第30話 前略、お話しとおはようと

 あれから何度目かの夜を迎えて、着実に目的地へと近づいてきている。

 リリアンの話しでは、明日の昼くらいには『テンカ』につくらしい。


 今日もお疲れ様。あたしは腰をおろしながら、連日の特訓により酷使され続ける自分の肉体に語りかける。

 今日も生きている喜びを噛み締めよう。


「火は見ておくので先に寝てください」


 食事を済ませる。道中の簡単な調理はもちろんあたしの仕事だ。


 手持ち無沙汰なあたしにリリアンがいつものセリフ。

 こうして、毎日あたしより後に眠っているらしい。

 ……そういえば、リリアンが寝てるところ見たことないな、いつもあたしより先に起きてるし。


「少しだけお話ししない?なんだか眠れなくてさ」


 本当は結構眠いけど。何気ない会話でリリアンが少しでも眠りやすかったらいいな。


「では……少しだけ」


 よかった。前みたいにバッサリじゃなくて。さて、何から話そうかな?


「あたし、元の世界では陸上部でさ……えっと、走ったり飛んだりする集まりみたいな?」


 あたしの人格形成に関わった話しはできないけど、これくらいの思い出話なら許されるだろう。


「そういった訓練をする集まりでしょうか、やはり身を守る為に?」


 ロリコンやらなにやら、いろいろな言葉を知ってるリリアンも陸上部は知らないらしい。そりゃそうか。


「あたしの世界には命をかけた戦いなんてなくてさ、それも平和的に争う為の競技かな?」


 成績はどうだっけな、あまり厳しい部活ではなかったと思う。ネオスティアに来てから、衝撃的な事が多すぎて少しだけ記憶が薄れている。


 友達や家族は元気にしているだろうか、きっと心配をかけてしまってる。


 それからしばらくの間、2人でいろいろな事を話した。あたしはプリンが好きなこと、リリアンも甘いものは好きなこと。


 辛いものは苦手だと言ったら、美味しければなんでもいいと返ってきた。


 意外と料理は得意だということ、知ってます。と嬉しい返事。今度はちゃんと作ったものも食べてみたいとも。


「ごめん、眠くなってきちゃった」


 リリアンが眠るまで頑張ろうと思ったけど限界だ、瞼を擦る。今夜も先に寝させてもらおう。


「はい、おやすみなさい」


「うん、おやすみなさい」


 本当に仲良くなれたと思う。前はこんな会話をしなかった。


 薄れる意識の中、あたしはさっきまでの会話を思い出しながら眠った。


「おはようございます」


「うぉっ!お、おはよう……」


 朝。目を覚ますと、リリアンがあたしを見下ろしながら立っていた。

 少し前から、たびたびあったけど何度みてもなれない。


「さぁ行きましょう。今日中には目的地です」


「りょーかい」


 支度して立ち上がる、今日もよろしくね。


 森を抜け、視界に街が入ってくる、どうやらあれが鍛冶師がいる街『テンカ』だ。


「んん?」


 目を凝らせば、入口の辺りで人が……戦ってる!


 それにあの金髪は……


「ごめんリリアン!先に行くよ!」


「それは構いませんが、あの金髪は知り合いですか?」


 やっぱり見えるみたい、リリアンも目がいい。


「うん!友達!」


 なんだかただならぬ雰囲気を感じ、あたしは友達の為に走ることにした。

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