第93話 前略、慣れと雑談と
「自分で言って思ったんですけどー。ダサいですねー、『セツナドライブ』」
唐突にバカにされたあたしの必殺技。
正直な話。『ポムストライク』に言われたくはない。
いや、ラルム君のセンスだとしてもそれと比べるならあたしの方がマシだろう。
「そうかな?個人的には、この名前がしっかりと入ってるところが気に入ってるんだけど。こう、省略せずにしっかりと入ってるところが潔い」
「ポムポムのもはいってますよー」
んん?だとしたらポムが一つ足りないのでは?
「ポム・パルポムテ・ポムニットっていうんですよー、フルネーム」
「…………へぇ」
別に怒ってるわけではないが、あたしは思うのだ。
これ以上特徴を増やすな、と。
「今更ですがー、ポムちゃん。って呼んでもいいですよー」
「うん、気が向いたらね」
多分、呼ばない。
でも本当に本名だろうか?その場のノリで言ってる可能性もあるし今度呼んでみようか、あたしが憶えてられたら。
「はて?なんの音だろう」
ポムポムがシトリーを縛り上げ、それを見ていると音が聞こえてきた。
空気の抜けるような、シュー、って感じの。
「なんでしょー」
耳をすませば、音はシトリーから出ている。んん?近くにいるとマズイのでは?
「いや、ポムポム。離れた方が……」
いいんじゃない?そう言いきる前にシトリーの身体から音と煙が飛び出してきて……
「縮んだね」
「縮みましたねー」
縮んだ。そうとしか表現できない。
ちょっと理解が追いつかないが、結果としてシトリーは縮んだ。
なんという事でしょう。あのワガママな肉体に対してアンバランスな服装は、最初からこれを想定していたかのようにピッタリとしたサイズに。
…………へぇ、縮んでも将来有望ですね。なにとは言いませんが。
「さて、どうしようか」
「どうしましょうかー」
只今、絶賛暇を持て余し中である。
リリアンは、目的の山を見つけたらなにかしらの合図をすると言っていた。
本来であればあたしたちも手伝うべきなのだが、残念な事にそれを見つける為の技量もスキルも持ってないのだ。
「あの爆発って魔術なのかな?」
仕方ないので雑談を再開する事にした、なんだかこの戦いで聞きたいことができてしまった。
「魔術ですよー、ベースの土に自分なりのものを組み込んでー」
ポムポムが改めてシトリーを縛りながら解説をしてくれた、今は使えなくても興味は尽きないものだ。
それにしても土属性とはそう使うのか。あたし的には風と並ぶ微妙さを感じるのだが、なかなか格好いいじゃないか。
ちなみに希望が通るならあたしは光がよかった。光属性、格好いい。
「夢が広がる道具だよね。あれならあたしたちもマトモに魔術が使えるのかな?」
戦闘中はゆっくりと聞けなかったけど、もし誰でも使えるのならあたしも使ってみたい。
「誰でも使えますよー。ポムポムは初魔術は自分の力で。と決めてるので使えませんがー」
自分の力で。いい言葉だ。
ポムポムのその言葉からは、他の人への妬みなどではなく。
負けない、という強い意思を感じる。
そういえば『青の領地』
あたしの旅の目的地……なのだがここまで他の人の口からは、あまり聞くことのなかった名前。
そんな画期的なものを作り出せる領主のルキナさん。
その名前と目的地、それらは有名なものなのだろうか?
今思い返せば、リッカもリリアンの事を知っていたようだった。
ありきたりな表現だけど、二人とも黒い悪魔と言っていた。
リッカの勘違いの可能性もあるけど、リリアンもそれを否定しなかった。
「うわっと!なに!?」
なんだか少しだけ気になって、ポムポムに問いかけようとした時に。響く、ガラスが割れるような音と衝撃。
「なるほどー、火山でしたかー」
山。うん、文字通り山があった。
ポムポム曰く、消えていた山はたくさんあったらしい。
リリアンはその中から正解である火山を見つけて、結界を破ってくれたらしい。……おそらく物理で。
「じゃあポムポム、お願いするよ」
おそらく、リリアンはもう登り初めているだろう。
もしかしたらもう山頂かもしれない、あたしも急がねば。
「そうですねー、二回目なので耐性もあるでしょうしー」
昨日話し合い、ポムポムはこの山を一気に登る方法があると言った。それは自分には使えないとも。
ならば、シトリーをポムポムに任せてあたしが先に登ろうというわけだ。
…………んん?二回目?
振り返ると、ポムポムは無表情なままに素振りを始めた。あ、これ……
「ねぇ、ポムポム」
「はい、ポムポム」
「なんだか嫌な予感がするんだ、例えば空でも飛びそうな」
「ポムポムはしませんよー、それに素敵な体験ですよー」
ぶっ叩かれて吹っ飛ぶやつですね。あぁ、なんだか飛んでばかりの人生だ……
「いきますよー」
お手柔らかに。言い切る前にあたしは飛んだ。
もう、慣れた。諦めてリリアンのもとに急ぐとしよう。
「あー、着地どうしよう」
慣れとは偉大なもので、あたしの頭にはそんな事を呑気に考える余裕があった。
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