第54話 前略、決着と告白と

「あ、おはようございます」


「……負けたのか、私は」


 あたしの渾身の頭突きを受けたアニキさんは5分間ほど眠り、ゆっくりと目を覚ました。


「負けた私はどうすればいい?この街を潰すのだろう?」


 そんなの……決まってる。


「えっと……わかんないです」


「はぁ?」


 決まってなかった。アニキさんから聞いたことのない声が溢れる。


「待ってくれ、君はこの街が気に入らない。それで潰そうとしたんじゃないのか?」


「気に入らないのは事実ですけど、潰すってまでは……」

 

 アニキさんは起き上がって、あたしに驚いたような目を向ける。

 あたしとしてはただちょっと考え直してほしい、それだけだ。


「そんな事の為にお互い、こんなにボロボロになるまで戦ったのか?」


「まぁ、そうなりますね」


「そんな事を言う為に、この『テンカ』の要塞を爆破までしたのか?」


「まぁ、そうなっちゃいますね」


 マズい、ここだけ切り抜くとあたしの頭が足りないみたいだぞ。

 いろいろ考えてこうなったんだ、信じてほしい。


 お互い、しばらく沈黙。


「ぷっ」


 そのまま、どちらからとなく吹き出し、笑う。

 その声はだんだんに大きくなり、澄みきった青空に響いた。


「久しぶりにこんなに笑わせてもらった。私もまだまだ視野が狭い」


「違いますよ。視野が狭いんじゃなくて、世界が広いんです」


 たまにあたしみたいなのも降ってきますからね。

 ネオスティアは不思議で広い、だから自分で見て回れないのが嫌なのかな?

 

 ここまでやって、あたしの中にそんな気持ちがあるのに気づく。

 なるほど、それは負けられない。


「疑問があるのだが」


「んん?なんでしょう?」


 そこまで言って思い当たる、やっぱり爆破はマズかったか……


「なぜ最初しか使わなかったんだ?その……君の必殺技を……」

  

 急に歯切れの悪いのアニキさん。

 そうですか、そんなにあたしの必殺技は恥ずかしくてダサいですか、口に出したくないほどに。

 許しましょう、勝者の余裕ってやつです。


「実は自分の力だけで飛んでるわけじゃないんです、ちょいと特別なブーツを履いてまして」


 ヒョイ、っと足を上げてみる。それからブーツの性能と、1日に2回しか飛べない事を伝える。

 それと爆破の際に1回使った事も。

  

 それを聞いたアニキさんは、肩をすくめて。


「すると私はずっと、くるはずのないものを、警戒し続けていたわけか……」


「結果だけ見ればそうなりますね」


 だが実際に、万全の状態で戦ったらあと1回使えたんだ。当然の警戒だろう。


「いつかは自分の力だけで飛びたいです、その方が遠くまで手が届きますから」


 この街での成長で少しだけ飛べるようになった。これからの期待と目指す目標を伝える。

 胸を張って言う、少しだけついた自信をそえて。


「飛べるさ、負けた私が保証しよう」


 嬉しい言葉と共にアニキさんは立ち上がって、あたしに手を差し出す。


「考え直そう、この街を。もう私は強いなんて言えないからな」


「何を言ってるんですか、強かったです。あたしよりも、ただ……」


 その手を握り返して、答える。自分でこんなこと言うのは、ちょっと恥ずかしいな……


「今回はちょっとだけ、あたしの方が強かったんです、あたしの思いの方が」


 やっぱり恥ずかしい、でも勝因はそこだと思う。

 心、信念、気持ち、思い、いろいろ例えはあるけど思いがしっくりとくる。


「おーーい!セツナーー!」


 少し遠くからギンが走ってくる、手を振りながら、あたしの近くまで。


「どうしたの?ボッコボコじゃん」


 見れば友達は別れた時よりも傷だらけだった。あたしも人のこと言えないけどさ。


「そりゃ、セツナもだろ、まぁ男同士いろいろあんだよ」


 なるほどね、あたしにはわからない世界だけど。そのやりきった表情を見るに必要なことなのだろう。

 

「それでよ、お互いボロボロなのに言うことじゃねぇと思うんだが……」


 ギンは鼻を掻きながら、なんだか言いづらそうにしている。

 これは……フリかな?


「ごめん、告白なら後にして、疲れたよ」


「だからちげぇよ!お前それ何回目だよ!」


 3回目だ、まだまだ使おう。


「よし!言うぞ!」


 気持ちはほぐれたみたい、さてなんの話だろう?


「セツナ!俺と戦ってくれ!」


 あたしが今しがた大きな戦いを終えた事を知ってるはずなのに。空気の読めないギンは、とても真剣な表情であたしに言った。

 多分、この金髪の中身はスッカスカなんだろう。

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