第89話 前略、会いたいと轟音と
「よし!なんとかなる!」
シトリーとの戦いが始まってしばらく、あたしはなんとか無傷で打ち合えてる。
「いや、打ち合ってはいないか」
実際には速さをいかしたヒット&アウェイだ。
シトリーの斧と同じと考えるのはアレだが、リリアンの大剣も長く、射程があるのでこのくらいの長さの武器への対応力はある……いや、学ばされた。
「本当に、いつも鍛えてもらって、ありがとうだよ!」
今はいないリリアンにお礼を。
いつもそうだった。あたしはいつも、こうしたい、ああなりたい、そうだったらいいな。
そんな理想だけが先行してしまう。でも今は違う、理想に手を伸ばせる。
「強くなったから、まだ目指せる!」
力強く振り払う、シトリーは……
「だから、そろそろこっちを見てほしいな」
あたしが戦えてるのは強くなったのもある、特訓の成果が出てるのもある、だけどそれ以上に。
「誰かを探してるの?」
「…………」
シトリーはあたしを見ていない。適当に斧を振りながら、周りをキョロキョロ。
おかげでなんとかなってるわけなんだけど。
なんとなく予想はつく、多分……
「リリアン……昨日の黒い女の子を探してるの?」
実際には白と黒だけど、その方が伝わりやすい気がして。
シトリーはピタリと動きを止めてあたしを見た、おそらく再会してから初めて。
「……知ってるの?」
「まぁね、なんといってもあたしとリリアンは……」
あたしとリリアンは……なんだろう?
友達?いや、なんとなくそれは違う気がする。
戦友?うーん……なんかしっくりこないなぁ。
相方?前に心の中でそう言った気がするけど、冷静に考えて、まだ早い気がする。
相棒と呼ぶにはまだ壁があるように感じる、たとえ出会ったときより近づいても。
「それなりに長くいるんだよ、同じ目的地を目指す仲間だから」
うん、仲間。
それくらいならリリアンも悪く思わないんじゃないかな、まだ分からない事も多いけど。
「何か用があるなら伝えるよ」
これで意外とリリアンとシトリーが仲良くなって、この戦いが終わったりしないだろうか。
それはいい、誰も傷つかずに終わる。
シトリーもそんな気持ちであってはくれないだろうか、返事を待とう。
「会いたい」
短く答える、会いたい、いい言葉だ。
誰かに会いたいというのは優しい感情だと思う。
「会って、今度は勝つ」
おっと、今回は違うみたいだ。
仕方ない、言葉っていうのはそうゆうものだ。
多分リリアンの方が強い。でも言われたのだ、お願いします。
おそらく、リリアンはシトリーと戦いたくない。
シトリーに幼い何かを見出したのだ、そしてそれをあたしに託した。ならばあたしのやることは一つだ。
「いいよ、会わせてあげる。あたしに勝てたらね!」
「分かった」
これまた簡潔に答えて、シトリーは斧を振りかぶる、今度はしっかりとあたしを見て。
「……っ!」
速い!でも、言った手前逃げ出すのはなしだ!
距離をとる、防いでもそのままあたしを吹き飛ばす威力がある。
懐まで行くには、あの速さをかいくぐる必要がある。
「いつもなら必殺技の出番なんだけどね……」
『セツナドライブ』は1日2回、こればっかりはあたしの努力じゃどうにもならない。
この後はドラゴン退治もあるのだ、ここで無駄撃ちはできない。
ならどうするか、簡単だ、受け止める。
あの斧を受け止めて、装備変更。そのまま繋げるもう一つの必殺技『セツナストーム』に。
手加減はする、後は吹き飛ばされない程度の攻撃を見切り受け止めるだけだ。
「こっちだよ!」
できるだけ速く動いて斧を振らせる、攻撃のパターンを学べ、学べ、学べ。
見えてくる。やはりシトリーも人間だ、大振りの後の体勢不十分の攻撃なら受け止めきれる……はず。
「いこう!」
考えていても始まらない。ポムポムの方も手伝わなきゃいけないからね。
スキを見せて、大振りを誘う。小さな動きで下がりながら躱す。
足回りには自信がある、そのまま攻撃。
「きたね、予想通りに!」
シトリーは知らない。あたしが装備変更の際に硬直を消した動きができること。
シトリーは知らない。あたしよりも速いと思っているその攻撃が防がれること。
装備変更、大剣へ。あまり褒められた使い方ではないが、大きくて盾より使いやすい防ぎ方だ。
「っ!セツナ!防いじゃだめ!」
誰の声だ?聞いたことのない……いや、聞いたことはあるんだけど……
あたしの思い浮かべる人物は、もっと間延びしていて感情を感じさせない喋り方だ。
その疑問を解消する前に、防いだはずの禍々しい斧から光が発せられる。轟音と共に。
大剣は砕けて、あたしは大きく吹き飛ばされる。
相変わらずあたしの戦いは楽ができないようだ。
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