第82話 前略、独楽と器と
「そういえばー、セツナ。魔術の使い方は考えてきましたかー?」
ドラゴンを倒す。その為にあたしたちは、魔術師たちのもとに向かっている。
望みは薄いと思うけど、協力してもらえないか聞くために。
昨日は魔術へのワクワクで気にならなかったけど、意外と遠いなぁ……
「まぁね、なかなか格好いいやつを考えたよ」
ポムポムの質問にちょっと含みがあるように答える、自信があるのは確かだ。
なぜだか分からないが、あたしは別の世界から来たのに魔術への適正が低い。
そしてこれまたなぜだか分からないが、魔力の総量も少ないらしい。
適正が低ければ難しいことができず、総量が少なければ大規模なことはできない。
つまり、残念ながらあたしは魔術には向かないのだ。こればっかりは仕方ない、人には向き不向きがある。
「今からポムポムの驚く顔が目に浮かぶよ」
「わー、それは楽しみですー」
……まるで楽しみじゃないな?
「ねぇポムポム」
「はいポムポム」
「…………」
忘れてた、不用意に呼び止めてはいけない、しっかりと要件まで伝えなくては。
「ポムポムはもうちょっと、こう……感情的なものを表してもいいと思うよ、興味が無いみたいだよ?」
加えてその間延びした話し方も拍車をかけている。
それさえなければ結構、リリアンと似ているのではないか?もちろん話し方だけだけど。
「実際にー、結構どうでもいいんですよー」
意外な答えだ。それならなぜドラゴン退治に付き合ってくれてるのかとか、聞きたいことはいっぱいあるけど……
今聞いても多分答えは『え、困っている人がいるなら助ける、当たり前じゃないですかー』だろう。
なかなかいい言葉だ、今度使わせてもらおう。
「今はポムポムの話しよりもー、セツナの話が聞きたいですー」
なるほどね。実はあたしも話したくて仕方がなかったんだ、最高のアイデアを。
「こう、風をね、剣にね、纏わせる!」
「え」
ポムポムが固まる、おそらく次の言葉は。
『えぇー!凄いじゃないですかー!セツナは天才ですー!』というあたりだろう。
実際にはポムポムがそんなハイテンションな答え方をするとは思わないが、そのくらいの驚きがあってもおかしくない。
「え、セツナってアホなんですね」
「なんで!?」
初めて見るポムポムの真剣な表情。こんな場面で見たくなかった……
ていうか喋り方が変わるレベルで?
「魔術を付与するのって凄く難しいんですよー、セツナは自分の手から離れた独楽を回し続けられるんですかー?」
むぅ……なかなかいい例えじゃないか……
てか独楽とかあるんだ、今更か。
「えっと……じゃあ肉体強化とか?『真・セツナドライブ』みたいな」
仕方なく第2案に切り替えてく、あたしはそればっかりだなぁ。
「それも現実的じゃないですねー。魔力が少ないというのは水を入れる器が小さいようなものでー、全身に纏うのは注ぎ口を増やすようなもんですよー。セツナ、干からびますねー」
「…………」
唖然。いや自分のどうにもならないっぷりだけじゃなくて、ポムポムがまるで先生みたいに教えてくれることだ。
「詳しいね、正直意外かも」
「そこそこに失礼ですねー、ポムポムもここの生徒なんですよー」
相変わらず声からは感情を読み取れないけど、なんだが得意げなのは分かる。
人は見かけによらない、アホっぽい格好に騙されてはいけない。
「んー?『セツナドライブ』てなんですー?」
おや、すっかりみんな知ってるものだと。
この際しっかりと説明しておこう、カクカクシカジカ、一通り話しておく。
「…………え、ダサっ」
協力者が敵に変わった瞬間だった。
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