第84話 前略、杖と友達と
『アロロア』を覆う森を歩く。道中にポムポムといろいろな話をしながら。
これから始まる戦いは、例えば自称正義の賞金稼ぎに襲われたり、山賊に襲われたりのような小さな戦いじゃない。
命をかけることになる。だからその緊張をほぐしたくて、雑談を続ける。
「杖にもランクとかあるの?」
前から気になっていたことを聞いてみる。もしあるのなら魔術師はポイントの燃費が悪い。
普通に武器で戦うあたしも、まともに上のランクの装備スキルを習得できてない。
それに加えて魔術自体にもポイントがかかる、ちょっと追いつかない。
「ランクですかー?うーん、セツナはまだそこなんですねー」
んん?まだそこ?よくわからないな。
装備のランクは当たり前のことだと思ってたんだけど、相変わらずネオスティアは謎が多い。
「ありますよー、魔術師は燃費が悪いんですー」
新しい疑問をぶつける前に先程の答えが返ってきた。
やっぱりか魔術師じゃなくてよかった。
…………いや、魔術師だったら9999ポイントでいろいろできたのでは?
「エセ天使、許すまじ……!」
「???」
ポムポムは不思議そうな顔をしている。それもそうだ、ポムポムはあのエセ天使に会っていない。
エセ天使は上がった評価をすぐに落としてくるのだ。あたしも次こそは容赦しない。
「魔術……魔術……どうしようかなぁ」
「砂煙でも巻き上げてー、目くらましとかどうですかー?」
「ショボすぎる、却下だよ」
杖の話から魔術の話へ。初魔術が目くらましとか嫌すぎる。
いや、いざとなれば使うけど。どうせなら、もうちょっと格好いいのが使いたい。
「セツナは魔力総量が少ないから難しいんですよー、うーん、どうしましょー?」
「そこをなんとか、お願いしますよ先生」
しばらく話しているとポムポムからいいアイデアがでた。
それは……格好いい!
「それいいね!なんというか、ちょっとすぐにはできないけど」
「ドラゴン退治が終わったらー、ポムポムもお手伝いしますよー」
「ありがとう、楽しみにしてるよ!」
もしそれがうまくいくなら、いろんな事ができそうだ。
きっとあたしの必殺技も喜ぶ。
「……ポムポムはさ、ラルム君と知り合いなの?」
もう少しで森をぬける。すぐに戦いが始まるかもしれない。
その前にどうしても聞いておきたかった。魔術師たちに対する感じでは、ポムポムはラルム君を知っている。
「知ってますよー、ラルムはポムポムの友達ですー」
友達……あたしも友達だと思っていた。
でも、今のあたしは彼を友達とは呼べない。胸の引っかかりがそれを口に出させない。
「……あたしもさ、ラルム君とは友達だったんだ」
話す。『ラックベル』での事、再会と分かりあえなかったこと。
なんと呼べばいいのか分からないこと。
「セツナは優しいですねー。普通、あんなことしでかしたら問答無用で敵だと思いますよー」
「優しくなんかないよ、中途半端なだけ」
そうだ、中途半端だ、どうしようもなく。
昨日はあんなにも怒りを感じたのに、今はなんとかしたいと思っている。
リリアンにも言われたが、やはり心がブレている。
「ラルム君からは学園の話を聞かなかったから、ポムポムと友達だっていうのは意外だったよ」
「知り合ったのは最近ですからねー、ポムポムはセツナのこと知ってましたよー」
「どう?実際に会ってみて」
「聞いていたとおりの人でしたー」
ラルム君からどんな事をとか聞きたかったけど、森を抜けてしまった。
無数のトカゲがあたしたちを出迎え、雑談の時間は終わった。
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