第31話 前略、木刀と犯罪者と

「久しぶり、ギン。手を貸そうか?」


「セツナ!?なんでお前……いや、ありがてぇ!」


 ギンの背後から刀を振り降ろそうとしていた女の子の間に滑り込み、それを受け止める。

 なかなか主人公ポイントの高い登場だった。でも……


「あー、痴話喧嘩だったり?意外と隅に置けないねぇ」


「違うからな!?」

 

 近づいて見れば、女の子たちは、なぜだか白いワンピース姿、可愛らしいけど戦いにくいだろう。

 そしてそんな女の子3人に襲われる状況とはいったいなんなのだろう。大体の場合、素直に謝った方がいい。


「うーん?女の敵かぁ?」


 勢いで助けにきたけど間違いだったかな?


「いやいや!命の危機は助けてくれよ!」 


「仕方ない、大体の場合3対1は卑怯だからね。」


 恩にきるぜ!嬉しそうなギン。あたしも双剣に持ち変える。ギンは向き直り木刀を構える。

 ………ちょっと待って木刀?


「ねぇギン、それはしまって武器を構えたら?」


 流石に鉄製の武器に、木刀で挑むのはチャレンジャーすぎないかな?それがとても硬いとしても。


「あ?なに言ってんだ?俺の武器はこの木刀だけだぞ」


「雑魚だ!雑魚がいる!」


 まるで当たり前のように、木刀を回す。

 なに言ってんだ、はこっちのセリフだ!駄目だこいつ!

 いくら武器が全てじゃないとしても木刀はない!それで3対1とか大分おかしい!


「雑魚だとぉ!『テンカ』の男は木刀って決まってんだよ!」


「嘘付けぇ!!!」


 やっぱり、ギンたちの服装や言動、聞いた話しをまとめると不良学園しか連想できない!


「お前……そいつの味方するのか?同じ女なのに」


 んん?いきなりなにを聞いてくるんだ?

 女なのにってどういうことだ?


 頭の中にいくつもの疑問符が浮かび、それを解消するべく質問をしようとした時……


「セツナ!聞くな!こいつ等は脱走した犯罪者だ!」


 ギンの叫び声、犯罪者!?


「犯罪者だと!お前らが……!」


 3人の中の2人がギンに向かって走り出す、仕方ない!


 双剣から両手剣へ装備変更。振り回して距離を取る。すぐさま足の装備変更。


「『セツナドライブ』!」


 急加速、死角からギンに向かった2人に斬りかかる。

 体制を崩し、倒れかけたところを丁寧に倒していく。


 あと1人!


「クソ!よくも!」


 残った女の子が杖を構える。それに連動して、明らかに高まっていく周囲の温度。

 これ……マズくない?


「もしかして魔法がつかえちゃったり?ギン!任せた!」


「俺だって無理だよ!セツナなんとかしろ!」


 お互いに対処を押し付け合う。こんな金髪助けに来なけりゃよかった!


「死ねぇ!」


「「やばぁーーーい!!」」


 ちょっと待って!こんなギャグみたいな死に方は嫌だよ!!!


 ………………死んでない?


「よく頑張ったな、2人とも」


「「タイザンさん!」」


 タイザンさんだった。あたし達の間に入り、炎を防いでる。素手で。


「あ、熱くないの?」


「おう、セツナ。久しぶりだな、いや、熱いが気合だ」


「「気合すげー!」」


 またハモるあたしとギン。みれば魔力を使い切った女の子をタイザンさんはすでに確保していた。これにて一件落着かな?


「それで?どの娘が本命なの?」


「だからちげぇって!」


 それもそうか、ギンはそこまでモテないだろう。


「お前、今失礼なこと考えてないか?」


 そんな事はない。


「まぁでも手伝ってもらって悪かったなセツナ」


 なんてことはない、友達の為だしね。


「お前もよくやったなギン」


 タイザンさんはギンを褒める、照れくさそうに笑ってる。うん、助けてよかった。


「セツナよ、助けてもらったとの悪いんだが今『テンカ』の治安が乱れていてな。観光ならまた別の機会にしてもらえねぇか?」


 タイザンさん熊のような体躯を縮めて、すまなそうな顔をして言う。

 それは怖いけどこっちにも事情がある。


「そうか、武器の修理を……」


 しばらく考え込んでタイザンさんは迷いながらも。


「ギン!案内してやんな、それと武器を直したらしっかり見送ってやんな!」


 了解ッス!ギンの元気な返事が耳に心地よい。 


「ありがとう、タイザンさん」


 おう!1言だけ残してタイザンさんは先に街の中心へ歩いていった。


 タイザンさんの迷ったような表情は気になったけど、あたしたちもリリアンを待ってから、街へ向かうことにした。

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