第55話 前略、弟分と青春と
「セツナ!俺と戦ってくれ!」
多分、この金髪の中身はスッカスカなんだろう。
「お前、また失礼な事考えてないか?」
ギンは訝しげな顔で腰を落とし、あたしを見上げる。完全にヤンキーだった。下っ端のね。
「多分、この金髪の中身はスッカスカなんだろう」
「やっぱり考えてやがったな!」
「当たり前でしょ!このバカ!金髪!あたしボロボロ!」
大体自分たちのボスがやられたのに……いや、やられたからか?それとも爆破したから?
う〜ん、少し唸る、首を傾げて。
「金髪は悪くねぇだろ!サイコーにイカすだろ!」
少しでもそんな風に考えたあたしがバカだった。ギンはなにも考えてもいない。
「……頼むよ、セツナ」
急に真剣な顔つきになってあたしを見る。その目には、今までのふざけた感情は宿っていない。
「……せめて理由を聞かせてよ」
何も理由なしに戦えない、あたしも真剣に向き合う。
「理由……理由か……わっかんねぇ」
「はぁ?」
ギンは、頭をポリポリと掻きながら答える。本当によくわかってないように。
あたしは、少し前のアニキさんみたいな声を出す、きっとアニキさんもこんな気持ちだったんだろう。
コイツは何を言ってるんだ、と。
「俺さ、いろいろ考え直したんだよ、でも答えがでなくてさ」
そうだね、地下で別れて話し合ってきたんだよね。
なぜかボロボロになって帰ってきたけど。
「セツナ、お前の背中を追っていいのか、試させてくれよ」
そういえば、地下ではそんな事を言った。
それならあたしは、その責任を取るべきだろう。
「それによ!もやもやがいっぱいで、今はなんだか暴れたいんだよ!一緒に発散しようぜ!」
友達だろ!傷だらけの顔でギンが笑う。
仕方がないね、あたしも釣られて笑う。
それに……
「それに、そんな理由で戦うってものも、なんだか青春だね!」
うん、このよくわからなくてぶつかり合う。青春って言葉がピッタリな気がする。
それがもやもやを払ってくれることを祈って。
なんだろうな、ギンとは気が合う。そういえば元の世界では男友達も多かった気がする。
「アニキ!俺!自分のやりたいことやってみます!」
あたしの答えを受けて、ギンはアニキさんに近寄り、断りを入れる。
アニキさんはいろいろと知っている、ギンがこの街に不満を持ってたことも。それでも。
やれやれ、といった表情で。
仕方ない、といった表情で。
手のかかる弟分を見送るように、言葉を紡いだ。
「行ってこい。ただ1つ、彼女は強かった」
「はい!俺、勝ってきます!」
アニキさんはギンの胸に拳を当てる、それは激励のように、何かを託すように。
勝負の為に移動することにした、ここは破片が飛び散っていて危ないからね。
「そんじゃあ、始めるか!」
「そうだね、始めようか。しっかりと背中をおいたまえ」
場所は校庭。いや校庭じゃないかもしれないが、円状の学校の中心部。
そこに2人で、向かい合うように立っている。
「さぁな、追うかどうかはこの勝負次第だ」
「たしかに」
短く返す、ギンは木刀を構える。
あたしも木刀を装備変更で取り出す、他の武器はヒビの入った片手剣しかない。
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
いつもの掛け声で戦いが、泥臭い青春が始まった。
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