第29話 前略、盾と奇襲と

「よいしょっ!」


 襲い来る魔物たちを、切り払いながらあたしたちは、目的地に歩みを進める。

 今日の魔物は……バクバクではなく鳥?孔雀のような魔物だった。


「ふむ…………やはり見たことのない魔物ですね」


 リリアンは考え込みながら言う、また新種?

 あたしは新種かバクバクしか見た事がない、異世界というならもっと魔物に種類があると思っていたのだけど。

 まぁ、そういうものか。別に異世界に詳しくないし。


「新種って珍しいの?」

 

 それでも少しだけ気になったので聞いてみた、前にリリアンはおおよそネオスティアの事なら知ってると言っていた。


「あなたの気にする事ではありません」


 残念だ。でもリリアンが言うなら気にしないでいいか、多分これ以上聞いても教えてくれないだろうし。


「もう普通の魔物なら問題ないみたいですね。対人の訓練でもしますか?」


 リリアンからの提案。対人……あまりいい響きではない。

 ただ、人と戦うのは抵抗がある。


「うーん。遠慮しようかな?できれば話し合いで済ませたいよ」


 本心だ、別にあたしは戦いが好きなわけではない。

 ただ、あたしが頑張りが誰かのためになるならと剣を振るうのだ。


「あなたは、人に勝った経験がないでしょう。このまま負け続けるのですか?」


 なんだろう、いつもの淡々とした口調どけど、どことなく心配?を感じる。勘違いかな?

 まぁどちらにせよ。


「負け続けてもいいよ。あたしが傷ついて丸く収まるなら」


 これも本心だ。勘違いで戦っても、あたしが倒れるくらいでそれが収まるのなら。


「強情な人ですね。では、こう言いましょう」


 呆れたため息、リリアンは改めて言う。


「人と戦わなければ守れないものもあるのでは?今、私が強大な敵に襲われたら、あなたはどうするつもりですか」


 なるほど、リリアンはこう言いたいのか。強くなければ守れないものもあると。真理だ。


 それからその例えだと、リリアンを襲う愚か者を助ける為に、剣を抜くことになるだろう。命は大事に。


「もちろん、戦うよ。それはあたしの手が届くことだから」


「それでいいです」


 はい、と移動中は没収されているスキルボードを渡される。そのままリリアンが指差すマスをタップする。


「スキルポイント20を消費して【盾-D】を習得しました」


 いつものポーン、という気の抜けた音とともに流れるアナウンス。装備が増えるのは久しぶりだった。


「おぉ〜盾か!」


「そろそろ持ってもいい頃合いでしょう」


 今回は天使が配達に来るわけでもなく、ただ盾がそこにあった。意外にしっかりとした鉄製の盾はそこにあるだけで安心感があった。


 さぁ慣れましょうか。悪魔のような囁き、嫌な予感がする……


「ウソぉ!」


 振り返ると、すぐさま繰り出されるリリアンの拳に、あたしは盾を構える。


 防いでも少し吹き飛ばされる。

 待って!こっちはかなりの量の石を背負ってるんだけど!?


 日が暮れ、今日のキャンプを作る頃には、新品だった盾は、リリアンの拳に鍛えられ、あたしの手にしっかりと馴染んでいた。


 ……そういえば片手剣と盾!で少しは主人公っぽいかなと考えたけど【ウエポンチェンジ】で同時装備はできないみたい。

 なかなか融通のきかないスキルだった。

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