第53話 前略、嵐と勝利と
剣撃がやまない、あたしは振るう。刃のない剣を。
鉄拳はやまない、アニキさんの信念と正義の拳は。
「なんだか、楽しいですね!」
押されてる、前と同じく、でも振るう。
諦めない、前とは違う、だから振るう。
「私は真剣なんだが」
あたしもです!打つ、受ける、躱す。そんなキレイな流れじゃない。
打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ。
お互いに止まらない、止まれない。押されてる分は、装備変更で補う。
【ウエポンチェンジ2】に変わってから持ち替えがさらに早くなった気がする。
もとからまばたきよりも早かったけど、それよりも
それで硬直を消せる身としてはありがたい、これなら本当はまだまだ弱くても戦える!
少しづつアニキさんの拳はあたしを捉え始める。
少しづつあたしの剣はアニキさんに届き始める。
お互いに知ってる、それぞれの必殺を
アニキさんはあたしに距離をとらせない。
あたしだってアニキさんに構えさせない。
斬る、その懐に一太刀入れる、何食わぬ顔。
打つ、それを受けた剣が軋み、ひびが入る。
蹴る、大剣に持ち替えてキッチリ受ける、笑う。
突く、スキが見えたのでカウンター、驚かせる。
笑う、笑う、傷つきながら、わかり合いながら。
「やってくれる……せっかくの下ろし立てが台無しだ」
「やってくれましたね、せっかく直してもらったのに」
というか、あたしは武器を交換しながら戦っているけど、ずっと打ち合ってるアニキさんの拳はいったいなんなんだ。
「そろそろ終わらそう、まだこいつは破られてない」
「そろそろ終わらしましょう、今からそれを破って」
たしか『百八神拳』とか言ってたっけ?前回は8発目くらいで意識が飛んだけど今度は捌く!
……結構ダサくない?『百八神拳』
武器は両手剣にする。最初が肝心。
「『百八神拳』」
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
繰り出される右の拳。対応する両手剣。
繰り出される左の拳。対応する双剣の左。
右!左!右!左!右!右!左!右!左!右!左!右!左!右!左!右!左!右!左!右!左!右!
加速する百八の拳。加速するあたしの剣。
耐える!耐える!耐える!打つ!打つ!打つ!
考えるな、考えろ、感じるな、感じろ、見るな、見ろ、動くな、動け、諦めるな!諦めるな!
頭の中はめちゃくちゃで心臓もバクバクだ。
「でも、それでいい!それが心地いい!」
まだ!速く!速く!速く!速く!速く!速く!
あぁ、最初にこの技に破れた時とはまるで違う、心が!感覚が!本能が!
あたしの背中を押す。ここで下がるなって。
身体が、技術が、スキルが、あたしを支える。
真正面から勝ち取れと!!!
しばらく……といっても数十秒間その流れに身を任せる。
意識が完全に戻った時は、108番目の拳をあたしの剣が弾いた瞬間だった。
「なん……だと……」
そのセリフもお決まりだ。一瞬、アニキさんの動きが止まる。
「もう終わりですか」
耐えた、捌いた、弾いた。
さぁ、ここからはあたしの時間だ。
「あたしはまだまだ止まらないぞ!!!」
メインは双剣。苦手意識はあるけど1度の装備変更で2本持てるのは偉い。
振る、変える、振る、変える、振る、変える
反応は許さない、反応しても叩き潰す!
右!左!突!左!打!右!突!左!右!左!右!左!右!突!右!打!左!右!斬!斬!左!打!右!左!右!左!斬!突!左!左!左!斬!左!右!打!打!左!右!右!左!右!斬!右!左!右!打!左!右!左!右!突!右!左!斬!右!左!右!斬!左!右!右!左!打!右!打!右!右!斬!右!左!右!左!突!右!左!右!左!
止まらない止まらない止まらない!
アニキさんの拳を受け続けた剣が軋み、ひびが入り、亀裂が走る。
それでもこの嵐を止めたくない!!!
何度目か、何十回目か、何百回目か、双剣はもう折れた片手剣と何かの柄、両手剣は根本から折れ、片手剣にもひびが入ってる。
あたしの時間もそろそろ終わりだ。
「とどめ……です!」
もうあたしもボロボロだ、そろそろ終わらせよう。
装備変更、亀裂の入った大剣へ。ここ1番の大振りで!!!
倒した!……と思ったんだけど……
「し、しぶとい!」
あたしの全力を受けてなお、アニキさんは立っていた。
まるで諦めない主人公のように。
「まだ、私は……!」
とんでもない執念だ、あたしも他の人からみたらこんな感じなのかな?
でも……!
「今回はあたしの勝ちです!」
ボロボロのスーツの首を掴む!実は得意技なんだよね!
「頭突き!!!」
ゆっくりと、アニキさんの身体が倒れる。
この場に立っているのはあたし1人だけ。泥臭くとも、誰の目からみてもあたしの勝利だった。
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