第83話 前略、魔術師と腰抜けと
「じゃあポムポムは必殺技とかないの?叫ばないの?」
あたしもこんな大人の対応ができるようになったんだなぁ。
認めよう。『セツナドライブ』は好みが分かれる技名だと。
必殺技は叫ぶものという前提条件のもとまずは優しく、和解から入ろう。
「まず叫ばないですー」
ダメだ、ポムポムとは相容れない。
見たことも聞いたこともないがリリアンも叫ぶ派のはず。つまり2対1だ残念だったね、ポムポム。
「必殺技はありますよー」
ほう、なら聞かせてもらおうか、どうせ『ポムストライク』とかそのへんの……
「『ラグナロク』ですー」
「めっちゃかっけぇ!」
ら、ラグナロク……?格好良すぎる!
「他にもあれですー『アポカリプス』とかー」
「凄い!ポムポム凄いよ!見てみたい!『アポカリプス』見てみたい!」
次々と繰り出される技名、『ハルマゲドン』だと……!
そんなのだされたらあたしの必殺技なんてダサすぎるじゃないか!
「今度見せてあげますよー」
「先生!先生と呼ばせて!いや、呼ばせて下さい!」
「許可しますー」
わいわいと騒ぎならがら歩く。
それにしてもおかしいな、魔術師の集団はこんなに遠かっただろうか?
「ちょっと待ってくださいねー」
そう言って先生……ポムポムは何もない場所に、その身長よりも大きな杖を振り上げて。
「……ポムストライク」
今なんて?小さくて聞き取れなかったけど、さっき考えたダサすぎる技名が聞こえた気が……
そんなあたしの思考は、ガラスが割れるような音で遮られる。
「おはようございますー」
次に飛び込んできたのは、間延びしたポムポムの挨拶と、何もなかった空間に突如としてあらわれた魔術師の集団だった。
なんで隠れてたのかは分からないけど、ちょうどいいしここでお願いしてみよう。
「あのドラゴンを倒したいんです、協力してくれませんか?」
前回は無視されてしまったけど、今回はポムポムのおかげで話をきいてくれそうだ。
「知ったことか!余所者が口をだすな!」
おぉっと、予想外の反応だ。まさかこんなにも拒絶されるなんて。
余所者……余所者ねぇ……なんか引っかかるな。
いつも嫌なところで勘のいいあたしは、なんだか違和感を感じずにはいられない。
「ポムポム!お前はなぜそんな奴といるんだ!それにローブはどうした!お前もこの学園の生徒ならルールに従え!」
「あんなダサいの着るわけないですー」
魔術師の怒号はやまない。
あたしのお願いは余所者の一言で済ませて、次は仲間であるポムポムに文句を言い出した。
いやまぁ、制服みたいなものだろうから着るべきだと思うんだけどさ。
ダサい、それだけでバッサリと断るポムポムもなかなかのものだった。
「お前は外からきたくせに!なぜ従わない!?ラルム、あいつもそうだ!ここに捨てられていたのを育ててやったのに!外をみたいだのなんだの!」
ラルム君はここで育ったのか……
このままだとまた悪く言われてしまう、彼はまだやり直せるかもしれない。
「あたしはラルム君と……知り合いです。もしかしたら『召喚術』はまだ完全じゃないかもしれない、まだ取り返しがつくかもしれないんです!」
友達とは……言えなかった。
喉に何かが引っかかって口にだせなかった。
それでも、まだ彼が完全に悪者になってしまったと思いたくなくて、そんな中途半端な気持ちで言葉は出た。
「当たり前だ!最初の魔法陣は完全に壊してやったんだからな!」
……今なんて言った?完全に壊した?
落ち着け、落ち着け、怒るなあたし。気にはなるが、ここがあまり良い環境じゃないのは分かっていた。
「ラルムを擁護する気はないですけど、お前らにラルムを悪く言う権利はないとおもいますよ」
ポムポムの声が聞こえた。いつものあまり感情を感じさない声だったけど、間延びしない真剣な言葉で。
「行きましょう、セツナ。ここには腰抜けの卑怯者しかいませんのでー」
返す間もなくポムポムは歩いていく。そうだね、ここで何もしない人間にはなりたくない。
頼もしく、格好よく感じたその背中を追うことにした。
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