの闘志はまだ衰えないみたいだ、落ちながら、その爪があたしに振り下ろされる。
なんだろう、なんとかなる気がする。いや、なんとかするんでしょ!
「もう一回!!!」
なんでだ、手に力が入る。もう一度、この剣を振るえる!
「あぁ……ありがとう、リリアン」
本当に守ってくれたよ。あとごめん……手、離しちゃった。
落下物が三つに増えてしまった。大事に使えと言われたのに手を離してしまった。多分、怒られるなぁ……
「んん?」
もとよりそんなに高い場所ではなかった、リリアンからみたら高いかもしれないけど、よく飛ばされる身としてはそうでもない。
つまり、もう数秒で地面だ、地面なんだけど……
「リリアン?」
おかしいな、なんでこんな所にいるんだ?一応、空というカテゴリーの場所なんだけどな……
あ、剣を持ってる。うん、やっぱりその大剣はリリアンが持っていた方がいい。
……つまり、今から怒られ……刻まれるのかな?
「えぇ、上出来です」
あれこれと言い訳を考えるあたしにかけられた言葉は労いの言葉で、とても嬉しそうな横顔で。
「月欠……いえ、やはり恥ずかしいので普通にいきましょう」
げっか……?恥ずかしい……なんだろう、なぜか心がくすぐられるような……
そんな下らない思考はすぐに消える、だって……この光景から目を離せない。
大きな剣だ、どんなに扱いが上手くても荒々しく映る。でも、その荒々しさも含めて……
「キレイだなぁ……」
どうしようもなく……キレイだ。
行った事は単純で、構えて振り下ろす。
ドラゴンの身体は大きく裂かれて血が弾ける、残酷な光景だ。
「あ───」
それでもリリアンから目が離せない。空中でドラゴンを斬り、振り返る。
自分でもどうにもならなくて手を伸ばす、届かないって分かっているのに。
それでも今のあたしは、真昼の空に浮かんでいる月に、手を伸ばさずにはいられなかった。
この瞬間を、この気持ちを言葉にできない、どうしたって文字にはおこせない。
だから───きっと……いや、いつまでだって、この瞬間を忘れない。
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