第90話 前略、疑問とできる事と

「ぐへぇ!」


 自信満々に防いだはずの斧に吹き飛ばされて、大きく地面を転がる。


「何だっていうのさ……」


 この短い間に二つも疑問が生まれてしまった。

 一つはシトリーの斧から発せられた音と光、そしてこの衝撃。


「セツナー!」


 もう一つはこの声だ。

 声の主は凄い速さでこちらに向かってきている。

 あまり想像できないんだけどさ、ここにはあたしとシトリーの他にはあと一人しかいないわけでして。


「ポムポム?」


 ポムポム……だよね?いつもの間延びした喋り方でも、感情を感じさせない声色でもないけど、確かにポムポムだ。


「ポムポムですよぉー!ヤバイですー、って言ったじゃないですかぁー!」


 グワングワン、激しく動揺しながらポムポムはあたしの肩を掴んで揺する。

 と、取れる……!


「ポムポム!待って!取れちゃう!首、取れちゃう!」


 実際には大剣が犠牲になってくれたのと、若干後ろに飛んだおかげで見た目ほどのダメージはない。

 どちらかといえばポムポムによって、肩とか首とかが外れてしまわないかの方が心配だ。


「セツナがアホだからぁー!忠告を聞かないのがわるいんですぅー!」


「いやぁ、刃がヤバイのかと思いまして……」


「ポムポムもぉー!何がヤバイのか分からなかったけどぉー!それでもぉー!」


 涙目になりながら揺すり続けるポムポム。また誰かに心配をかけてしまった。

 

「ごめんね、ポムポム。ちょっとアホでした、警戒が足りませんでした」


 心配をかけないように強く、なんて思っても理想は遠い。

 もっと頑張ろう。こんな大事な場面で逃げてと言われないように、友達を泣かさないように。


「って、ポムポム!後ろ!後ろ!」


 残念ながら、あたしとシトリーの戦いは中断されてない。

 ポムポムが間に入ろうがお構いなしだ、シトリーは二人とも切り伏せる勢いでこちらに飛びかかっている。


「今はお説教中です!」


 振り返るポムポム、素早い動きで杖を振りかぶって。


「『ポムストライク』!」


 全力で放たれた必殺技は、シトリーをギャグ漫画のように吹き飛ばす。

 ……凄いなぁ、『ポムストライク』。


「やっぱりセツナじゃ不安ですー、ポムポムが変わりますよー」


 元の喋り方に戻っても、若干だが感情が隠せてない。不満げだ。

 なんともありがたい提案だ、ぜひともお願いしたい。


「ありがとう。でもさ、もう少しだけ頑張ってみるよ。リリアンからも頼まれてるしね」


 頑張って、もう少しだけシトリーと向き合ってみよう、話し合ってみよう。

 リリアンはポムポムではなくあたしに頼んだのだ、ならばできることはしてみよう。


「それにさ、毎回あの威力がでると困るよ。シトリーがバラバラになりかねない」


 その点、あたしならちょうど良い弱さだ。

 これでポムポムが納得してくれるといいんだけど。


「……分かりましたー、ならもう少しだけ任せますー」


「うん、頑張ってくる」


 ポムポム曰く、あの爆発は最近『青の領地』の領主が作り出したものらしい。

 形状は様々だが、小さな筒状のものに魔術を詰めて、適正のない人でも魔術が使える夢のような道具。

 それを武器に組み込んでいるだろうと、確かに爆発の際に薬莢のようなものが落ちたような気がする。


「『青の領地』ね」


 なんだか久しぶりに聞いたなぁ。一応、目的地のはずなんだけど。

 確かルキナさんだったか、発明家なのか凄いものを作ったものだ。


「薬莢型なのは初めて見ましたけどー。どちらにせよ受け止めちゃダメですー、弾くか躱してくださいー」


 なるほど、さっきのポムポムはシトリーがそれを発動させる前に弾き飛ばしたのか。

 ……ポムポムって凄く戦闘慣れしてない?


「りょーかい、いってきます」


 ポムポムにトカゲを頼み、あたしは砂煙の方へ歩く。

 聞きたいこともできた、いろいろと。

 今度はポムポムが泣かないといいな。いや、泣かせないために。


「できる事をやりにいこう」

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