第99話 前略、作戦と跳躍と黒い大剣と
「いや待って!」
「なんですか、これからと言うときに」
ちょっと不満そうな顔でこちらに振り返る、なんですかじゃないよ!
「そんな簡単に外れるの!?いままでそんな素振りなかったじゃん!?」
なんか凄い封印的な雰囲気を出していたはずだ、それこそゲームとかなら最終局面とかで明かされる秘密みたいな。
「やってみるものですね、日頃から善行に励んだかいがありました」
「絶対関係ない!」
なんで!?さっきまでのシリアスな感じはどこへいった!というか反応に困るから急に冗談をいわないでほしい!
「ふむ……やはり慣れないことはしない方がいいですかね。少し思いつめていたようなので、私なりにほぐそうかと」
あなたに倣って。そう言われちゃうと……なんだか、あれだ、その……嬉しいな、すごく。
「ありがとう、うん、いい感じ」
「なによりです」
好きな表情だ、その微笑みからは優しさを感じる。そのおかげかは分からないけど、今日のあたしの心はブレていないのではないだろうか?
「あのー、これポムポムも会話に入って大丈夫ですかー?」
おずおずと近くまできたポムポムが聞いてくる、喋り方はいつもどおりだけど声からリリアンを怖がってるのが分かる。
「大丈夫大丈夫、ちょっと怖いけどいつものリリアンだよ」
全く、さすがに怖がり過ぎじゃない?ほら、見た目は…………見た目だけならいつもの…………
いや、ごめん知り合いじゃなかったら逃げてるかも。
「ちゃんとあたしたちの仲間のね」
でもそれはもしもの話だ。あたしは知ってる、その不器用さも、優しさも。
「そうですかー、すみません。怖がっちゃいましたー」
リリアンに頭を下げて謝るポムポム。
うんうん、分かってもらえてよかった。
「ポムポムもー、あのバカに言ってやりたい事があるんですー」
そうか、考えてみればポムポムもラルム君の友達だ、あたしはある程度伝えたけどこの二人はまだ何も話し合えていない。
でも、悲しいけどそれを伝えても何も変わらないかもしれない。
彼の決心は変わらないかもしれない、それでもきっと必要な事だ、だから……
「うん、伝えてきなよ。ポムポムの思……」
思い。そう続けようとしながらラルム君の方を振り向く、正確にはいたはずの場所を……んん?
「あれ…………あ!逃げるなぁ!バカ!!!」
この事件の中心で、今話にあがっていた青い髪の男は中に浮いていた。そしてそのままゆっくりと高度を上げていく。
あまりに予想外の行動につい言葉が悪くなってしまった、いや仕方ない。気を取り直して。
「あの卑怯者め!」
「落ち着いてください」
地面を踏みつけるあたしにリリアンの声。なんとも冷静でいられるものだ。
「あれ多分、逃げてるんじゃないですよー」
んん?では彼はなにを……?
「おそらく焼き払うつもりでしょう、すべて」
鎖を引きちぎり、残った枷の部分も壊しながらいつもどおりのリリアン。
……なるほど、ついに腕じゃくて本体のお出ましというわけだね。
「つまりあたしじゃお手上げだね。リリアン、悔しいけど後は頼むよ」
残念だけどあたしではどうにもならない、いつもなら絶望だけど今はついに枷を外したリリアンがいる。
ここは任せてあたしは援護に徹した方がいいはず。
「…………ふぅ」
「なんか疲れてない!?」
あれ?おかしいな、パワーアップしたリリアンが一撃で終わらせてくれるやつじゃ……
「あ、いえ、疲れているといいますか。忘れかけていましたが強かったんですね、私」
「今!?」
全然本調子じゃないって事!?じゃあピンチだよ!
「一振りくらいなら大丈夫です。ですが高いですね」
すぅー、とおそらく浮かびきり、ドラゴンを呼ぶ準備をしているラルム君を指差して言う。
「撃ち落としてきてください」
「え……無理!」
無理無理無理!!!高いし!ブーツ壊れてるし!そもそも使い切ってるし!!!
なんて無茶を言うんだ!なんか楽しそうな顔してるし!
「えーと……楽しそうですねー?」
ほら、ポムポムも困惑してる。
今はふざけてる場合じゃないと思うよ!
「はい。どんなピンチもシリアスも、前向きに諦めず頑張る方が格好良いと思います。だから私も、少しは変わる努力をしようと思います」
ピンチもシリアスも前向きに諦めず頑張る……
なんだろう、あの人みたいな言葉だ。ありきたりで誰でも思いつくような、それでも誰かが望んでるような、いい言葉だ。
それをリリアンが言うとまた違った印象を受けるな、きっと本心からでやっぱりいい言葉だ。
「……そういえばー、そうでしたねー。セツナはそんな人……なんですよね?」
あたし?リリアンの言葉はあたしを見ての言葉なのかな?だとしたら過大評価だ。でも……
「そういえばそうだった。そうだよ、セツナはそんな人なんだ」
たまにはこんセリフも悪くない。……おっと、悪くないは控えるように言われていたんだった。
しかし二つほど問題がある。
「どうやって届かすか……」
ラルム君は浮かびながら何かを呟いている。きっとドラゴンを呼ぶために必要なんだろう。
「ポムポムがぶっ飛ばしますよー」
……よし、高さは確保。
素振りを始めるポムポム、もうツッコまない。
「そろそろ時間ですね、ドラゴンです」
もう少しでここで初めてみた魔法陣が完成する。
でもまだ問題が残っている。
「実は一番重い武器がこわれちゃってるんだよね……」
大剣はドラゴンの腕を防ぐ際に砕けた、他の武器じゃ重さが足りない。
そもそも斬れないあたしの武器じゃ撃ち落とす為には重さが必要だ。
「斬れない武器ではドラゴンを撃ち落とすのは無理ですよ、最初から」
「はぇ!?」
変な声が出た、なに言ってるんですか!?
「え、じゃ「だから斬れる剣を使って下さい」
斬れる……剣?そんなのどこにも……
はい、といつもどおりの、静かでいつもなら無感情に感じるけど、今はなんだか楽しそうに。
「少しだけ貸します。大切に使ってください」
殺されたり、守られたり、一緒に戦ったり。
この異世界にきてからいっぱい思い出を作った少女、そして同じくらい思い出深い。
あの黒い大剣と今日、あたしは共に飛ぶ。
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