第61話 前略、成長と自己紹介と

「そうだ、刀とかどうかな!」


「まだ言ってるんですか」


 呆れ気味のリリアンの声であたしの思いつきは今日も却下される、いつもの事だ。


 完璧に思えた答えもリリアンのお気に召さなかったらしく、あれから数日は追いかけ回された。


「諦めきれないんだよ、それに刀って珍しくない?」


 今は剣しか使わせてもらえないので、その中で格好良くて強い武器が欲しいのである。


「あと、あたしの必殺技とも相性よさそう!『セツナドライブ』!近づいて、斬る!」


 頭の中のイメージを行動で見せてみる。

 飛ぶふり、刀を抜くふり。うん、格好良い。


「あなたはブーツで飛んでいるだけでしょう。抜刀は普通、むしろ遅いのでは?」


 いつものように、振り返らずに淡々と話すリリアン。

 確かにそうだ、あたしは速くなったつもりでもその全てのスキルが足に集まってる。

 その副作用で、多少速く動けるに過ぎないのだ。


「そうでした……」


 うなだれる。いろいろあってあたしは今なら少しだけ自分の力で飛べる。

 そんな必要はない。わかっていてもちょっとだけ焦る、早く自分だけで飛んでみたい。

 その方が、きっと誰かの為になる。


「まったく、少し力をつけても頭は弱いままですね」


「ちょっと失礼じゃないかな!?」


 急に罵倒されて傷つく、ガラスのハートが。

 

 ……んん?力をつけたって?

 なんだかんだいっても、少しはリリアンなりに認めてくれてるんだね。


「そうだ、あたしさ、いいペースで成長してると思わない?」


 実際そう思う。死にかけてばっかりだけど、その度に成長した自覚がある。

 答えが欲しくて身を乗り出す。


「近いです」


 グイッ、と押し戻される、顔にあたる手がひんやりしてて気持ちいい。

 あ、目に指が。あの、痛いです、前が見えないです。


「ふむ……」


 また考え込むリリアン、少し間をおいて。


「いいペースどころか異常です。普通の人間はそんな簡単に、戦えるようにはなりません」


 意外な答えだ、てっきり調子にのるな、みたいな事を言われるものだと。


「うーん?特訓のおかげかな?」


 背中のカゴ。8割ほどの石は今日もあたしを鍛える。体つきが変わった気はしない、というか変わってない。

 元の世界からここまで特に太っても痩せてもないし、筋肉やらなんやらがついた気もしない。


「そもそも、それを背負って動けるのがおかしいです」


「え!?」


 あたしのカゴを指差して言う。

 このメイドは何を言っているんだ、自分で背負わせておいて。


「あなたは何なんですか?」


 なんだか前にも聞かれたような気がする。

 よし、仲良くなった今、改めて答えよう。


「名前は時浦刹那……セツナでいいよ。16歳、身長は3年前から156cmで、体重はプリン3個分。好きな食べ物もプリンだから、ネオスティアにもあってよかったよ、それから趣味は映画で特技は……」


 言ってる途中、自分の名前に違和感を覚える、ネオスティアにきてから『セツナ』と呼ばれすぎた。

 時浦家の長女にあるまじきだ、反省。


「そういう意味で聞いたのではありません、ですが……」


 まぁ、知ってたよ、言ってみただけだ。


「プリン以外の好物は?それと嫌いな食べ物、それから前に聞けなかった特技も聞いておきましょう、一応」


 おや、食いついた、なら話そうか、2人旅だし仲良く行こう。


 あたしは、甘いもの以外なら味の濃いものも好きだと伝えた、嫌いな食べ物は寒天、あと特技と言うのもあれだが身体が柔らかいと。


 友達のように、そんな他愛もない会話を続けながら、目的地を目指す。

 『アロロア』はもう遠くない。

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