第94話 前略、着地と衝突と

「あー、着地どうしよう。じゃないよ!!!」


 ヤバイ!マズイ!飛ばし過ぎだよ!ポムポム!!!

 飛び始めた頃の呑気な考えは、命の危機に直面してどこかに行ってしまった。


「仲間にかっ飛ばされて死にました、はダサすぎる!」


 山頂を超えてもなお飛ぶあたしの身体。

 いや待って!洒落にならない!普通に今まででもトップクラスのピンチだよ!?


「やるしかない、やってやるしかない!」


 本音を言えば、ポムポムはいい感じで飛ばしてくれると思ってた。それでうまく降りられると。

 昨日、保険として着地方法なんて言われた時に気づくべきだった。


「大丈夫、大丈夫……大丈夫かなぁ……」


 ようやく、上空への加速を終えて。今度は加速度的に落ちていくあたし。

 着地方法、地面にぶつかる前に風を起こして、それにより衝撃を和らげる。

 つまりあたしは、この土壇場で初魔術に挑戦するのだ。

 いや、少しは昨日練習したんだけどさぁ!


「やるしかない……やるしかない……」


 まだ地面までは時間がある。

 目を閉じて。大気中の風、風の魔力を感じとる。


「分かる……分かるよ、これが……風!」


 あたしは今、風と一つになってる。

 そしてそれを自分の中の魔力と同調させて……


「いや!落下中なんだから風を感じるのは当たり前じゃん!!!」


 勘違いでした。

 現実は甘くない、甘くないけど!


「あたしも死ぬわけにはいかないんだよ!」


 この状況で、こんな状況だからか、練習よりも強く魔力を感じ取れる気がする。

 落下中の勘違いとかじゃなくて、感覚で。


「おや、あれは」


 覚悟は決まった。後は落ちるのみ、そんな時に山頂が目視できるところまで落ちてきた。


「保険はかけておこうかな、一応ね」


 リリアンだ、やっぱり山頂まで先に来ていたみたい。

 相変わらず、頼もしい。


「リリアンー!今から落ちてくるから気をつけてねー!あと!余裕があったら受け止めて!」


 リリアンはあたしを見上げた。顔までは見えないけど、どんな表情をしているのか。

 呆れているのか、驚いているのか、もしかしたら心配してくれてるのか。

 さてと、そろそろ頑張りどころだ。

 そんじゃあいっちょいきますかー!


「あ、そういえば……」


 まだ格好いい名前を考えてない。

 一応は初魔術だ。せっかくなら派手にいきたいけど、そんな時間もなさそうだ。


「か、かぜぇぇぇえええ!!!」


 とりあえず叫んだ、そのまま。

 にしても酷いな。もしかしたらあたしにはネーミングセンスがないのかもしれない。


「ぐへぇ!」


 ちょっと……早かった……ビビって早めに使ってしまった……


「相変わらず、もう少し普通に登場できないんですか?」


 はぁ……ため息と共に近くにリリアンの声。そう言われるほど変な登場はしてきてないと思うんだけどな。


「ごめんごめん、でも初魔術にしてはなかなかじゃなかった?」


「及第点です」


 残念。ちょっとは褒めてもらえると思ったんだけどな。

 あたしが頑丈でよかった、丈夫に産んでくれた両親に感謝を。汚れを払って立ち上がる。


「ですが、一人で着地した事と、すぐに登って来たのは良いことです」


 おや、褒めてくれた。

 最近のリリアンは随分と丸くなった。出会った時の切れたナイフのようなリリアンが懐かし……いや、あたしは今のリリアンの方が好きだな。

 意外に表情が豊かで、今だって呆れながらも心配してくれてたんだろう。

 だってそうじゃなきゃこんなに近くにいない。きっと受け止めようとしてくれた。


 ……にしても暑いな、ヒリヒリする、火山だからだろうか。少し離れたところに火口も見える。


「セツナさん……」


 別に無視をしていたわけじゃない。

 ただ少しだけ心を落ち着けてから話したかっただけ。


「久しぶりだね、ラルム君。元気だった?」


「……えぇ、元気でしたよ」


 昨日とは真逆だ。

 もう言える、だってポムポムが教えてくれた。やっぱり彼はあたしの友達だから。

 

「いろいろとさ、話したい事があるんだよ」


 静かに、ゆっくりと語る。

 やはり心がブレている。昨日はあんなに苛立ったのに、今はなんとかしたい、そんな気持ちで一杯だ。

 もしかしたらラルム君以外の人にも責任はあるかもしれない、まだやり直せるかもしれない、そんな考えがあたしの頭を巡ってばかりで。


 だからこれ以上何かをしでかす前に。ぶん殴って、ふん縛って。そこから話し合おう。


「僕には話すことなんてありませんよ」


「あたしはあるんだよ」

 

 杖を構えるラルム君に向かって、あたしはゆっくりと剣を抜き、駆け出す。 

 どうしたって、この衝突は避けられないものだった。

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