第98話 前略、ただいまとおかえりと第2ラウンドと
「ただいま、リリアン」
「…………」
……マズイ、間違えたか。
そりゃそうか、勝手に死にかけて「ただいま」なんてどの口が言うんだ。という感じだろうか。
一応、心配をかけてしまっただろうから明るめに再登場したんだけど……
待ってほしいそんな顔で見ないでほしい、そんなあり得ないものを見るような表情で。
「えと……出来るだけ急いで帰って来たんですけど……」
まさかとは思うけど、本当に死んだと思われてた……?
「本当に……本当に死んでしまったのかと……」
あ、どうやらそうらしい。申し訳無い事をしちゃったな、相変わらず心配をかけてばかりだ。
そしてこんな時になんだが、初めて見るまるで今から泣き出しそうな顔がなんだか……
「まさか、死ぬわけないよ。約束したでしょ?」
なんだか少しだけ魅力的に見えてしまったけど、やっぱりあたしは笑っていてほしい。
やはり一般的には泣いているよりも、笑っている方が幸せの比率は多いと思う、多分。
しかしあたしは、いつから女の子の泣き出しそうな顔に魅力を感じるようになったんだ。
ちょっとヤバいぞ一般的ではないぞ、いや泣き出しそうかは分かんないけど。
「なるほど……これがギャップ萌え……?」
「はい?」
そういえばもとの世界の友達がそんな事を言っていたような?あの時は無視してしまったが悪くない、いい言葉だ。
いろいろと記憶が薄れていく中、下らない事ばかり覚えている自分がマヌケに感じで仕方がない。
「ギャップ萌え……意外性を利用した異性などへのアピール方法……でしたか」
……だからなんでこのメイドはそんな事を知っているんだ、知識に偏りがありすぎる。
いや違うな、あたしより前にネオスティアに来た人が余計な言葉を残したに違いない。なんとも余計な事をしてくれたものだ。
「私のどこにそれを感じたのかは置いておきますが」
おぉ!よかった許された、やっぱり神様というやつは見ていてくれてるものだね。
……ネオスティアの女神とやらは信用ならないけど。あと天使も。
いや今はそんな胡散臭さ2トップのことなんかどうでもいい、なんの気まぐれかは知らないが許された、自白の強要もない素敵な日だ。
ただあれだ、言わないでいいのであれば心の中で供養しようか。もちろんこれは自分と向き合う為に必要なものであり他意はない。
議題はなぜ泣き出しそうな(推定)のリリアンが魅力的にみえてしまったのか。
リリアンも言っていたが意外性だ、あまり詳しくはないのだが特にマイナス気味にだったものがプラスに傾くというときに強く作用するんだったかな。
そこそこの付き合いで思うに、リリアンは決して無感情ではない。ただ一般的な人と比べると無表情に映ると思う。
笑ったり呆れたりするのを見る頻度は上がっているのだが、元の性格が静か……うん……静か……なんだよね?
そんなリリアンが泣く、というなんともエモーショナルな行動をしようとしている。
それはかなりポイントが高……いや、心が成長して表現の幅が広がったというべきではないのか?
きっとこれはその成長に対する賛辞のようなもの、つまるところ我が子に対する親心のように汚れのない感情であり、他意ない。証明終了である。
……だが待ってほしい、本当に他意はないのか?
もしもそれが本当にキレイな感情であるのなら、笑顔を見た時にも同じような気持ちにならなくてはならないのでは?
マズイな……と言うこ「どうして生きているんですか?」
「………………」
……口にでてましたか?
いや、そんなはずはない。あたしの口はあたしを裏切らない。
まさかこやつ、本当は心が読めたりしないだろうな。
「あの……すみません……」
どちらにせよピンチだ、すぐに謝ろう。
「あぁ、なにかやましい事を考えてたんですね、後で刻みます。そうじゃなくてどうやって帰ってきたのかが知りたいんです」
どうやらあたしは後で刻まれるらしい。できれば利き手は残してほしいんけど、それは後でお願いしようか。
「うーん、別に奇跡が起きたわけでも、覚醒イベントがあったわけでもないんだけどさ」
本当に、なかなかに格好悪い生還だった。
「全力で足掻いたら手が引っかかったから後は登ってきただけだよ」
ね、必要なスキルだったでしょ?
とぼけ気味に真実を伝える、さて反応は?
「…………」
だよね、そんな反応だと思った。
奇跡なんて頻繁に起きるわけがない、そしてあたしは別に優れた人間じゃない。
だから足掻いてもがいて、使えるものは全部使って掴み取るのだ。例えば命とか。
「……本当に……本当に……心配ばかり……」
やっぱりふざけた脳内会議をしている場合じゃなかった、これは怒られる……
「本当に……おかえりなさい」
「あ、ただいま……?」
なんだろう、言葉だけなら普通の挨拶なのに、いい言葉だ。
「ぐっ……っ……」
「おはよう、気分はどう?」
必殺の『セツナドライブ』によるあたしの渾身の右ストレートがラルム君の顔を撃ち抜いたのだがすっかりと忘れていた。
まいったね、さっさとふん縛っておくべきだった。
「流石ですね。セツナドライブ……相変わらず意味の分からない加速だ……」
うん、あたしもよく分からない。
でもブーツが壊れてなかなか発動しなくて困った、そこそこの距離を普通に走ってしまった。
あと、今日はもう品切れだ。
「まさか普通に帰ってくるとは……セツナさんもやはり魔術の才能が……」
あ、なんか勘違いしてる。
「ですがこの程度、諦めるには早すぎる」
「引く気はないみたいだね」
仕方ない、第2ラウンドといこうか。
さて、あたしの剣は……
「んん?」
どうしたんだろう、後ろにいたリリアンがあたしの前まででてくる、はて?
「私も戦います。借りがあるので」
そしてそのまま自分の手枷をつなぐ鎖をもって
「外します」
決意した顔で、己の力の大半を縛るという枷を鎖を外すと言う。
守れなかった、けどなんだろう思っていたよりいい表情だ。
「りょーかい、あたしは時間稼ぎだね」
その強大な力を塞ぐ枷。お約束だ、その封印を得には長い時間がバキッ!…………バキッ?
「意外と、脆いんですね」
なんてことない顔に戻って、つまらなそうに言う。
瞬間、空気が貼り詰める。
次の瞬間には世界が揺れた、とでも言えばいいのか、もしくは震えた。
「な、な、な、なんですかぁー!ヤバイですよぉー!嫌な予感どころじゃないですぅー!!!」
少し離れた所から、ついさっき登ってきたのかポムポムの慌てた声が聞こえる。あ、そのモードに入るくらいヤバいんだね。
嫌な予感どころじゃない。同感だ、これは…………死ぬでしょ。
「さて、第2ラウンドといきましょう」
心から、本当に心から……敵じゃなくてよかった。
多少の印象の変化はあれど。
「相変わらず、このメイドは頼もしすぎる」
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