第91話 前略、質問と優しさと
「シトリーはさ!何歳なのかなー!」
「…………」
できる事をしよう。
そう考えを固めてからあたしは頑張っていた……逃走を。
「趣味とか特技でもいいよ!」
「…………」
あたしの質問は今日も空振る。
逃げながら、答えが欲しくて、何度も何度も。
「好きな食べ物とかさ!」
「…………」
なぜ逃げているか。
簡単な話だ、シトリーが強いのだ。
それでも質問はやめない。前は少しだけど答えてくれた、なら可能性はある。
それに、実は逃げているだけじゃない。
探っているのだ、本当だよ?
「うん、なんとなく分かってきたかも」
あの後、もう一度爆発が起きた。
刃の形状のみに目が言ってしまっていたが、シトリーが握っている斧には確かにトリガーのようなものがある。
それを引けば薬莢のようなものが落ち、爆発が起きる。
「格好いいな!もう!」
羨ましい、リリアンに頼んだらあたしにもくれないだろうか。
いや、いくらないものねだりしても仕方ない。あたしはあたしの武器で戦おう。
前にでて、剣で払う。怖いけど、逃げるのはやめた。
「シトリーは何でラルム君に協力してるの!間違ってるのは分かってるよね!」
そして聞く。もしかしたらラルム君のことなら答えてくれるかも。
リリアンはシトリーを幼い、と言った。
でもあたしにはそうは見えない。
少なくとも、そんな事も分からない程には見えない。
「助けてもらったから」
「助けてもらったから、か……」
久しぶりに聞いた声は、なんだか寂しそうで悲しそうで。
それでも強い意思を感じた。
「もう一度聞くけど、間違ってるのは分かってるよね」
「…………」
あたしは別に正義じゃない。なんならよく迷うし、迷ったのに間違える。
だけど、今だけはあたしが正しくありたい。
少なくとも、学園全てを焼き払ってまで叶えたい夢なんていらない。
そしてそんな事に誰かを巻き込みたくない。
「……もう悲しまないように、もう苦しまないように」
ゆっくりとシトリーは口をひらく、まるで自分に言い聞かすように。
「邪魔する人は殺す」
「そっか」
なんだか呑気な答えがあたしの口からでた。
バカにしているわけじゃない、分かったんだ。
おそらく、あたしたちと別れてからラルム君は『アロロア』に戻る中で、シトリーを助けた。
そして学園に帰ってきて、ポムポムと仲良くなり『召喚術』の研究を再開した。
「だがそれは、変化を望まない人たちによって壊された」
それが今までの不満をも爆発させ、ラルム君を復讐へと走らせた。
今回の事件の真相はそんなところだろう。
「くだらない……とは言えないかな」
実際にあたしがその立場ならどうだろうか。
分からない、分からない。相変わらず分からないことだらけだ。だから。
「ふん縛って、話し合いといこう」
もしかしたらまだ間に合うかもしれない、やったことは許されないけど他の人にも責任はあるかもしれない。
そんな希望を持って、もう一度シトリーを見る。
邪魔する人は殺す、もちろん間違っている。
でも、その根底にあるのは優しさだと思う。
「確かに似てるかもね、少しだけど」
なんとなく、リリアンの顔が浮かんだ。
リリアンはそんな事しないけど、二人とも少しだけ口下手で、不器用だけど優しくて。
「なら、そろそろしっかりと覚悟を決めよう」
別に真面目じゃなかったわけじゃないけど、ある程度聞きたいことは聞けた。
そしてなんとかする、改めて思えた。
「そんじゃあいっちょ、いきますか」
呟くように言っても背中を押してくれる掛け声。
いや、やっぱりダメだ。もっと元気よく。
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
覚悟を決めたあたしは、一味違う。……きっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます